袖触り合うも多生の縁





カーレースは反則山盛り手段によって、当然のごとくが勝利を収めた。
「さてと。これで太一君は私のものね」
周囲の人間が遠ざかっていくほどの形相をしている亜久津の隣で微笑むことが出来るのは、やはり彼女が彼の幼馴染みだからなのだろう。
はうっとりとカーレースの座席にもたれ掛かりながら頬を染める。
「十中八九、太一君は初めてだろうからやっぱり私がリードしてあげなくちゃね。場所はやっぱり保健室?体育館倉庫っていうのも捨てがたいけど、最初っからそんなところじゃ後々が大変だろうし。言葉巧みに家に呼ぶっていうのもいいかもね。っていうかそれが一番まともな手段? でもそれだと邪魔が入るかもしれないし・・・・・・」
ニコッと笑って隣を振り向く。
「ねぇ仁。どう思う?」
「・・・・・・・・・」
わなわなと震えている亜久津にその言葉が届いているのかどうか。・・・・・・いや、届いているからこそ震えているのだろうが。
それすらも楽しそうにが声をあげて笑う。
「子犬、頭からバリバリーって」
美味しいこと間違いないよね、という言葉にいい加減反論しようと亜久津が顔を上げると、ふっと視界が暗くなって。
剣呑な空間がカーレースゲーム周辺に舞い落ちる。
「―――山吹中の亜久津だな?」
定番の呼び出し台詞に亜久津は心底うんざりしたように顔を歪めて。
一緒に囲まれているはスッと目を細めて笑った。



「7:3だ」
「えー? 6:4でしょ?」
「ざけんな。道具持ってる奴を4もおまえに任せられるか」
「っていうか仁が4なんだってば」
「・・・・・・てめぇ」
「ほら、来たよ」



とりあえず二人VS多数のケンカは、何故か人数の少ない方がその場を収めた。
それは近隣の高校生不良グループにも恐れられている亜久津に加えて彼女がいたからかもしれない。
空手の黒帯、ある意味亜久津以上に反則を使いまくる
彼女の真の恐ろしさを知っているのは極少数。
そしてそれを知っていても、亜久津はなおこの幼馴染みのケンカを(一応)止めるのだ。
・・・・・・相手のために。



アスファルトの暗がりに転がっている男たちを踏みしめながら表へと歩き出し、は軽く手を開いては閉じてを繰り返す。
「身体、なまったかも」
「・・・・・・あれだけやっといてんなこと言うのか、てめぇは」
「やっぱり最近は道場に通ってなかったからかな。仁に付き合ってテニスやってたし」
「ザケんじゃねーぞ。ガキ喰ってたの間違いだろ」
「ふふふ。メインディッシュはまだだけどね?」
ピクリとこめかみを引きつらせる亜久津に微笑んで、は通りの向こうを人差し指で示す。
不機嫌なままそちらを見れば、話題の餌食・・・・・・もとい、可愛らしいテニス部の後輩で、件の子犬が何故かいる。
今すぐ逃げろ、と亜久津は瞬間的に思った。
しかしそんな彼の考えを知ってか知らずか、は小首を傾げて。
少し色素の薄い髪がサラリと音を立てる。
「今から攫って頂いちゃってもいいんだけど・・・・・・」
ヤバイ、と亜久津は思った――――――が。
「やっぱ止めておこうっと。お友達と一緒みたいだしね?」
「あぁ?」
「見えない?太一君の向こうに同じくらいの身長の男の子が二人いるじゃない」
「・・・・・・」
視線を投げて目を細めると、確かに太一の向こうに同じような体格をした少年が二人見えて、その片方を知覚した亜久津は眉を顰める。
黒髪に生意気な雰囲気をした少年は、忘れもしない青学テニス部員・越前リョーマ。
そして彼の手前、太一とリョーマの間に挟まれるようにいるのは・・・・・・。
「もしも太一君に飽きることがあったら、次はあの子にしーようっ」
嬉々とした幼馴染みの声に亜久津は思わず脱力した。



向こう側の通りでは、子犬と黒猫とバンビが楽しそうに笑っている。





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