『あ、もしもしか? 俺だけど初詣で行こうぜ。今日の夜10時に青春神社の大鳥居の前な。遅れんなよ!』
・・・・・・・・・桃は私の蹴りでこの年を終え、関節技で新年を迎えたいのか。
そうか、そうか。よく判ったよ。
「ママ上ー。今夜二年参りに行って来てもいい?」
「二年参りって夜でしょ? 誰と行くの?」
誰とって・・・・・・・・・。
「美少年?」
「いってらっしゃい。はい、カメラ」
ポンッと27枚撮りのインスタントカメラを渡された。ママ上・・・相変わらずのジャニーズ好きだね。
しかも何かウキウキしてない? エプロン外してどこ行くの?
「男の子とお出かけならオシャレしなきゃね〜! ミスズちゃんいっつも男の子っぽい格好だから気になってたのよ」
「だってそっちの方が似合うし」
「そりゃあね、パパの子ですもの。でもやっぱり新年くらいは女の子らしくしてみたいでしょ?」
「いや、いつも通りで」
かなり本心から言ったんだけどママ上は聞いていない。つーか完全無視。
そして和室へと入っていくと桐箪笥の中から何か服を取り出して。
「こんなときのために買っておいたの!」
・・・・・・・・・こんなときってどんなときですか。そんな満面の笑みで言われても。
―――桃め! 私がこんな目に遭うのも全部アイツの所為だ! ゼッテー許さんぞ!
学園天国〜一年の計は元旦にあり〜
がやがやと人通りの多すぎる道。
何でこんなに人がいるんだよ・・・。みんな大人しく家で行く年来る年でも見てろっての。
あ、桃発見。むしろターゲット発見。
ふふふふふふふ! 見てろ桃! 紅白後半戦を見られなかった恨みをここで晴らしてくれるわ!
・・・・・・・・・っていうか、全然気づいてないし。
まぁ当然かもしれないけど。
そっちの方が私にとっては好都合だっつーの。
ミッション開始!
「桃」
声をかけたらターゲットは周囲をくるくると見回した。しかし私を発見することは出来ず。
っおいおいおい、目の前にいるのに気づかないのかよ。
ふっ・・・・・・やってて何か虚しい気がしなくもないけど、考えたらダメ! 今はミッションを成功させることだけを考えろ!
「桃」
もう一度呼んだら桃がこっちを向いた。
・・・・・・・・・しかし未だ気づかず。いい加減悲しくなってきた。
「桃、こっち。いい加減に気づいてくれてもいいんじゃないの?」
ちょっとむくれた声で言うと桃はやっぱり周囲を見回して、そしてようやく私の元で視線を留めた。
ようやく気づいたか・・・・・・。遅いっつーの。
「・・・・・・あの、俺のこと呼びました?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何だよ! まだ気づいてないのかよ!
オマエは友人の顔も覚えていないのか! 何て友達甲斐のない奴なんだ!!
「自分で誘っておいて、それはないんじゃないの? せっかく桃のために着飾ってきたのに」
ちょっと悲しそうな顔して言ってみる。・・・・・・演劇部、本気で入部考えようかなー。
「・・・・・・誘った? え、俺が?」
・・・・・・・・・誘っただろうが。そのために私はレコ大も横目にしか見られなかったんだよ。ママ上に遊ばれて!
何かいい加減ムカついてきたからミッションは強制終了。
本当は可愛い女の子の振りして桃を騙すつもりだったんだけど、このバカにはどうやら友情というものを判らせてやる必要があるみたいだし。
「バカ桃。今度聞き返しやがったら関節技かけるからな」
あらやだ☆ 乙女が台無し! ・・・自分で言っててかなり気持ち悪いのはどうして・・・。
桃は今の一言で固まった。目を大きく見開いて。
「・・・・・・なっ・・・・・・・・・お、まえ、か!?」
「そうだよ! いい加減に気づけバカ!」
「だっ・・・・・・だってよ・・・」
そこで言葉を止めると桃は上から下まで私をじっくりと眺めた。
「ジロジロ見るな馬鹿者!」
「そんな女みてーなカッコしてくるが悪いんだろ!? 何で今日に限ってそんなカッコなんだよ!」
「うるせー! 初詣では着物だっつーママ上に無理矢理着せられたんだよ! これも全部オマエの所為だ!」
「何でだよ!?」
そう、今夜の私は着物なのだ。
藍色の落ち着いた色合いに梅の花が散っている、シンプルなやつ。帯は銀色。
首にはふわふわの毛皮で、髪はママ上に細工されてヴィックがつけられている。
つ――――――ま――――――り――――――・・・・・・。
今日の私は『女の子が着る着物』を着てるわけなのです!!
嫌だって言ったのに! どうせ着るなら男物の紋付袴がいいって言ったのに! それなのにママ上は!!
私を着せ替え人形にして楽しんでるし、パパ上は嬉々として写真撮りまくってやがったし!
・・・・・・・・・まだ桃はボーッと私を見てる。
似合わないのは百も承知だよ! だから見るな! 頼む、見ないでくれ!!
「なぁ・・・・・・・・・・」
「何さ」
「・・・・・・・・・・・・すっげぇ言いにくいんだけど・・・」
「だから何さ」
何となく嫌な予感がした。・・・・・・・・・どうか、当たらないでくれ。
「・・・・・・今夜、先輩たちも一緒なんだけど・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・先輩たち?」
「・・・・・・おぅ」
「・・・・・・・・・それって、手塚先輩?」
「おぅ」
「あとは、大石先輩?」
「おぅ。あと乾先輩と河村先輩と越前と、まぁ一応海堂も来るな」
「あと、菊丸先輩?」
「おぅ」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・あと、」
「言うな言うな言うな言うな〜〜〜〜〜! やだ! もう私、帰る! こんなカッコであの魔王に会ってたまるか! 来年一年からかわれるに決まってる!」
「だ――――っ! ちょっと待て、落ち着け!!」
「やーだー! こんなんならキヨと跡部と初詣でに行った方がまだマシだ!!」
「だから落ち着け! 不二先輩だって話せばきっと判ってくれる――――――・・・・・・」
「僕が何? ―――桃」
ギャオオオオオオオ!!
逃げるのが遅かった! 桃と言い合いなんかしてないでさっさと逃げれば良かったんだ!
そうすればこの背後にいる魔王にも会わないで済んだのに! もう手遅れだよ―――!
「早いね、桃。部活みたいに遅刻するかと思ったのに」
「そ、そそそそそそそそりゃないっすよ、不二先輩・・・」
「何どもってるの? やっぱり大好きな彼女を僕に会わせたくないから?」
―――――――――――――――ホワッツ?
急な魔王のお言葉に私も桃も固まっちゃったよ・・・。
何、何て言いました、この人。
『大好きな彼女』? 誰が? 誰の? 私が? 桃の? ・・・・・・・・・・・・私が桃の『大好きな彼女』!?
何を言ってんだこの魔王は! ついに性格だけじゃなくて頭の中身まで悪魔に売り渡したのか!?
・・・・・・・・・・しかし、待て。よく考えてみれば。
彼女と思われるより、ここで私が私だとバレる方が嫌だ!(何言ってるか自分でもよく判らんが、とにかく!)
その誤解、いい様に利用してやる!!
クルンッと振り向いてニッコリと笑ってみせた。
「はじめまして。といいます」
「さんか。はじめまして、僕は不二周助。桃とは部活が一緒なんだ」
「えぇ、お話は伺ってます」
お上品に笑ってみる。・・・・・・隣で桃が引きつってるけど。ちょっと大人しくしてて!
「さんは桃の恋人なのかな?」
「はい。お付き合いさせてもらってます」
「そうなんだ。・・・・・・隅に置けないね、桃。こんな可愛い彼女がいるなんて」
「え・・・いや、彼女っていうか・・・・・・・・・」
桃が汗をダラダラ流して返答に困ってると、向こうから見知った人たちが歩いてくるのが見えた。
「ちわっス、不二先輩、桃先輩」
「・・・・・・チース」
越前と海堂だよ。何て珍しい組み合わせ。
「何だ、おまえら一緒に来たのか?」
「違うっスよ。そこで一緒になっただけっス」
越前はそう言い捨てるとチラッとこっちを向いた。条件反射でニッコリと微笑んでみる。
・・・・・・しまった、これだから女の子のファンが増えてくんだ。
だが越前は何故か頬を染めた。寒いのかな。
「・・・・・・・・・先輩、この人誰っスか?」
「彼女は桃の恋人だよ」
ズバッと言いやがったよ、この魔王! そして何気に驚いて振り向くんじゃねーよ、海堂!!
「・・・勿体無いっスね」
「おい、何だよそれ、越前」
「やっぱり越前もそう思う? 僕も勿体無いと思うんだ」
「・・・・・・・・・ふしゅー」
「あ、海堂先輩もやっぱそう思うっスよね」
何か妙な話になって来てるし。桃がギャアギャア言い返してるし。
そんなことをしてる間にもう一人待ち人が到着したよー。
「お待たせ! にゃんだ、大石たちまだ来てないじゃん。俺、遅刻かと思って走って来たのにー」
「菊丸先輩」
「よ、オチビ。久しぶり!」
菊丸先輩が猫を可愛がるように越前を構ってる。
その先輩自身の猫みたいな目がキョロってこっちを向いた。・・・・・・・・・目が合ったし。
「・・・・・・君はだぁれ?」
「桃先輩の彼女っスよ」
今度は越前が答えたよ! 何でみんな同じことしか言わないんだよ!
そして驚くな菊丸英二!!
「えー! マジで!? マジで君、桃の彼女なの!?」
いや、本当は違います。何だか事が大きくなってきた気が・・・・・・?
菊丸先輩がキラキラした目で近づいてくる。質問責めにされそうな予感。
「・・・・・・先輩、手塚部長たちが来たっすよ」
迫り来る猫を止めてくれたのは何と海堂だった。優しーい! 今の海堂はまるで天使のようだよ!!
みんなして振り向けばこっちへと歩いてくる手塚先輩、大石先輩、乾先輩、河村先輩がいて。
これで全員集合。早く行こうよー。お腹減った。
―――――――――――しっかし。
何でまた現れた先輩方も私のことを不思議そうに見るのさ。
ちょっと手塚先輩、メル友の顔も思い出せないのか!?
そんなことを考えてたら大石先輩がポンッと手を叩いて。
「何だ、さんか。着物着てるから雰囲気違って判らなかったよ」
ニッコリ笑って仰った。
目が点。
思わず桃のジャケットの袖を掴んじゃったよ。
「お、おおおおおおおおおおおおおおお大石先輩?」
「何?」
「な、何で判ったんすか!? こいつがだって!!」
「え、だって着物着てるだけでお化粧を厚くしてるわけじゃないし、普通気がつくだろう?」
「・・・・・・・・・」
気づかないっす! という声が何重にも聞こえた気がした。
「こんな遅くに出かけるなんてご両親は心配しなかった?」
「・・・・・・・・・・い、え。全然オッケーでした」
どうにか答えを返すと大石先輩は穏やかに笑った。
その途端、肩を掴まれてグイッと振り向かされて。
目の前には猫が一匹。
「え、え、え、え、マジで!? 本当に!? 本当に!?」
「ソウデス先輩。嘘ヲツイテ申シ訳アリマセンデシタ。私ガ悪カッタデス」
「・・・・・・にゃんでそんなカタコトなの?」
それはあなたの後ろにいるお方が怖いからです。・・・なんて口が裂けても言えない!
怖い怖い! 反応が何にもないのが逆に怖い! 今からでも遅くない、走って逃げろ私!
でも足が動かないー!!
それはどうやら隣の桃も一緒のようで、ただ二人固まって魔王の判決を待っている。
菊丸先輩を押しのけて前に出てきた魔王はニッコリと笑った。
「綺麗だよ、さん」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「全然判らなかった。ゴメンネ、気づけなくて」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「女の子って衣装一つでこんなに変わるんだね。驚いちゃった」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「僕、カメラ持ってきてるんだ。後で撮ろうよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「撮って、くれるよね?」
当然のごとく嫌とは言えなかった私は、この後しばらく魔王の被写体となるのであった。
予定よりもずいぶん遅れてしまったが、境内目指してぞろぞろと歩き出す。
まぁ元旦の昼間よりも混んではいないかな。
夜だから来るのは大抵が夫婦だったり、恋人だったりだし。
「俺、たこ焼き食べるー!」
「俺はやっぱお好み焼きっすね!」
「英二、桃も。まずはお参りしてからにしよう」
大石先輩が保育園の先生のようだ・・・・・・。河村先輩もそう見える。
それにしても二人とも。年下の越前が呆れた顔で見てるよ。いいのかそれで、年長者は。
「・・・久しぶりだな、」
「手塚先輩」
隣に並んだ手塚先輩が話しかけてくる。
「久しぶり。っつーか正月にこんなところにいていいんすか? 手塚先輩の家って厳しいんじゃなかったっけ」
「いや、今日は親戚が来て宴会をしているから特に何も言われないだろう。すでに大半が酔っていたしな」
「うわ、手塚先輩も飲んでくればよかったのに」
「年齢からいって無理だろう」
仲良く話してたら不思議そうな顔で前を歩いていた越前が振り返った。
「先輩と手塚部長って知り合いなんっスか?」
「知り合いと言うか・・・」
「メル友だよ」
事実を教えると越前はその大きな目をさらに丸くして意外そうに呟く。
「・・・・・・部長って携帯使えたんスね・・・」
ぶっ! ちょい待て、越前。それは失礼だろう。
「それくらい使える」
「俺、使えないと思ってました。流行物とか全然ダメだと思ってたのに」
楽しそうに笑う越前に手塚先輩は渋い顔。
「越前は知らなかったのか。手塚とは春先からメール友達として結構頻繁にメールを交換してるよ」
うお! 突然現れないで下さい、乾先輩! しかも何でそんなこと知ってんのさ!?
「・・・・・・」
「話してないっす」
「・・・・・・そうか。俺もだ」
手塚部長と乾ノートの神秘について語り合ってると、桃と菊丸先輩はわたあめをゲットしてた。
あーぁ、口元ベタベタにして。
マジで子供に見えてきたよ。
どうにか無事にお参りすると、子供たち(ここでは主に桃と猫を指す)は屋台へと駆けて行った。
「さんも何か食べる?」
大石先輩が聞いてくるから、私も一つ頷いて。
「たこ焼き食べたいんすけど・・・。大石先輩、半分こしません?」
「いいよ。でも二人でも余るだろうし――――――海堂、たこ焼き食べないか?」
金魚すくいを眺めていた海堂は振り返って、曖昧に首をかしげる。
「せっかく一杯屋台があるんだし、たくさん種類を食べたいだろう? 俺とさんと三人でたこ焼きを分けないか?」
「・・・いいっすよ」
ってことで100円でたこ焼きを三つゲット。
400円だから三人じゃ綺麗に割れないとか思ってたら、大石先輩が200円出してくれた。
それに海堂と二人でお礼を言って。もちろん最後に余ったたこ焼きは大石先輩へプレゼント。
「あー美味しい。やっぱ屋台はたこ焼きだよなぁ」
「・・・俺は焼きそばもいいと思う」
「じゃあ次は焼きそばにしよう。半分こしよ、海堂」
こうして第二弾・焼そばゲット。
「おまえ着物なのによく食えるな」
「着物だから食うんだって。意外と体力使うんだよーこのカッコ」
「でもよく似合ってるからいいじゃない」
ビクッ!
突如現れた声に海堂ともども身を硬くして。
この声は・・・・・・この声は間違いなくあのお方・・・!
「・・・・・・ふ、不二先輩・・・」
「どうしたの、さん。そんなに怯えちゃって可愛い顔が台無しだよ?」
パシャッとフラッシュが光って写真を撮られた。
・・・・・・・・・海堂と焼きそば食べてる写真なんか撮ってどうするのさ、この人は。
「さんって実は綺麗だったんだね。いつも男の子みたいだから気づかなかったよ」
「・・・・・・何か、失礼なこと言ってません?」
「やだなぁ、僕は褒めてるのに」
ニッコリと笑う魔王。でも海堂が小刻みに首を横に振ってるんですけど。・・・・・・あ、魔王の睨みに黙らされた。
「じゃあ疑り深いさんのために証拠を見せてあげるよ」
そう言うと魔王は私をべっこう飴の屋台へと引っ張って行った。
あぁ〜海堂が遠ざかって行く〜・・・・・・!
店の前に立たされると耳打ちされた。くすぐったい!
「いい? お店の人に『この飴美味しそうですね。一本いただけますか?』ってニッコリ笑って言ってごらん」
「・・・・・・何故にそんなことを」
「ニッコリ綺麗に笑うんだよ? いつも女の子を助けたときみたいに」
反論は無視されて店の前へと突き出された。
ねじりハチマキをしたオジサンと目が合って。・・・・・・何でこのごついオジサンにこんな可愛い飴が作れるのさ。
えーっと、何だっけ? 笑うんだっけ? あぁ、そうだ確か・・・・・・。
「『この飴美味しそうですね。一本いただけますか?』」
――――――――――――ニッコリ
手の中にある5本のべっこう飴。
「河村先輩、いりません?」
「え? いいのかい?」
「もちろん。どうぞっす」
一本差し出すと、河村先輩からお礼にカルメ焼きを貰った。砂糖と砂糖の物々交換だよ。
「先輩、俺も欲しいっス」
「ん、いいよ」
越前にもあげた。あげるついでに頭も撫でてみた。
そうしたらいつもは抵抗してくるのに今日は大人しかったので、ちょっと可愛かった。
「ふむ・・・は着物を着ていると女らしく見える、と。一本分の料金でべっこう飴を5本獲得」
乾先輩がノートに何か書いてるよ。何でテニス部員じゃない私のことまで書いてるのさ!
「ね、僕の言ったとおりだったでしょ?」
満足そうに笑う魔王にも反論出来ず・・・。
「も実は女の子だったんだねー!」
のん気に言いやがった菊丸先輩。頷くその他。
・・・・・・・・・・・・・・・―――――――――――――あ。
「そっか! あぁそうか、やっと判った!」
私は女装が似合うんだな!
納得納得。なるほどねぇ、そうだったのか。今まで気づかなかったよ。
そうだよ、俗に『美少年は女装が似合う』て言うし! 美少年を自他共に認める私が、女装の似合わないわけないじゃん!
そっか、そっか、そっか。ヨシ、納得!
「・・・・・・」
「何さ、桃」
「・・・・・・・・・いや、何でもねぇ」
呆れたようにため息が9個。・・・・・・それって全員分じゃん?
せっかく人が世紀の大発見をしたっていうのに失礼だなぁ。
まぁいいさ、後は新発見した事実をフル活用するのみ!
見てろ、屋台のオヤジども!
こうして戦果は着々と増し、私はわたあめ・お好み焼き・広島焼・クレープ・バナナチョコ・あんず飴・甘酒・イカ焼を規定量以上にゲットすることに成功した。
まぁ食べきれない分は桃や菊丸先輩にあげたけど。
これから初詣では着物で来ることにしようかなー。そうすれば色々と手に入るし。
でも動きづらいんだよね。それだけが唯一の難点。
下駄って指が痛くなるし、コケ安いし、バランス崩すし・・・・・・。
って、言ってるそばからヨロめいたよ。
「―――――――――――――大丈夫?」
体が傾きかけたのを支えられ、思わず顔を上げた。
「げっ・・・・・・・・・!」
顔が引きつったのが自分でもよ――――――っく! 判った!
私より若干低い位置にある、オレンジ色の髪。
このまえ渋谷で一目ぼれして買ってた茶色のコート。
ニッコリと音が聞こえるくらいに笑っているその男は――――――・・・・・・。
「あーん? 何やってやがんだ、千石」
ジーザス! 神様はそんなに私が嫌いか! 何でだよ!? やっぱり男らしい格好をしていなさいってことなのかよ!!
私と同じ目線にあるグレーの髪。
銀座のブランドショップで買ったらしい10万単位のグレーのコート。
不敵に口元を歪めて笑ってる男は―――――――・・・・・・。
「千石? ・・・・・・・・・それに、跡部も」
後ろから現れた魔王の存在をこんなに喜んだことはなかったよ!今 まさに魔王が神様に見えるよ!
ゴメン、今までゴメンなさい不二先輩! 今度からあなたのことは神様と呼ばせていただきます!
「あっれー不二君。お参り?」
「そうだよ、部活のみんなで」
「そうなんだ。俺も氷帝に混ぜてもらってお参りに来たんだ〜」
―――――――――――氷帝かよ!
跡部だけじゃなくて他にもまだいるのかよ!
しかも、氷帝と言えば奴が・・・・・・・・・!
奴がいる!!
「――――――――跡部部長」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・絶対、今年は厄年だ。そういえばさっき引いたおみくじも凶だった。
手塚先輩が大凶を引いてたからまだマシだと思ってたのに・・・。
この私以上不幸になる手塚先輩ってやばいんじゃないか・・・?
しかしそんな私の心配も他所に、跡部の後ろに複数の影が現れた。
大きいのから小さいのまで、選り取りみどり。
その中の一つがキヨの傍にいる私を見て、目を細めた。
ジーッと観察してきて。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・気づいたよ。コイツ私が私だって気づいたよ!
い―――――や―――――だ―――――!!
どうして、どうして今年の私はこんなに不幸なんだ! これもすべて着物を着たからか!?
もう絶対に着ない。屋台の戦利品も諦める。だから平穏無事な日常を返してくれ!
「跡部部長、一体どうしたんですか?」
私から視線を逸らし、ちょたが跡部に質問する。
あぁぁ・・・無反応が怖いなんてことを一日に二度も経験するだなんて・・・。
「千石がそこの女を捕まえたんだよ」
「彼女は僕たちの連れだから、返してもらえるかな?」
魔王・・・じゃなくて神様がニッコリ笑って奪還を願い出た。あぁ、マジで神様に見えるよ。
気がつけば神様の後ろには青学メンバーも揃っていて。
うっわ、豪華なメンツ。青学テニス部レギュラーVS氷帝テニス部正レギュラー+キヨの出来上がりだ。
でもどうして私が真ん中にいるんだよ。
離しやがれ、キヨ。
「え、この子青学の子なの? 名前は? 俺、千石清純。ヨロシクー」
満面の笑みで私に挨拶したキヨに青学の一部が吹き出した。
主に私とキヨがナンパ仲間だと知っている桃、越前。手塚先輩もちょっと肩が震えてる。
キヨまで判らないかぁ。私の女装ってそんなに完璧なのか。
「俺は跡部景吾だ。オマエ青学の何年だ?」
「・・・・・・二年、ですけれど」
ちょっとしおらしく答えてみたら青学サイドでさらに吹き出した音がした。
キヨと跡部の向こうでは、ちょたがニッコリと笑ってる。
・・・・・・・・・怖い。今度の休みにはどこかへ逃げよう。家にいたら奴に捕まる。
「ふーん・・・おい、オマエ」
何だよ、跡部。いい加減に気づけよ。
「オマエ、氷帝に来い」
なぁにを言っていらっしゃるのかしら、このおバカさんは☆
「おいおいおい、ちょっと待てよ。こいつは青学の奴なんだぜ? 氷帝には譲れねーな、譲れねーよ」
桃、反撃。
「えー氷帝じゃなくて山吹に来てよ。俺と一緒にラブラブ学園ライフしよ?」
何を言ってんだか、キヨは。
「彼女はうちの生徒だ。おまえたちの都合で転校などするはずがないだろう」
お、手塚先輩も攻撃?
「制服代くらい俺が出してやる。青学よりもうちの方が全国的に有名校だぜ? 来て損はねぇだろ」
やだよ、跡部と同じ学校なんて。
「か、彼女の意思を無視するのは良くないと思うよ?」
河村先輩が戸惑いながらも言ってくれる。・・・いい人だ、あなたは。
「えー俺もその子と仲良くなりたい! 氷帝も楽しいよ、どう!?」
向日さん・・・・・・あなたも私が誰だか判らないのか。
「氷帝と青学では学校的にたいした優劣はないからね。行くだけお金の無駄だよ」
乾先輩はノートを開くし。
「ええやんか。俺もあんさんみたいな別嬪さんと一緒に学校通いたいわぁ」
何を言ってるんすか、忍足さん。
「・・・・・・ごちゃごちゃウルセーんだよ、コラ」
海堂はふしゅ〜って言いながら威嚇するし。
「・・・氷帝に来て膝枕して〜?」
ジロさんまで何を言うとる。
「そういうのはやっぱり彼女の許可がいるんじゃないかな」
大石先輩が弱り顔で答えて。
「・・・跡部がウルセーから氷帝に来てくれねぇか?」
宍戸さん。私に跡部のワガママで人生を決めろと言うのか?
「つーかいい加減にすれば? 行かないって言ってんのにバカなことばっかり」
越前、本当に呆れた顔してるな。しかも手にはイチゴ味のバナナチョコだよ。
「・・・・・・・・・氷帝に、来て下さい」
一番まともな頼み方をしたのは結局樺地さんか。
「ふふふ。みんな楽しいね」
不二先輩はニッコリ微笑むし。
「・・・・・・・・・」
こっちを向いて微笑まないでくれ、ちょた! 何も言わないのがマジで怖いんだよ!
「にゃんだ! みんなしてこの子のことが気になってんじゃん!
猫が楽しそうに笑いやがった。
ぎゃあぎゃあと通りの真ん中で口喧嘩を始めた男たち。
美少年が台無し。つーか邪魔なんだよ、いい加減。
いつもは止め役の手塚先輩や大石先輩も今日に限って何故か参戦してるし。
うるさいなぁ・・・。
ギャアギャアギャアギャア
・・・・・・・・・。
ギャアギャアギャアギャアギャアギャア
・・・・・・・・・・・・・・。
ギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャア
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
―――――――――――――――――う・る・さ・い。
「いい加減にしやがれ! このガキ共がっ!!」
ピタッと止まってヤツラが振り向いた。
「さっきから聞いてりゃ人の事で勝手にケンカ始めやがって! あぁ!? おまえたち何様のつもりだ! 私のことは私が決める! 余計な口挟むんじゃないよ!!」
「ケンカしたけりゃサシで勝負しな! 一般の皆様に迷惑かけてんじゃない! ホラさっさと謝る!」
そう言ったら男共はそろってクルッと周囲に向き「すみませんでした」と頭を下げた。
あの跡部から、魔王(神様から戻った)まで。
何故かちょたまで謝ってた。・・・・・・・・・後が怖い。
場が急に静かになって
「・・・・・・・・・・姐さん」
シーンとしていたその場にポツリとした呟きが響いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・今、言ったのは誰だ?
方向、声の感じ、高さからいって―――――――――――。
「・・・・・・俺、知ってる。今の、姐さんって言うんですよね? このまえテレビで見た」
越前――――――――! 何のテレビ見てんだコイツはぁ!!
「・・・・・・・姐さん」
「そうだよ、姐さんだよ」
「ピッタリじゃん。何で今まで気づかなかったんだろ」
「姐さん・・・・・・」
「姐さんだ」
『スミマセンでした! 姐さん!!』
総勢17人の男に頭を下げられた。
周囲の視線は遠慮なく突き刺さってくるし・・・・・・。
何でだよ!!ちくしょう!
もう二度と着物なんか着ないからなぁ!!
結局その後は問答無用で氷帝+キヨと別れて、さっさと家に帰った。
だってすれ違う人や屋台の店員もみんながみんなこっちを見て「姐さんだ、姐さん」とか言ってくるし!
誰が姐さんだっつーの! 極道かよ!!
新学期の初日、魔王にアルバムを渡されて。
「はい、姐さん。あの日の写真。上手く撮れてるでしょ?」
ニッコリ笑ったコイツは間違いなく魔王だった。
そして新年から毎日かかってくる電話はやはり奴で。
『着物可愛かったね。氷帝では姐さんの話題で持ちきりだよ? 今度は着物で一緒に出かけようね』
穏やかな声にちょたとの友情を疑った。(もう今までに何度も疑ってるけどな!)
もう着物だけは着ないと決めた。
きっとこの一年、ずっとテニス部レギュラーから「姐さん」と呼ばれ続けるんだろう。
ちくしょう! やっぱり桃が悪いんだ!
1000倍にして返してやるから首を洗って待ってろよ!!
2002年12月27日