コミュニケーション
物心ついたときには、すでに父親という存在はなく。
『父親候補』と呼べるものだけが、わらわらと自分の母の周りに群がっていた。
「おはよう、零」
「おはよう、リドル」
爽やかな鳥のさえずりが聞こえる中、一日の始まりの言葉を交わす。
しかしそれは文字面とは到底かけ離れた挨拶だ。例えるならば異種格闘技戦のゴングにとても似ている。
ダークレッドのシンプルなエプロンをまとってキッチンに立っているのは、黒髪に紅い目の十人中十人が「美少年」と呼ぶだろう男。
元は記憶だか幽霊だか何だか知らないが、リドルという名を持つこの男が、とりあえずレイの『父親候補』の筆頭だった。もちろんレ零自身認めてなんていないけれども。
「は?」
「『母さん』だろう? 僕は自分の母親を呼び捨てるような無礼な子供におまえを育てた覚えはないよ」
「奇遇だね。俺もリドルに育てられた覚えはないよ。この時間なら庭かな。新種の薬草が気になるって言ってたし」
「ならまだ起きてこないよ。昨日はだいぶ無理をさせたからね」
「へぇ、また徹夜で実験してたんだ? 睡眠はちゃんと取ってって言ってるのに。の体調も考えないなんて最低だね、リドル」
「そうだね、やっぱり子守唄でも寝物語でも聞かせてあげるべきだったかな。それとも本当に失神するほど気持ちよくさせるべきだったかい?」
「いいよ、気にしなくて。今夜からは俺がと寝るから。母親を気遣うのは息子の役目だし」
「マザコンも程々にしないと、そろそろ変質者のレッテルを貼られるんじゃない?」
「お生憎様。誰が何と言おうと俺がの息子なのは紛れもない事実だからね。俺がの特別なのは、リドルが何を言おうと変えられない真実だよ」
にこりと微笑む零は知らない。自分のこの微笑が母親のというよりも、どちらかといえば目の前にいるリドルに似ていることを。
そして自分の性格の端々に、他の『父親候補』の性格の片鱗が見え隠れしていることを。
「・・・・・・・・・産みの親より、育ての親かな」
とりあえず零の本当の親であるは、毎朝繰り広げられている父息子(仮)のコミュニケーションを、眠そうな目を擦りながら眺めていた。
似たような話が父親候補の数の分だけ存在します(オイ)
2006年3月29日