袖触り合うも多生の縁
約束の待ち合わせ場所である駅前についたとき、不二周助はにわかに眉を顰めた。
不機嫌なオーラが。そう、ものすごく不機嫌なオーラが周囲に充満しているのを感じて。
人々はそのオーラの勢力圏内に入ると、まるでロボットのように金属音を立てながら、ブリキよろしく不格好に動いている。
それらすべてを行わせている張本人は軽く駅の壁に寄り掛かっていた。
絶世の美貌と、それに似あわない言葉遣いをする青年。
。彼こそが不二の敬愛する待ち合わせ相手だ。
どうやって声をかけるべきか。不二がそう悩む必要はなかった。
とてもとても不機嫌でも、その美貌がさらに際立って見えるが不二よりも先に相手を見つけたのである。
まるで視線だけで相手を殺せそうな勢いに不二は思わず引いて、けれどソロソロと近づいた。
「・・・・・・・・・てめぇの所為だ」
互いの距離が2メートルになったところで、ポツリと呟きが落ちる。
「え?」
「てめぇが遅れて来んのが悪い」
今度はハッキリと不二の耳にも届いた。
「てめぇが遅れて来やがるから余計な奴に会っちまったじゃねぇか。・・・・・・ちくしょう。買い物なら銀座御用達のくせして新宿なんか来てんじゃねーよ」
「・・・・・・・・・、さん?」
「あぁもうちくしょ・・・っ!」
乱暴に唇を拭う仕草でさえもまるでモデルのように・・・・・・いや、モデルよりも美しくて、不二は胸を静かに熱くさせる。
しかしすぐに我に返って尋ねた。
「誰かに会ったの?」
「・・・・・・・・・」
沈黙が不機嫌オーラを二乗にして、街行く人々はブリキの玩具どころか氷の像へと姿を変える。
しばらくその世界を形成した後、は憮然とした面持ちで吐き捨てた。
「昔のオンナに会った」
どんよりとした、まるで魔界のようなオーラがあたりに立ちこめている。
暗雲を呼び寄せている本人である不二は両肩をずっしりと落としながら道を歩いていて。
その隣を普段と何も変わらずに歩いているは、どうやら不二のこの様子を見て溜飲を下げたようである。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「言いたいことはさっさと言え」
周囲の人間たちの歩きづらい様子を見かねたのか、それともいい加減にわずらわしくなってきたのか、おそらく後者だろう美貌の青年が言った。
には敵わないが、美少年には違いない不二が顔色までも悪くさせながら、それでも堪え切れずに口を開く。
「昔のオンナって・・・・・・」
「恋人。それ以外に何がある」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ウザイ。いい加減にしろ」
恋する少年を一刀両断に斬り伏せて、はカツカツと道を歩く。
その整いすぎている美貌にすれ違う人たちはほとんどの確率で振り向いて。
けれどそれには慣れているのか、本人はまったく無視して歩き続ける。
「聞きたいのか聞きたくないのかどっちかにしやがれ」
その言葉に泣きそうになりながら不二は唇を噛んだ。
もう二度と待ち合わせには遅刻なんてしない、と心の中で誓いながら。
「・・・・・・・・・さんは」
からからに乾いた咽が張り付いてしまって声が出ない。
「、さんは」
伏せている視線に映るのはアスファルト。
涙が零れないことを頭の隅で祈った。
手を握る。唇が震える。
「さんは・・・・・・その人と、僕と・・・どっちが、好き・・・・・・?」
今にも泣きそうな声に、は柔らかく微笑した。
不二には見えなかったけれども。
どちらもオーラは発さないで道を歩く。
オーラがなくても周囲の視線を集めてしまうのは当然のことなので、それはそれで置いておいて。
「てめぇの所為で昼飯がピークの時間になっちまったじゃねーか」
「うん、ごめんなさい」
「先に買い物した方が良さそうだな」
「あ、由美子姉さんに美味しいケーキと紅茶のお店を聞いてきたんだ。後で行こうよ」
「あーはいはい」
適当にあしらわれながらも不二は幸せそうににこにこと笑っていて。
はどうでもいいように奇麗な顔を変えずに答える。
そんな兄と弟にしか見えない会話をしている二人の視界を銀色の髪が横切った。
染めているようには見えない自然なその色に思わず視線が引きずられて。
小さな少女は左手にクマのぬいぐるみを持ち、右手は青年の左手に繋がれている。
「・・・・・・・・・誘拐?」
年齢差からいってありえなくもない可能性を不二が挙げると、は「バーカ」とそれを一蹴して。
「それなら俺とおまえだって犯罪だっての」
「違うよ。だって僕は自分の意志でさんと一緒にいるんだから」
「だったらあの二人だってそうだろ」
軽く顎をしゃくって示して見せて、はさっさと歩き始める。
「あ、ちょっとさん!」
それはある晴れた休日の昼下がりのこと。
終わりのない道を走れ!→ベチュニア→?