「幸村君・・・っ! 好きです! 私と付き合って下さいっ!」
真っ赤な顔で、頭を下げた少女。
幸村精市は彼女を見つめ、ふっと表情を緩ませた。
けれどその唇から語られるのは、拒絶の言葉。
「ごめん」
顔を上げた少女の瞳がじんわりと涙で潤み始める。
それでも幸村は穏やかな声で、はっきりと想いを綴る。
「好きな子がいるんだ。もう・・・・・・三年も前から」





長期計画ラブ・ストーリー





部活前のひととき、立海大付属の誇りでもある黄土色のジャージに着替えていた幸村は、突如後ろから飛びつかれてバランスを崩した。
踏みとどまった肩口から香るのは甘い菓子の匂い。それだけで誰か分かって笑みを浮かべる。
「聞いたぞ、幸村! おまえ七組の古村から告白されたんだって!?」
丸井の興味津々といった感じの声音に、同じく着替えていた他の部員たちも振り返る。
「マジかよ! 七組の古村って女テニのだろ!?」
「やりよるのう、さすが幸村」
「みなさん、他人のプライベートを軽々しく噂するのはよくないですよ」
ジャッカルが驚き、仁王はにやりと笑みを浮かべる。
柳生が正論で諭したが、丸井はそれくらいで止まらない。幸村にのしかかったまま遠慮なく聞いてくる。
「で、で? 何て答えたんだよ?」
「・・・申し訳ないけれど、お断りしたよ」
苦笑を浮かべながらの幸村の言葉に、丸井はこれまた遠慮なく「もったいねー!」と感想を述べた。
言葉にはしないけれどジャッカルも似たような気持ちなのだろう。複雑そうな顔の彼の横で、ジャージに着替え終わった柳がふむ、と一つ頷いて首を傾げる。
「しかし幸村は、今まで受けた告白をすべて断っているな。誰か意中の相手でもいるのか?」
「あぁ・・・・・・片思いをしているんだ。もう三年も前から」
さらりと穏やかな笑顔で言われ、尋ねた柳はもとより聞いていた面々も思わず目を丸くした。
そんな彼らににこりと笑みを向け、幸村はラケットを手に取る。
「さぁ、もう始まる時間だよ」
部室の外からは、真田の集合をかける怒鳴り声が聞こえていた。



柔軟とランニングを終え、ラリーの練習に入る。
ネットの向かいにいる真田が構えたのを確認し、幸村は手の中でボールを転がした。
見上げれば気持ちの良い青空が広がっていて、自然と唇が緩んだ。
同じ空の下、東京にいる彼女は元気だろうか。
ちゃん・・・・・・無理してないといいけれど」
男の振りをしてテニス部に入部している時点で無茶はしているだろうけれど、出来れば彼女が望むものを手に入れられるように。
優しいまなざしで祈りながら、幸村はボールを放った。
青い空に黄色が映える。



出来れば彼女が『彼』であるうちに、一度試合をしたいな。
そんな幸村の願いが叶うかどうかは、まだ誰も知らない。





中二設定。好きだから、幸村君は黙ってるのです。
2006年4月30日