袖触り合うも多生の縁
伸ばして触れた額はすでに熱を失いかけていた。
このままにしておけば、あと数分で心臓はその動きを止めるだろう。
それが彼の為なのかもしれない。だとしたらこれは完全に自分のエゴだ。
日番谷冬獅郎は当てた手の平に力を集めて。
「・・・・・・まだ死ぬな」
ゆるやかな光が少年を包み込んだ。
蒼白だった顔がうっすらと血の気を取り戻して、不規則に細かった呼吸が正常へと変わる。
日番谷は知らずに張り詰めていた息をゆっくりと吐いた。
「いいんですか?」
後ろから声をかけてくる副隊長の松本の言葉に一瞬だけ視線を投げかけて、そしてまた足元へと視線を戻す。
アスファルトに零れ落ちている携帯を拾って、少年の手へと握らせた。
心なしか緩んだ表情を見て日番谷は小さく微笑する。
「―――――別に」
黒髪を撫でて、まるで祈るように口にした。
「生きたいと願ってるヤツを死なせたくないだけだ」
とりあえず安定した状態の少年から少し離れた場所で日番谷は周囲を見回した。
背負っている斬魄刀が狭い路地裏の壁にぶつかり、不機嫌そうに眉を顰めると、その服装はパッと一瞬で早変わりした。
真っ黒の死覇装から、現代の若者の洋服へと。
どこにでもいるような少年へと変化した日番谷を眺めながら松本は軽く溜息をつく。
「お帰りは?」
「夕刻までには帰る」
「は熊よりも犬の方が好きらしいですよ」
「―――――!?」
バッと振り向いた日番谷の顔に驚きと焦りの表情が浮かんでいて、思わず小さく笑みをもらした。
「この間、市丸三番隊隊長から熊と犬のぬいぐるみを示されて、は犬を選んでましたから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ご武運をお祈りしてます」
楽しそうに笑って松本は姿を消した。虚を始末したことを報告書にでもまとめるためだろう。
仕事を押し付けたことに微かな罪悪感を覚えながらも日番谷は人並みの多い通りへと足を踏み出した。
とりあえず、目的はバレてしまっているのだから、これ以上の反論は無駄に決まってる。
ならば残された行動はちゃんとした成果を持って帰ること。
通りへと出た日番谷は派手な音を鳴らしている店の方へと歩き出した。
費やした時間、285分。
費やした費用、日本円にして14600円。
費やした努力、計り知れず。
得たもの、ストラップ・ぬいぐるみ・ポーチ・キーホルダー・Tシャツ、その他もろもろ。
もちろん全部、犬製品。
紙袋いっぱいに詰まった戦利品を片手に日番谷は軽い足取りでゲームセンターを出る。
その時に中に入ろうとしていた少年と肩がぶつかり、つい顔をそちらへと向けた。
同じ目線で瞳がかち合って、身長と共に年齢も同じ位の少年だと気づく。
彼の向こうには丸い眼鏡をかけたクシャクシャの黒髪をした少年が見えて。
「ワリィ」
「や、俺も」
何となく会釈だけで通り過ぎるには勿体無いと思って言葉を交わした。
紙袋を抱えなおす日番谷の後ろから少年たちの声が聞こえる。
「ハリー、こっちこっち!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
自分にとっては何年前の出来事だったかな、なんて考えながら日番谷は人間界を後にするのだった。
彼が戦利品をちゃんとに渡せたかどうかは、神のみぞ知る・・・・・・のだろうか?
花も嵐も踏み倒せ→誰かの願いが叶うころ→?