本日分の仕事も終え、は暇だった。
故に彼はこの世界で初めて出来た友人に会いに行くことにした。





今日も僕らは元気です。





「更木、いるー?」
十一番隊は十一番隊でも、執務室のある母屋ではなく鍛錬に使われる道場を尋ねたところに、がどのくらいこの世界に馴染んできたかが見て取れる。
体格のよい猛者ばかりが集まりむさくるしいそこで、一人異空間を繰り広げている綾瀬川弓親が振り向いた。
「隊長なら留守だよ、
「マジで?」
「副隊長と出ていったから、しばらくは帰ってこないね」
「そういや方向音痴だっけ、二人とも」
「あと四刻半はかかるんじゃない? 夕餉までに戻れればいいけど」
「うっわぁ・・・」
思わず漏れた呟きは、友人のことを気の毒に思うと同時に、じゃあどうやって時間を潰そうかと考えるもので。
それを察知したらしい弓親は、道場の真ん中を指さしてこれまた綺麗に笑ってみせる。
「暇なら、一角の相手でもしていかないかい?」
「・・・俺に、あそこで嬉々として百人斬りしてるような奴の相手をしろと?」
「いつも更木隊長と斬りあってる奴の言う台詞じゃないね」
「いや、あれは更木の一方的なじゃれあいで」
「まぁそんなのはどうでもいいけど」
弁解も綺麗に無視をして、弓親はさらりと髪をなびかせる。
こいつは本当に十一番隊員か、とが最近学んだじ常識に照らし合わせていると、道場の中心―――阿鼻叫喚の中心と同等の意味を持つそこに向かって弓親の声がかけられた。
「一角」
振り向いた顔は汗と気合と好戦で満ちていて、あぁこれこそまさに十一番隊員の見本だ、なんては再確認する。
が相手をしてくれるって。暇だから全力で来いだってさ」
「いや、言ってないしそんなこと」
「へぇ・・・更木隊長と互角にやりあうおまえなら、確かに遠慮はいらなそうだな」
「いや、いるから。仲間入りしたばっかの死神には先輩の優しさを示すのが普通だろ?」
「僕ら十一番隊は直接攻撃が基本だけど、はまだ刀に不慣れだし鬼道を使ってもいいよ」
あたかも「優しいだろう?」と言わんばかりの笑みに、は「うわぁ」と呟く。
「鬼道なんざめんどくせぇ。どうせやるなら拳でやろうぜ」
「何言ってんのはおまえだろ、一角。つーか十一番隊は人の話を聞けよ」
「そうだね、たまにはいいかもね。怪我するのは僕じゃないし。二番隊の道場を半壊させた腕前、披露してもらおうかな」
「っしゃ! いくぜ、!」
「よくないけど来い、一角!」
心底面白そうに目をぎらつかせながら斬魄刀を放り投げた一角に、は慣れない草履で歩幅を開き迎撃の構えを取る。
弓親が「開始」と告げた瞬間、二人は激しくぶつかりあった。



「・・・・・・何だこりゃあ」
結局、更木剣八が己の隊舎―――ではなく道場に帰ってきたのは、西の空が茜色に染まる頃だった。
けれども弓親の予想よりは一刻程早い。おそらく戦いを嗅ぎつけたのだろうか、その鼻はさすがだと、ここに誰かがいたのなら言うだろう。
けれど今そうしてツッコミを入れてくれる人物はいなかった。
・・・・・正確に言えば、つっこむほど余裕のある人物がいなかったのだ。
「てめぇ! 治癒しながら戦ってんじゃねぇ! ずるいだろうがっ!」
「持ってる能力を有効活用して何が悪い!? つーか弓親、今の何! 絡め手!?」
「この中じゃ僕が一番不利だからね―――よそ見してると急所貰うよ、一角!」
ぎゃあぎゃあわあわあぴーちくぱーちく。
口が激しく動きながらも互いへの攻撃、そして自身の防御が疎かになることはない。
は器用に自身を回復させながら臨んでいるから良いものの、すでに一角の上半身は擦り傷や打ち身、青あざなどで斑になっているし、弓親も先ほどまでとはうって変わって髪を乱し、その顔には殴られたらしい痕を負っている。
けれど三人とも楽しんでいるのがその目で語られており、多彩な攻め技にも現れていた。
道場の壁際で、どうやら三人に付き合わされて無残にも散ったらしい他の隊員たちが、息を切らせて説明する。
「・・・・・・斑目第三席が、あの新入りと手合わせを始めて・・・」
「それが・・・・・・素手ってことが条件で・・・っ」
「気がついたら綾瀬川第五席も加わってて・・・・」
「もうっ・・・何が何だか・・・」
喋る端から潰れていく。
更木の肩に乗っているやちるは、うらやましそうに唇を尖らせた。
「いいなー三人とも! あたしも混ざりたい」
「やちるは不可! 女子供を殴ると後味が悪い!」
「ひっどーい、ちゃん! 男女差別!」
「―――じゃあ、男ならいいんだな?」
にたり、というような効果音つきで、更木が一歩前に踏み出す。やちるが斬魄刀を受け取り、その肩から飛び降りた。
本日三度目の「うわぁ」はと弓親の声がはもったもので。
「更木も入るんじゃ最初からやってる俺らが不利だし!」
「じゃあ僕、ここで小休止」
「一分だからな、弓親!」
先に戦線を離脱されてか、が悔しそうに言葉を飛ばす。
その間も楽しそうに拳を交わしあっている他二名に溜息を吐き出して。
「おらおらぁ! さっさと来やがれ、!」
一角を壁に叩きつけて振り向いた更木の懐に、瞬歩を使って入り込んだ。



「みんながんばれーっ!」
のんきなやちるの声が、群青に染まり始めた空に響く。
こうして尸魂界は今日も平和な幕を下ろすのだった。





さぁ、主人公は何番隊所属でしょう?
2006年4月24日