袖触り合うも多生の縁
今日発売の推理小説を買おうと思って本屋まで出かけた。
二冊あるから両方買おうか、それとも友達と貸しあいっこでもしようかとか考えていたら、なんだか見たことのある髪型が遠くの方に見えて。
しかもその人がどうやら私の目的地にいるようだから、いたって普通に声をかけた。
「こんにちは、菊丸先輩」
「うわあああああああぁぁぁぁぁっ!!??」
・・・・・・ごめんなさい、本屋さんにいた人。
挙動不審な菊丸先輩にどうにか挨拶をして。
その手の中できつく握りしめられてしまっている本に少し覚えがあったので聞いてみた。
「菊丸先輩、その本・・・」
「えっ!?うぁ、なに!?」
「買うんですか?」
本日発売の人気作家のミステリー。
私もこの本を買おうと思って来たんだよね。菊丸先輩も私と同じセレクトなのかな。
だったら趣味が合っていいかも・・・・・・・・・・。
って、あれ?
「菊丸先輩って推理小説とかって読むんですか?」
一応告白されてからというものの、菊丸先輩に関する情報は友達や桃を通じて聞かされてるつもりなんだけど。
でもその中に推理小説好きっていうのは入っていなかったような・・・・・・。
疑問に思って尋ねたら、菊丸先輩は何故か顔を真っ赤にして、まだ代金の払っていない本を握りしめて。
――――――またしても、挙動不審。
そんな状態が三分も続いただろうか、菊丸先輩はようやく、本当にようやく顔を上げて、まっすぐにこっちを見て。
大声で言った。
「・・・・・・ちゃんが、好きだから!」
―――大声で。
視線が痛い・・・。視線が痛いよ・・・・・・。
ザクザクと突き刺さってくる視線を見回す度胸もなく、ただボーッと菊丸先輩を見ていたら、先輩はどうやら自分の発言の意味合いに気付いたのか、さっきよりも顔を真っ赤にして両手をブンブンと振り出した。
「――――――や、まっ、ちが、じゃなくてっ!」
はい、何でしょう。
「ちゃんが推理小説好きだって聞いたから、だったら同じ本を読めばもっと仲良くなれるかなって思って、だから買いに来てて!」
私が推理小説が好き(おそらく友人からの情報だろう)
↓
同じ本を読めば仲良くなれる(たしかにその可能性は高い)
↓
だから買いに来た(・・・・・・)
「・・・・・・」
「・・・、ちゃん・・・?」
何かこういうのはちょっと自意識過剰だと思うんだけど。
でやっぱり告白されている身としてはこう思ってしまうのも仕方ないと思うわけで。
つまり何?
菊丸先輩が推理小説を読もうとしているのは、私のことが好きだからというわけ・・・?
自意識過剰だとは思うんだけど。
ああ、でもそうだとしたら。
もし本当にそうなんだとしたら。
思わず感想がもれてしまった。
「菊丸先輩、可愛い・・・・・・」
「にゃー!!」と何故か泣き叫びながら走り去っていった菊丸先輩。
途中で私と同じくらいの背丈の男の人とぶつかった。
どことなくぬいぐるみみたいな容姿をしているその人は、何故か手の平で目元を押さえていて。
その様子に菊丸先輩と同じ雰囲気を感じるのは気のせいだろうか・・・・・・。
うん、とりあえず。
菊丸先輩が持ち逃げしてしまった本の代金は私が払うのかな?
セピア→The ups and downs of life.→?