正義の味方は当てにならない
「君」
かけられた声に、・クルーゼは振り返りたくなかった。
けれど彼は自分の立場というものを理解していたし、加えて少しでも義父の不利になることは避けるべきだと認識している。
故に彼は振り向き、礼儀正しく一礼した。
「お久しぶりです、デュランダル議長」
「やぁ、久しぶりだね。いつもラウから話を聞いているから、そんな気はしないけれど」
「何か自分に御用でしょうか」
「実は頼みがあってね」
にこりと笑みを見せたデュランダルにが警戒したのは言うまでもない。
しかしその上を行くのがギルバート・デュランダルであり、ラウ・ル・クルーゼであり、ムルタ・アズラエルだ。
百万単位の人々を先導するだろう余裕ある態度で、彼は告げる。
「君の血を少し、分けてもらえないだろうか」
刹那、の脳裏に浮かんだのはデュランダルに関するプロフィールだった。
本名、ギルバート・デュランダル。11月19日生まれの32歳。蠍座のAB型。伸長183センチの体重69キロ。現プラント最高評議会議長を務め、ナチュラルとの融和策から国民の支持も高く、政治的手腕はかなりのもの。一方で情報戦や裏事情にも精通しているオールマイティな指導者。しかし本職は遺伝子学の研究者であり、DNA解析の権威とされている。
―――しかし、そんなことは関係ない。
ここで問題視されるべきは、このギルバート・デュランダルが、ラウ・ル・クルーゼの親友と呼ぶべき類友であるということだ。
「・・・・・・・・・折角のお話ですが、自分にシュヴァリエは必要ありません」
「さすが、話が早い」
「父上が最近、西暦時代のアニメーションに凝っていますので」
「共通のブームでね。レイはきっと君の役に立てると思うのだけれど」
「結構です」
「理由があればレイが懐くのも許容できると思うのだが、どうかな?」
「結構です。それに『BLOOD+』に当てはめるのなら、自分が父上のシュヴァリエかと思いますが」
「我々は自ら演じるよりも、ギャラリーの方が性に合っているらしい」
「プロデューサーの間違いでは? ご用件がそれだけでしたら失礼させて頂きます」
さっくりと話を終わらせて踵を返したに、またしても声がかけられる。
「君、君は確か今年の健康診断を受けていたね?」
「・・・・・・っ」
思わず息を呑んで振り向いたが、すでにデュランダルは背を向けてゆったりとした足取りで歩き出している。
その後ろ姿には忌々しげに舌打ちした。
『あんたから電話なんて珍しいな』
「スティング、最近アズラエル理事に不審な動きは?」
『あいつは何時だって不審だろ。最近では夜中に西暦時代のアニメを見てるぜ』
「何のアニメだ」
『題名は判らないけど、セーラー服の女が五人組で戦うヤツ。他にもタキシードの男とか出てるな。続編も全部揃えてるみたいだぜ』
「・・・・・・・・・今すぐそのDVDを廃棄しろ」
『それは流石にマズイだろ。あんなんでも一応俺の雇い主だし』
「今やらなければ、最悪明日にでもおまえがセーラー服を着せられて火星に代わり折檻することになるだろうが、それでもか?」
スティングの答えがどうであろうと、『明日』はそう遠くなく自分たちに訪れるだろう。
やはり彼らを暇にさせては駄目だと、は今更ながらに強く悟った。
シュヴァリエ / 特定の人物の血液を飲むことで不老不死になり、その人物に忠誠を誓う人のこと。忠犬もしくは下僕とも言うかもしれない。元ネタはTBSテレビ土曜日18時から放映中の「BLOOD+」
2006年4月11日