袖触り合うも多生の縁





「美味しい?」
コクン
「そう、良かった」



ケーキと紅茶が美味しいとOLさんたちの間で評判のお店の一席で、そんな会話が交わされていた。
問い掛けるのは無表情だけれど、整った顔立ちをしている髪の長い青年で。
問い掛けられているのは銀髪の、可愛らしい容姿をした女の子。
二人揃うとまるで人形が並んでいるかのように見えて、周囲の人々は彼らの関係や年齢差などを推測しながらチラチラと視線をやっていた。
けれどイルミ=ゾルディックはそんなものは露ともせずに目の前の少女、へと話しかける。
「こっちも食べる?」
コクン
「はい」
俗に言う『はい、あーん』に周囲は思わず動揺してフォークを落としたり紅茶を零したり。
けれど当の本人たちは至って普通にやり取りをしていて。
は差し出されたフォークにパクついて、フォンダンショコラをあむあむと咀嚼する。
「美味しい?」
コクン
「そう、良かった」
朗らかなティータイムである。



テーブルの上には美味しいケーキと紅茶。
空いている席には丁寧に扱われていることを証明しているかのように座っているクマのぬいぐるみ。
向かいには一緒にフラフラと旅を続けている少女。
イルミは手を伸ばしての頬についているクリームを拭った。
「これから何処に行きたい?」
「?」
「遊園地もいいけど温泉とかも捨てがたいよね。まぁが楽しければそれでいいけど」
手を挙げてウェイトレスを呼ぶと、今日のおすすめケーキを追加して。
イルミ自身はコーヒーをご注文。
はグラスの外側についていた水滴を指にとると、机へと走らせる。
おしごとはいいの?
「政府関係者を三人殺すだけだから一時間もあれば十分だし、明日には発てる」
じゃあね、ゆきがみてみたい
「雪?」
コクリ
「判った。じゃあスキーでもしに行こうか。温泉のついたロッジとか借り切って」
ニコニコ
こうして青年と少女のぶらり旅は続いていく。



代金をちゃんと支払って店を出る。
通りを占める人の多さにイルミは本当に本当に本当に少しだけ眉を顰めて、そして隣のへと手を伸ばした。
はぐれることのないように、どこにも離れていかないように。
きゅっと握ってくる小さな手に目だけで笑って。
そんなイルミにも嬉しそうに口元で笑った。
しかしそんな上機嫌も一歩踏み出した途端にぶつかった相手によって不機嫌へと変わる。
まぁじゃなくて自分にぶつかっただけマシだけど、なんて思いながらイルミは相手を見下ろした。
蒼白な顔と、虚ろな瞳が視界に映って。
心臓の位置を握りしめている右手にはうっすらと筋が浮かんでいて。
「・・・すぃ、ませ・・・・・・」
今にも崩れ落ちそうだと思った。



頼りない、儚ささえ感じさせる背中が細い路地へと消えていく。
イルミはその後ろ姿を見送って呟いた。
「今、殺しておいた方がいいかもね」
依頼なんかじゃないけれど、でもそう思った。
この手で一突きに心臓を貫いてやった方が彼の為だと。
路地裏へ行こうとして、引っ張られる感触に視線を下ろす。
そこでは銀色を髪を揺らして、が首を横に振っていた。
ころしちゃだめ
「何で? これ以上苦しむより楽になった方がいいと思うけど」
でも、だめ
まっすぐな眼差しがイルミの黒い瞳をとらえて。
その様子が少しだけ泣きそうに見えたから、思わず握っている手を強く繋いで。
そしてもう一度だけ、路地裏を見た。



がぎゅっと、手を握った。





ベチュニア→天使とピストル→?