アスラン・ザラは悩んでいた。





ハロは見ていた





「ラクスはやはり・・・・・・のことが好きなのだろうか」
呟いた言葉が、作りかけのハロの上に落ちる。
真剣に苦悩しているらしいアスランの右手に握られているのはプラスドライバーで、左手にはピンクのスプレー。
どう考えてもハロ作成中なのだが、進行状況は極めて悪かった。
一時間前からネジ一つ増えていない進行停止中である。
「パーティーやら何やらでに会うと嬉しそうに笑うし、が去ると表情が翳る。やっぱりこれは、好きということなんじゃないだろうか」
悩んではドライバーをペンチに持ちかえる。
だが一向に作業は進まない。
「確かに俺とラクスは婚約者だけれど、それは婚姻統制が元で決められたことだし、もしラクスが解消したいと言うのなら俺は全然構わない」
一人で頷いて、アスランはペンチをカチャカチャと動かした。
ならばちゃんとハロを組み立てれば良いものの、考え中なのが仇になってかペンチの刃先は何も挟んでいない。
「むしろ俺とラクスはよい友人だし、ラクスが幸せになってくれるのなら俺も嬉しい。父さんやシーゲル様には迷惑をかけてしまうけれど、も俺と同じクルーゼ隊の赤なわけだし、プラントの未来を担うエリートとして釣り合いは取れているんじゃないだろうか」
うんうん、と一人で頷くアスランを、作られ途中のハロの目がじっと静かに見上げている。
けれど気づかないアスランは当然か、それとも己の思考に沈んでいるのか。
どちらにせよハロは今もなおネジ一つ増えていない。
「そう、確かに二世代目のコーディネーター出産率は低下しているけれど、何も子供を得るだけが愛な訳じゃない。子供がいないからこそ、いつまでも新婚夫婦のような蜜月を継続することが出来るだろう。それはきっととても幸せなことだ」
もしもハロが喋れたのなら聞いただろう。
おまえはそんなにラクスとを結婚させたいのか、と。
ひいては、そんなにおまえはラクスと結婚したくないのか、と。
しかしハロは喋れなく、アスランは己の思考に耽っている。
握られているペンチは、もはや彼のマイクと化していた。
「ラクスとの結婚はとても幸せなんだ。どうして今までそんなことに気づかなかったんだ、俺は!」
気づかないのが普通であり、そのような考えに発展することが異常である。
しかし今のアスランは通常状態の彼ではなく、何かしらの原因によってトンデいた。有体に言えばイッちゃっていた。
地球連合のパイロットに使用されているγグリフェプタンでも投与されていたのだろうか。
それとも素でこのような変化を遂げるか。どちらにせよあまり歓迎すべきことではない。
クルーゼ隊エースパイロットの名も泣くどころではなく、滂沱のあまり溶けていそうだ。
けれどトリップしてしまったアスランは己の妙案に興奮し、ペンチとスプレーを持ったまま立ち上がる。
ハロはもう完全に捨て置きだ。
「そうと決まったら急がなくては!」
アスランは叫び、勢い良く自室を出て駆け出した。
ペンチとスプレーを両手に所持したまま、行き交うクルーの中に黒髪の後ろ姿を見つけだし、声を張り上げる。
!」
振り向いた冷ややかな美貌に、アスランは己の素晴らしい発想をぶつけた。



「結婚してくれ!」
「―――断る」



向かい合う赤服二名と、その周囲で固まっているクルーたち。
ハロがもし喋れたのならツッコミを入れただろう。
主語と補語をちゃんと言え―――と。





久堂のアスラン像はこういう人です。要領と間が悪そう。
2006年4月21日