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これは、やはり、たぶん。
私が悪いことになるのでしょう。



だって目の前にいる郭君がめちゃくちゃ泣きそうな顔しているから、さ。





330000hit・笛ポタ番外編『三割引にてお受けします。』





事の始まりは郭君から渡された果たし状だった。果たし状。果たし状。
うーん、どっちかっていうと手袋を投げつける方が郭君っぽいんだけど。
まぁいいや。それは私の勝手なイメージだし? ようは郭君は意外と時代劇が好きらしいってことか。
じゃあ私と話が合うかもねぇ。今度一緒に太秦映画村とか行こうか。ちなみに現地集合現地解散。煙突飛行粉で行くもよし。
お土産には丁稚のちょんまげカツラと、岡引の御用だ提灯。
え? 桜吹雪か印籠がいいって? お金さえくれれば買ってくるからそれでもいいけど。
でも翼さんにはカツラは似合わないだろうなぁ。うん、やっぱりお姫様の衣装にしよう。
「・・・・・・・・・で? クドウさんは俺に対して謝罪とかないわけ?」
「ごめんね。すっかり忘れてた」
素直に事実を言ったら郭君は顔をさらに険しくさせるしー。
もったいないよ、綺麗な顔なのに。好みじゃないけど美形は好きなんだよ、一応。
あーでもこの世界に入ってから美形と出会う確率がずいぶんと上がったなぁ。それはもう日本人の癌死亡率と同じくらいに。
やっぱり探せばいるもんなんだなぁ。
だったら同じように美形じゃない人もいるはずなんだけどなぁ。
何でだろう。魔法界は美形じゃないと入れないのか?じゃあ私なんか入れないじゃん。
今さら学校辞めるってのもねぇ。それは辛いでしょ、ってな感じで。
「本当にごめんね。どのくらい待ってた?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・別に。すぐ帰ったけど」
「そう」
今の沈黙と歯切れの悪さからいくと少なくとも6時間は待ってたと見た。
うっわーごめん、郭君。この秋の夜長にクイディッチ場で一晩明かすのは辛かったでしょ。
ごめんねぇ。でもサッパリ忘れてたんだよ。
昨日の夜は寮のみんなと花札をやっておりました。もちろん勝ったし。
そのまま魔法薬学の勉強して、呪文学の予習をやって、図書館から借りてきた『正しい日記の作り方』を読んで。
でもって試しに日記を作ってたら遅くなっちゃったから寝たんだよね。
本当、サッパリ忘れてたよ!
やばいなぁ、そろそろボケの始まりか。
この年でボケか・・・・・・・。老人介護施設を探すかな。
とりあえずは目の前の郭君をやり過ごしてからだけど。



「それで、郭君は私に一体何の用だったの?」
約束を取り付けるときは「決着をつけたいんだけど」って言ってたけど、私と郭君の勝負はとっくについてるでしょ?
さてはリベンジ? それも面白くていいかもね。
でもまだまだ私には敵わないと思うよ? いや別に自惚れてるわけじゃないけどさ。
こう見えてもこの世界に入ってから否応なしに場数を踏んできましたから。
Sさんとか、Rさんとか、Dさんとか、Lさんとか? まぁ後者二人はそんなでもないんだけどね。
問題は前者二人だろ。なんだこいつらは! 血が繋がってるってなんて厄介なんだ! まったく人間の神秘にも程があるっての!!
あぁでも人間じゃないから神秘に程はないのか・・・・・・。ちょっと、妙に納得。
それにしても見事にスリザリンばっかだなぁ・・・・・・・。やっぱ私、スリザリンに対してフェロモン出してるのかも。
今度不破に解剖してもらおう。実験体になるからその分のバイト代払ってもらって。
受けたい試験があるんだけどそのための資金が欲しいんだよねぇ。
「『決着』って、何の決着?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「郭君?」
だんまりを決め込むのなら帰ってもよいかしら?
あーでも約束を忘れてた私も悪かったしね。うん、もうちょっとだけ待ってあげるよ。
キューピーちゃんのクッキングが終わるくらいまではね。時は金なり。それ以上は待たないから。
それまでに頭の中を整理してプライドも納得させてくれると嬉しいなぁ。



「・・・・・・・・・昨日」
「うん」
「待ってたんだけど」
「うん」
さっきすぐ帰ったとか言ってなかったっけ。
「何してたわけ?」
「ゲームして宿題やって、いたって普通な夜を過ごしてました」
それはもういつもと変わらない夜でした。
「俺はちゃんと『夜九時にクイディッチ場に来い』って言ったよね?」
「うん、言ったね」
その時間は外出禁止だから、見つからないように来いってことだったんだろうね。
「何で来なかったの」
「忘れてたからです」
それはもう綺麗サッパリと。
「・・・・・・・・・何で忘れてたわけ」
「それはやっぱり」



インパクトが薄かったからだと思うんだな。



いやだってもうさぁ、サラザール・スリザリンやリドるん、ハリーやドラコと関わってみなよ。
どう考えたって奴らの行動には突拍子もない事象がつき物なわけでさ。
それからするとただ単に『場所と時間を伝えただけ』の約束は何となくインパクトが薄くなっちゃっうんだよね。
変な耐性がついちゃったなぁ。やばい、やばやば。この癖は直さなくては。
でないと面接時間とかも忘れちゃいそうだよ。うわ、それはヤバイ!
就職は人生の一大勝負なんだよ! もうめちゃくちゃ重大イベント! それをすっぽかすのはさすがに不味いでしょ!
ごめん郭君! 君はいい練習相手になってくれた! 心から感謝する!
私の人生に輝かしい光を照らす道しるべとなってくれたよ!
やーありがとう、郭様! 万歳、郭様!



――――――――――で? まだプライドには蹴りがつけられませんか?
だってもう過ぎちゃったことなんだからウダウダ言ったって仕方ないじゃんか。
だったらもっと時間を有意義に使いなよ。
昨日言いたかったことを今言うとかさぁ、昨日したかったことを今するとか。いっぱいあるっしょ?
夕飯まではまだ時間もあるし、午後五時のニュースまでなら付き合ってあげるからさ。
本当ならドラマの再放送までなんだけどね。今回は私に非があるから一時間無料で延長です。
いやぁ、私っては太っ腹!



「・・・・・・・・・じゃあ、今から俺の聞くことに答えて」
んー、全部には答えられるか判んないけど、出来る範囲でお答えしましょう?
クドウさん、今どこに住んでる?」
うわぁ、いきなり答えづらいとこ突いてくるし。ホグワーツって答えじゃやっぱダメなのかなぁ。
「長期休みとか、どこにいるの? 誰も行き先を知らないなんておかしすぎる。ましてや先生方も知らないなんてね」
どこからどう探りをいれたんだ、君は。
うーん、でもまぁこれくらいならオッケーかな。
「今は一軒家に住んでるよ。場所はよく判らない。煙突飛行粉で直接飛んで行っちゃうから。ちなみにこれは貸家ね」
家賃はいくらかなんて聞かないで下さいな。
少なくとも都内の億ションよりかは安いと思うけどさ。
「誰と住んでる?」
「そこに元からいた屋敷しもべ複数名」
&トム・マルヴォーロ・リドルさん(永遠の16歳)。
「好きな人はいる?」
「恋愛の意味でならいないよ」
「大切な人はいる?」
「恋愛の意味でならいないよ」
「忘れられない人はいる?」
「恋愛の意味でならいないよ。・・・・・・・・・親愛の意味でなら、いるけど」
そう言ったら郭君はその綺麗な顔をゆがめて。
だからさ、もったいないと思うんだよ。
「その指輪は、その人から?」
「・・・・・・・・・違うよ」
左手の中指で光る指輪を、反射的に押さえた。
埋め込まれている石がすこしだけ熱い。
「――――――――――誰から、もらったの」
どうしようって、ちょっと思った。
でも目の前の相手が泣きそうだったから、胸に罪悪感が広がって。
「・・・・・・・・・・郭君の知らない人だよ」
正直に、答えた。



ねぇだから泣かないで。
泣き顔も綺麗だけれど、笑ってる顔の方が好きなんだから。
あぁもう、本当。



クドウさん」
「何?」
見上げた郭君は、やっぱりとても泣きそうな顔をしていて。



「・・・・・・・・・俺のこと、どう思ってる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」





はぁ。今日も一日ご苦労様でした。
なんだかとっても長いような一日だった気がするけれど、それはそれ。人生多く過ごせたと思っておきましょう。
「あ、お帰りアキノちゃん。郭の話は何だった?」
「うーん。尋問、もしくはアンケートだった」
「街頭インタビュー?」
「たぶんそんな感じ」
レイブンクロー寮に帰ってくると多紀がニコニコ笑顔で振り向いてくれた。
手の中にあるのは昨日に引き続き花札。うわ、ひょっとしてこっちでもリベンジ実行中?
つーか多紀。本気で勝ちに行ってるでしょ。性格悪い手だよ、それ。
「なんだー、郭のやつ結局言わなかったのかぁ」
うわ光宏も嫌な手! つーか根性曲がってるってその戦法。
「まぁ仕方ないんじゃないか? タイミングが大事だしな、こういうことは」
お、柾輝は上手い具合にその手を交わしたし。うんうん、やっぱゲームはこうでなくちゃね。
均衡していればしているほど楽しくなるってものよ。
アキノもほら早く! 今日は絶対勝つからな?」
「出来るものならやってごらんなさいな。かぼちゃパイが懸かってるなら負けないけどね!」
「賞品はパイとカエルチョコとゼリービーンズだね」
「じゃあ最初っからやるか」
というわけで札を切りなおして勝負は最初からやり直し。
リベンジなら負けないよ?だてに場数を踏んできたわけじゃないからね!



ごめんね、郭君。私も場数だけは踏んできたからさ。
リベンジはいつでもどうぞ?
真っ赤になって、それでもちゃんと自分の気持ちが言えるようになる日を首を長くして待ってるよ。



まぁ告白をオッケーするかどうかは話が別なんだけどね!





2003年6月20日