「・・・・・・おまえが・・・・・・クルーゼ隊長の息子か?」
その瞬間を、きっと一生忘れないだろう。
黒い服に身を包み、それよりも純度の高い髪を揺らし、どこまでも吸い込まれそうな眼でもって、自分を見下ろして、訪ねた男。
優しさなんて感じられない。あるのはただ闇ばかりだと一瞬で判ったけれど、それでもレイは身体を震わせずにはいられなかった。
これは恐怖などではない。
紛れもない、歓喜だ。
The name of World
自分という存在が何なのかを、レイは物心ついたときから知っていた。
アル・ダ・フラガのクローンとして作られたラウ・ル・クルーゼの精子と、名は知らぬがそれなりに優秀な女の卵子。それらを掛け合わせ、唯一成功した人工子宮によって育まれた、科学の結晶。
幼き頃から能力値が高く、プラントの将来を明るくさせる、そんな存在だと科学者に言われ続けてきた。
毎日は検査の連続。父と呼べる人も、母と呼べる人もいない。それのどこが「最高」なのか、レイには理解できなかった。
研究の行われていたメンデルがバイオハザードに襲われ、僅かな科学者と共にそこを脱し、また別の地で今度は隠れるように研究を続けられた。
どうせなら死んでしまえばよかった。場所は変わっても変化のない毎日を、レイは忌々しく思っていた。そんな、ある日。
舞い降りた存在は、紛れもない神だった。
クルーゼという名前は、聞いていた。自分の遺伝子上の父親。精子を提供してくれた人。
だが、それだけだ。レイは彼の腕に抱かれたことがないし、会ったことすらない。一度写真を見せられたきり。
だからすぐに頷けなかった。
そんなレイの反応に焦れたのか、男は持っていた銃をレイの眉間に合わせ、苛立たしげに繰り返す。
「おまえはラウ・ル・クルーゼの息子か? イエスかノーか、さっさと答えろ」
不機嫌を隠そうともしない様子に、それでもレイはただ感動を覚えた。心が震えた。恐怖ではない。
「・・・・・・遺伝子学上では、イエス、です」
「おまえは一生ここにいたいか?」
間髪入れずに続けられた問いに、今度は目を見開いた。
言葉に詰まったレイを観察するかのように、男は見下ろしている。その美しさに、今更ながらに気づく。
神だと思った。天使でも、悪魔でもない。この人は、神。
「・・・・・・いいえ・・・・・・っ」
答える声が、震えた。
「いいえっ!」
硬質だった美貌をうっすらと緩めて、男が笑う。溢れ出た艶にレイは息を呑んだ。
薄暗い研究室の入り口から、赤い髪の女が顔を出す。
彼女は砕かれた硝子や散乱している物、転がっている死体を器用に避けながら近づいてきた。
その手にはやはり、男と同じように銃が握られている。
「、こっちは全部終わったわよ」
「データは?」
「必要になりそうなものは全部保存済み。残りにはウィルスを流してきたわ」
「爆破まで」
「あと10分よ」
「―――よし、行くぞ」
「わっ!?」
急に変わった視界に、レイは思わず声をあげる。近くになった男の顔が迷惑気に歪んだので、慌てて口を手で押さえた。かつがれる格好となった彼に、女が楽しげに笑いかける。
「あたしはフレイ。よろしくね?」
「レ、レイ、です・・・・・・」
つられる様に名乗ってから、レイは気づいた。そういえば男の名前を聞いていない、と。
戸惑ったように向けられる眼差しに気づいたのか、男はちらりとレイを見て、小さな声で告げる。
「だ」
「・・・・・・」
宝物のように、そっと呟く。その名は、レイにとって神の名だった。
いつの間に眠ってしまっていたのか、次に目覚めたとき、レイの目に映ったのは白い天井だった。
研究所のものではないそれに、思わず目を瞬く。起き上がって周囲を見回して、そういえば、と思い出した。
そういえば自分は、神様に出会ったのだ。
「・・・・・・っ」
ベッドを降りて部屋を飛び出す。扉の外には廊下が続いていて、けれどすぐにまた別のドアがあった。
硝子から光の漏れるそこに、レイは駆け込む。ソファーに座っていた影が振り向いた。
「・・・・・・起きたのか」
声が聞こえる。泣きそうになる。この人だと、自分のすべてが叫ぶ。
やっと出会えたという喜びと安堵が、涙になって溢れ出てきた。ボロボロと泣き出したレイに、同じくソファーに座っていたフレイがくすくすと笑う。
「ほら、抱きしめてあげなさいよ」
「・・・・・・」
「連れて来たのはでしょ?」
眉を寄せ、溜息を吐き出す。そんな姿をレイはしゃくりあげながら見つめていた。涙で視界がぼやけるけれど、自分の服の裾を握り締めて、ずっと見つめた。
は髪を乱暴にかき上げ、その手を、軽く広げて。
「・・・・・・来い」
呼んでくれる、それだけで幸せだった。駆け寄って、その身体に抱きついて、温かな体温を感じられてさらに喜びが増した。
背中に添えられた手に、涙ばかりが溢れた。
あなたに会うために、生まれてきた。
「俺の名は、・」
告げられた名前を、レイは心に刻み込む。何があっても忘れないだろうと、根拠のない自信がある。
「おまえの父であるラウ・ル・クルーゼ氏は、俺の上司だった。ZAFTに所属し、数々の軍功を挙げられたが、先のヤキン・ドゥーエの大戦で戦死された」
悲しくはなかった。それよりも目の前の彼が死ななかったことが、嬉しかった。
「俺は、クルーゼ隊長に数え切れないくらいのことをして頂いた。あの人がいなければ、今、俺はここにいなかった。あの人は俺に光を与えてくれた。生きる理由と、その方法を。俺のすべてを、あの人は与えてくれた」
整いすぎた顔を僅かに曇らせるに、レイは思う。
光を与えてくれる存在がそうならば、自分にとっての「ラウ・ル・クルーゼ」は、間違いなくだと。
「だから、おまえにもそれを与えてやる」
頬を撫でてくれる手は、男にしては優美で、けれど力を秘めているものだった。
「俺がクルーゼ隊長にして頂いたことを、今度は俺がおまえにしてやる。おまえがどう生きたいか決めるまで、俺がおまえを養ってやる」
「・・・・・・一緒に、いてくれるんですか・・・?」
感激に毀れた言葉に、が片眉を上げた。
「四六時中は無理だ。おまえの世話をするのはフレイになるだろう」
赤い髪の女―――フレイが、レイに微笑んでひらひらと手を振る。柔らかさと明るさを含んだその笑顔は、と種類が違えど美人だとレイは思う。
そう、例え銃を握り、人を殺していたとしても。この二人は、綺麗。
「俺は立場で言えば、おまえの後見人だ」
「・・・・・・一緒に、いたいです」
「・・・・・・・・・」
「あなたと、一緒がいい」
レイのブルーの眼差しが、ひたりとを見つめる。黒い瞳が細く変わっても、それは逸らされない。
何秒か、何十秒か、はたまた何分経ったのか判らないけれど、がふっと目線を下げて。
次の瞬間浮かべられた小さな小さな微笑に、レイは心臓が止まるのではないかと思った。
「・・・・・・いいだろう。おまえが望む限り、一緒にいてやる」
儚く、美しい、鳥肌が立つほどの、存在に。
―――今、感謝を捧ぐ。
溢れる涙は喜び以外の何物でもなかった。
生まれてきて、よかった。
約束の通り、は様々なものをレイに与えてくれた。
まずは部屋。プラントのすべての中心であるアプリリウス・ワンの市街地にあるマンション。の住居となっているそこで、レイは初めて自分の部屋を持った。
四つあるうちの一つ。日当たりの良い南向きの部屋を、はくれた。
その日のうちにデパートに出かけて、彼はレイに好きな家具を選ぶように言った。デパートはもとより、研究所以外の場所がレイにとっては初めてで、色とりどりの洪水に流されてしまいそうな中で、必死にはぐれないようの手を握った。
ベッドと机、本棚を選ぶだけで三時間もかかってしまった。その間中、はずっとレイの傍にいてくれた。口出しはしないが、レイがアドバイスを求めれば答えてくれて、じっと見守っていてくれた。そのことがレイはすごくすごく嬉しかった。
次に連れて行かれたのは、洋服売り場だった。10歳のレイに見合う、子供服売り場。
飛び込んでくるのは先ほどにも増した色で、一気に与えられる情報にレイは目を回しそうだった。好きな服を選べと言われても、どんな服を選べばいいのか判らない。研究所では与えられた検査着ばかり着ていたから、こんなに服の種類があることも知らなかった。ましてや、自分にどんな服が似合うのかなんて判るわけがない。
途方にくれて、レイは繋いでいるの手を弱い力で引いた。見下ろしてくる彼に、傍から見れば泣きそうなほどに申し訳なさそうな顔をして。
「・・・・・・多すぎて選べません・・・」
ごめんなさい、と涙の滲む声で謝られて、は一瞬眉を顰めたが、短い間でそれを解いた。
表情には出さないけれど少し躊躇いながら、ゆっくりと手を伸ばして、レイの頭に載せる。首を竦めた子供は反射的に目を閉じたけれど、が彼の金髪を撫でてやれば、すぐに破顔に変わった。
デジャ・ヴが襲う。泣きたくなるほどに、温かい記憶。
あのとき、あの人は確か、こう言って笑ってくれた。
「・・・・・・一着は選んでやるから、残りは自分で選んでみろ」
「・・・・・・はいっ!」
頬を紅潮させて、レイが頷く。その姿に過去の自分が重なった。
泣いてしまいたかった。
他にも靴や文具、日用雑貨を買い、近日中に配送してくれるよう手配をして家へ帰った。
ただいま、とが言えば、お帰りなさい、とフレイが出迎える。次いでレイが大人しく靴を脱いでいると、その頭を叩かれた。痛さは大してなかったが驚いて顔を上げると、が端的に告げる。
「挨拶」
「えっ!? あ、えっと・・・・・・」
何を言えばいいのかと思い巡らしていると、フレイの笑顔が見えた。そして、自分を静かに見下ろしているの顔も。
二人の交わした言葉を思い出し、鼓動が早まる。自分が言ってもいいのだろうかと不安になって、けれど、言ってみたくて。受け入れて、もらえたくて。
「た・・・・・・ただいま、です・・・」
小さな声で紡がれた言葉に、温かな声が返された。
「「おかえり」」
夕飯はフレイの作ってくれていたものを食べた。まだ勉強中だと言う彼女の言葉通り、味付けが濃かったり薄かったり、またところどころ焦げていたりもしたけれど、レイにはこれ以上ないほど美味しく感じられた。
熱い風呂に入れられ、買ってきたばかりのパジャマに袖を通す。
「ベッドは明日届くから、今日は俺のを使え」
ほかほかのレイに、リビングでニュースを見ながらが言った。
「え・・・・・・でも、それじゃはどうするんですか・・・?」
「ソファーで寝る」
フレイがにウィンクをし、彼は小さく肩を竦めたけれど、レイはそんな二人の遣り取りに気づかず、慌てて小さな両手を振る。
「いいですっ! がベッドで寝て下さい! 俺がソファーで寝ますっ!」
「子供が余計な遠慮をするな」
「でも、のベッドですから!」
「・・・・・・なら、一緒に寝るか」
ぽつんと言われて、レイは思わず言葉を失った。リモコンでテレビの電源を落とし、がソファーから立ち上がる。
擦れ違いざまに頭を撫でられ、身体が湯上りの所為だけじゃなく熱くなった。
「先に布団に入ってろ」
触れてくれることが、当たり前のように扱ってくれることが、大事に、してくれることが。
嬉しかった。幸せだった。これ以上の喜びなどあるのかと思う。
レイにとって、すでには唯一の人になろうとしていた。
「何か、ずいぶんとレイに優しいじゃない。ベッドならあたしのを貸してもよかったのに」
「それでおまえはどこで寝る気だ? フレイ」
「もちろん、のベッドでと一緒に。いいじゃない、それくらい」
「次の機会だな。俺がレイに優しいのは、あいつが俺に似てきてるからだ」
「俺は・・・・・・俺が、クルーゼ隊長にして頂いたことと、してもらいたかったこと・・・・・・それを全部、あいつに与えてやるつもりだ」
一緒のベッドで寝て、夢見たいで、実際に夢から目覚めると、すでに隣にいてくれたはずのはいなくなっていた。
触れてみるとシーツは冷たく、彼がいなくなってから結構な時間が経っているのだと判る。
じんわりと悲しくなりながらリビングへ向かうと、洗濯を干していたらしいフレイがベランダから戻ってくるところだった。
「おはよう、レイ。よく眠れた?」
「はい・・・・・・おはようございます」
「今朝ごはん用意するから、ちょっと待ってて」
薄いピンクのブラウスとシンプルなフレアスカートの上から、黒のエプロンをつける。
冷蔵庫から卵を取り出す後ろ姿に、そわそわしながらレイは尋ねた。
「あの・・・フレイ、さん」
「フレイでいいわよ。あたしもレイって呼ばせてもらうから」
「えっと・・・・・・フレイ。あの、さんは・・・・・・?」
レイの言葉に、赤い髪を揺らせてフレイが振り返る。その顔はどこか悪戯な笑みを浮かべていて、可愛らしさを感じさせるその様子に、意外と自分と彼女は年が離れていないのかもしれない、とレイは思った。
「はねぇ、もう仕事に行っちゃったの。残念でした」
「そう・・・・・・ですか・・・」
「夜には帰ってくるって言ってたから、夕飯は一緒に食べれるわよ」
「はい」
牛乳をグラスに注がれ、狐色に焼かれたトーストを差し出される。並んでいるジャムの種類をレイが見ていると、ちょうど焼けたのかベーコンエッグが運ばれてきた。付け合せのほうれん草が少し焦げているけれど、それでもレイにとってはやっぱり十分に美味しそうだ。
どうぞ、と言われ、いただきます、と挨拶してからフォークを手にする。
口にしたベーコンエッグはやっぱり美味しくて、素直にそれを言うとフレイが嬉しそうに笑った。
「あの・・・・・・聞いてもいいですか?」
バターとジャムをたっぷり塗ったトーストをかじって、レイは向かいで紅茶を飲んでいるフレイを上目遣いに見る。
「さんは、何の仕事をしてるんですか?」
「はね、軍人よ」
さらりと告げられた事実に、レイは目を瞬く。
けれどフレイはとても誇らしげに、綺麗な微笑を浮かべていた。
「元クルーゼ隊の・って言えば、ZAFTの上層部で知らない人はいないってくらい有名らしいわ。戦後、クルーゼ隊が解散してからは特務隊FAITHに所属してて、今の任務はプラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルの護衛ね」
「・・・・・・すごい、んですよね?」
「そうね、評価は人によるだろうけど」
わずかに目を細め、観察するようにフレイは目の前のレイを見つめる。
「怖い?」
「・・・・・・いいえ」
はっきりと、レイは答えた。
「たとえどんなことをしていたとしても、俺にとってさんはさんですから」
他のことは関係ありません。そう言ったレイに、フレイは笑った。本当にこの子は似始めていると思いながら。
空になったマグカップを置き、立ち上がる。
「よし! じゃあ今日はレイの家具が届くから、そのセッティングね。その後で夕飯の買い物とか行きたいから手伝ってくれる?」
「は、はいっ!」
ぱぁっと顔を輝かせて頷いたレイを、可愛がれるとフレイは思う。
この子は、に似ている。
それからの生活は、文字通りレイにとってパラダイスだった。
研究所にいたときとは全然違う。がいて、フレイがいて、彼らは自分を大切に扱ってくれて。
毎朝、夢じゃないかと疑った。その度に否定されて嬉しかった。
フレイから料理を習った。洗濯や掃除も教えてもらって、今では家事を彼女と半分ずつ出来るようになった。
から様々なことを習った。一般的な学問からプラントや地球の関係、現在の情勢、身を守る術や相手を倒す方法。望めば何でも彼は教えてくれた。
幸せだった。こんな日が来るなんて、思ってもいなかった。生まれてきてよかったとレイは毎日のように感謝を捧げた。
「出かけるから準備しろ」
共に暮らし始めて半年くらい経ったある日、休日だったが唐突にそう言った。
何の用事かは知らないが留守にしているフレイに代わり、食器を洗っていたレイは慌てて水道を止め、小さなエプロンを脱ぐ。
「どこに行くんですか?」
黒のスリムジーンズに白のシャツ。腰に挿し込まれている銃は別として、ファーのついた黒のコートというシックな装いなのに、が着るとすべてが派手に見えてしまう。
フレイが選んで買ってくれたベージュのコートを取ってきて後に続くと、彼はレイをエレカの助手席に乗せた。
「・・・・・・?」
何も言ってくれない横顔を見つめつつ、レイは首を傾げる。
連れてこられたのは、墓地だった。
人工的な空の下、かなり遠くまで広がっている墓標。いくつあるのか分からないその中を、は迷わない足取りで進んでいく。
レイは黙って、その後を追った。目の前を行くの片手で、大輪の白百合が揺れている。
辿り着いた先にはやはり、かの人の名が刻まれていた。
ラウ・ル・クルーゼ。レイにとっての父親にあたり、にとってのかつての上司。
墓標の前にしゃがみ、片手で埃を払い、そっと花束を置く。一連の動作はひどく丁寧で慈しみに溢れていて、レイの胸がぎゅっと痛んだ。
の悲しみが、まるで自分まで伝わってくるようで。
指が、そっと刻まれた名を辿る。初めて見るの表情に、レイは泣きそうになった。
自分にとってラウ・ル・クルーゼは精子を提供してくれた人だ。遺伝子的に血は繋がっている。
けれど、そんなものとは比べ物にならない絆が、きっとクルーゼとにはあるのだ。
レイに光を与えてくれたのはだ。彼を失うことなんて考えられない。考えたくない。だけどは失ってしまった。光を与えてくれた、クルーゼという存在を。
失ってしまった。きっと彼にとって、唯一だった人を。
フレイがいつか教えてくれたことを思い出す。
「・・・・・・その人は、確かに俺の『父親』です」
風が運ぶレイの声音に、の肩がぴくりと震えた。
「俺をこの世に生まれさせてくれたことに、確かに感謝しています。でも正直、俺はその人を『父さん』とは呼べない」
白百合の香りが、噎せ返るように広がる。
「呼んではいけないと・・・・・・思うんです。その人を一番理解して、誰よりも近くにいたのは・・・・・・あなただから」
弾かれたように、が振り返る。小さく揺れた瞳に、レイは一生懸命笑いかけた。
「だから、その人を『父さん』と呼ぶ権利は・・・・・・俺ではなく、あなただけのものです」
半年の間、フレイから聞いた。とクルーゼが如何に深い絆で結ばれていたかを。
自身は話してくれなかったし、レイも聞くのが憚られた。だけどその分、フレイが少しずつ教えてくれた。
二人は上司と部下である前に、親子のようであったと。
が光を与えられたと共に、きっとクルーゼも大事なものを手に入れたに違いないと。
事情さえなければ、二人は平穏に暮らしただろう。そうなるべきだった。あの二人は特に。
誰にも邪魔されない平和を築くべきだった。それだけの権利が、二人にはあったのだから。
『はね、本当に幸せそうな顔をして呼んでたのよ』
内緒話のように、そっとフレイは教えてくれた。
『あの人のことを・・・・・・「父上」って』
小さく、が笑った。それはとても儚いものだったけれど、レイにとっては十分すぎるほどに眩しかった。
伸びてきた手が優しくレイの髪を撫でる。温かいそれは、まるで息子に対するもののようで。
「じゃあ、おまえは代わりに俺を『父上』とでも呼んでみるか?」
「っ! い、いいんですか・・・・・・っ!?」
「おまえがそう思ってくれるならな」
優しい笑みだった。本当はずっとそう呼んでみたいと思っていた。だけど迷惑だったらと思うと怖くて聞けなかった。それを許可され、レイは喜び勇んでの腕に抱きつく。
この人の息子になろう。誰にも誇れる、出来のよい息子に。が自慢できるような息子になろう。そう、誓う。
手を繋ぎ、二人で墓前に立った。
「また来ます。・・・・・・父上」
の微笑が嬉しくて、レイも笑った。
が誇れる、息子になろう。
「父上!」
呼べば振り向いてくれる。足を止めてくれる。手を差し伸べてくれる。彼は父親。
「どうしたの、レイ?」
もう片方の手を繋いでくれる。美しい人。そうは呼ばないけれど、彼女は母親。
二人の手をぎゅっと握り締め、レイは笑う。自然と笑みが零れる。
大好きという気持ちを、もっともっといっぱいのこの気持ちを、早く早く伝えたくて。
「俺、父上とフレイと出会えて幸せですっ!」
発した言葉は、まるでを幸福を形にしたようだった。
きっとこの先何が起ころうとも、後悔する事だけは決して無い。
出会えた奇跡に、至上の感謝を捧げて止まない。
世界は薔薇色なのだと、レイは初めて知ったのだった。
いろいろとパラレルが入っている義息子レイバレ第二弾。そしてやはりフレイ贔屓。突発パラレルなので続編はありません。おそらく最も報われているレイバレをお送りいたしました。
2006年4月15日