彼らの出会いは七年前。李潤慶が15歳、が14歳のときに遡る。
某駅前で知り合い、多少の会話を交わしたとはいえ、それは人生においてすれ違いに等しい出会いだった。
しかし一期一会とは良く言ったもの。人生というのは何があるか分からない。
そして何よりは彼女の望まざる相手から迷惑なくらい多種多様な愛情を注がれるという、本人にしてみればとても悲惨な宿命を背負っていたのである。
ザ・ハリケーン!
「!」
講義を終え、いざ家に帰ろうとしたは校門で横から声をかけられ振り向いた。
誰か認識した瞬間に思わず顔をひきつらせたのは、相手に対して失礼かもしれない。
けれど止められない。つんつんした髪型の彼はその従弟よりワンランク上、の中ではレッドゾーンの要注意人物なのだ。
「ゆ、潤慶・・・・・・っ!」
「久しぶり! 、ちょっと会わない間にすっごく綺麗になったね。もちろん元々美人だったけど!」
「それが出会ってから五年間、人を男だと思い込んでた奴の言う台詞か!? つーか何でここにいんの!? サッカーは!?」
「今日はお休み。急にに会いたくなっちゃってさ」
来ちゃった、と小首を傾げる様子は22歳の男のくせに何故か可愛らしい。
その証拠に同じく帰宅するらしい女子学生たちが歓声を挙げている。
男子学生の中には潤慶の正体に気づいた者も出てきたらしく、校門はにわかに騒然とし始めた。
はそれに気づき、潤慶の腕をがしっと掴むと一気にダッシュして大学から離れる。
「あははっ! はやーい!」
つられて走っている潤慶の笑い声に、はやはり己の対人運を恨んだ。ガッデムと呟いた彼女はおそらく正しい。
中学・高校のときは紛れもない美少年・美青年だったも、大学に入って髪を伸ばし、うっすらとメイクをするようになると性別を間違われることも、ナンパ仲間として跡部に引きずり回されることもなくなった。
むしろ今では逆に、跡部がを女らしく着飾らせて連れ歩き、街の男どもからうらやみの目で見られることを楽しんでいるくらいである。
土台は元々美形なこともあり、今のは見事に「綺麗なお姉さん」だった。
――――――しかし数年で人の中身は大して変わらないし、の場合、対人運も悪化はすれど良くはならない。
電車は面倒だからとタクシーを止めた潤慶に無理やり押し込まれた車内で、は必死で携帯を耳に押し当てていた。
五回目のコールで相手が出る。
『はい、もしもし』
「かかかかかか郭っ!?」
『何、。もうすぐ試合だから手短に言って』
「潤慶がいるんだけど!」
『・・・・・・・・・』
電話越し、相手が沈黙した。略しすぎたか、と発言を振り返る余裕すら今のにはない。
はこの郭英士と、潤慶つながりで知り合った。単体でいるとそこそこに厄介―――この場合、度合いは相手からに降りかけられる愛情(それは精神疲労とイコールである)の量によって判断される―――な相手だが、潤慶と比較すれば彼はまだイエローゾーンだ。むしろ潤慶を止めることの出来る数少ない人物。ストッパー。
故に今回もどうにかしてもらいたく電話したのだが、約一分間の沈黙の後、郭はクールに転嫁した。
『今日、柏で一馬と結人が対戦してる。デーゲームだったからもう暇だろうし、そっち当たって』
「そんな投げやりな! 従兄弟じゃん!」
『一応ユンもプロだし、次の試合までには帰るでしょ。それじゃよろしく』
「え、ちょっと待っ―――・・・・・・!」
電話はこれまたクールにぷつっと切れた。
見事な放置のされ方には思わず明後日の方を眺めてしまったが、指はさくさくっと電話帳から次のターゲットを選び出す。
ちなみに次の彼らはにとってグリーンゾーンだ。注意も警戒も精神疲労もない普通の友達。加えて言えば不二裕太などの心友はゴールドゾーンに分類される。
やはり五コール目で出たのは本来の携帯の持ち主ではなかったが、にとって郭を含めた彼らはセットだ。そのうちの誰が出ようと驚かない。
『もしもしー? ひっさしぶりー! 何、一馬に用事?』
「ゆゆゆゆゆゆ結人! いやもう結人でいいから! つーか二人にお願いがっ!」
『何だよ、そんな切羽詰まって』
「実は!」
潤慶が来てるんです助けて下さい。がそう懇願しようとした瞬間、するりと手のひらから携帯が抜き取られた。
思わず振り向けば、そこには不二周助によく似た、それでいて鳳長一郎にもよく似た、二人を足し合わせたかのように問答無用かつ無邪気な笑顔を浮かべている潤慶がいて。
「あ、結人? 久しぶり―。今夜の家で鍋パーティーするから必ず来てね! 一馬もよろしくー」
告げるだけ告げてぶちっと通話を切る彼に、は血縁というものを感じた。
ファンが見たら卒倒するだろう満面の顔で潤慶はにこにこ笑う。
「今日は朝まで盛り上がろうね!」
久しぶりにのヴァイオリンが聞きたいなぁ、なんていけしゃあしゃあと言ってくれちゃう潤慶は間違いない。
にとって最も要注意のレッドゾーンに、マイシートを年間確保している人物だった。
結局、大学に入り一人暮らしを始めたのマンションでは予告通り鍋パーティーが開かれ。
柏から一時間で車を飛ばしてきた真田と若菜がそれに加わり、最終の新幹線で郭が到着した翌日の早朝には、もはや潤慶以外の三人は疲れ果てて撃沈していた。
そんな彼らに、同じく徹夜で騒いでいたとは思えない爽やかな笑顔を潤慶は向ける。
「それじゃヨンサ、一馬、結人。僕は試合があるから帰るね」
何でおまえはそんなに元気なんだという皆の無言の訴えに答えないまま、潤慶は自然な動作での頬にちゅっと可愛らしい音を立てて唇を落とした。
そしてにっこりと昨日今日の中で最も華やかな笑顔を浮かべる。
「じゃあね、! 今度チケット送るから見に来てね! 飛行機もホテルも最高級を取っておくから!」
またねーと何度も手を降りながら去っていく潤慶をベランダで見送りつつ、ぽつりと真田が呟いた。
「って・・・・・・何でこんなにユンに気に入られてるんだろうな・・・?」
「厄介なのに好かれる星の下に生まれてるからでしょ」
郭の下した結論に、はバタリと崩れ落ちた。若菜の心配そうにかけてくる声も届かない。
「せめて・・・! せめて今度は前もって連絡してから来てくれ・・・・・・っ!」
彼女の夢は小さい。
こうして次も潤慶は予告なく現れ、宣言通りをさらっていくのだった。
主人公は大学生、ユン英かじゅわかはプロサッカー選手です。主人公とユンの出会いは280000hit限定企画でお送りしました。
2006年4年29日