伸ばした足を優雅に組みかえる。
すぐに答えるなんてことはしてやらない。
長すぎるほどの間を空けて。
緩やかに甘い笑顔を浮かべた。



「教科書・魔法薬調合の138ページをよく読んでから出直してらっしゃい、郭君?」



そういえば昨日寮で観た女王様の映画、すごく面白かったなぁ。





190000hit・笛ポタ番外編『パンがないならお菓子をお食べ』





。あの映画、シリーズものだけど続きはいつ観る?」
「あ、じゃあ是非とも今日で」
「魔法薬学のレポートは?」
「バッチリです」
のんきにクッキーを食べながら答えると翼さんはオッケー、と頷いてくださった。
よって今夜はレイブンクローにて上映会が決定。
睡眠不足になるかもだけど、でもあの映画はマジで面白かったし。
普通よりちょっと苦労してる女の子が突然王室の血筋だってわかってお姫様に変身!
そうしたら王&后が急死して一気に女王様への階段を駆け上って、気がつけば独裁君主!
そんな彼女が自分を捨てて街のお嬢様と婚約した元彼に言う台詞が↓だ。
『私に見合う男になってから出直してらっしゃい、シリウス?』
オー! ブラボー! ワンダフル! トレビアーン! エクセレント!!
まぁ全部カタカナ英語及びその他なのはわざとだから放っておくとして。
やっぱねぇ、女性のあるべき姿はこれでしょう。うんうん、よしよし。Yes! ・・・ってこれじゃあ郭君になっちゃうよ。
郭君が二人? 二人して「当然でしょ」って? あー・・・・・・・・・うん、それもよし。
ちゃん、そんなに面白かったん? その映画」
おやまぁノリックさん。そのポテチはもらっても良いのですか? そうですか、そうですか。
「ときどき不意にコンソメとか食べたくならへん?」
「あー判ります。個人的にはピザポテトとかも好きですけどね」
「僕も好きやで、ピザポテト。あのチーズのとこがえぇんよ」
「そうそう。趣味合いますねぇ、ノリックさん」
「そうみたいやな。ほな僕ら、結婚しても上手くやっていけるで」
「そうみたいですね」
少なくとも食事の面ではケンカすることはないだろう。
まぁ同棲する上で食の趣味が合うのは大事だね。夏がダメだったりセロリが好きだったりするしね?
んーでもノリックさんじゃ電球を換えるときに踏み台が必要かも。それを言ったら翼さんもか。
杖を一振りすればパッと換えられるかもしれないけど。というか電球じゃなくてロウソクなのか?魔法使いって。
普通の家に行ったことないからイマイチ判らん。
「俺ならさん好みの料理も作れるぞ?」
おやまぁ渋沢さん。その梅昆布茶はもらっても良いのですか? そうですか、そうですか。
さんは肉じゃがに白滝を入れる派かな? それとも糸コンニャク?」
「私は白滝ですね。ちなみに酢豚にもパイナップルは入れる派です」
「あっはっは! 渋沢、入れへんやん! こりゃちゃんと同棲は無理やなぁ」
「甘いな、吉田。パイナップルを入れようが入れなかろうが酢豚は酢豚。同じだろう」
「それ、シェフの言うことやないで」
「私もそう思います」
「じゃあ二つ作ろう。さんのパイナップル入りと、俺の入っていないのと」
「でもそれじゃ食費がかかりません?」
「俺が稼ぐよ」
「オッケーです」
そして私も働いて稼ぐから収入は単純計算で二倍。そうしたら食費が普通より嵩んでも賄えるだろう、うん。
そうしたら他に予算が回せるね。うーん、優先すべきは何だ・・・?
とりあえず、水道代と光熱費でしょ。あと養育費? って子供を生むのは誰だ?私か?それは嫌かも。
じゃあ渋沢さんに生んでもらうしかないか。まぁ平気でしょ。何でも出来るのが売りっぽい魔法界のことだし。
きっと平気。オーケーオーケー。ドンマイ・ハニー。・・・・・・相変わらずのカタカナ英語☆
「僕は洋裁が得意ですから服は全部手作りで買わないで済みますよ〜?」
おやまぁ須釜さん。その団扇はもらっても良いのですか? そうですか、ダメですか。
「ローブからスカート・ネクタイに靴下まで、布さえあれば何でも作れますよ〜」
「だったら僕はスッチー希望やな。タイトなスカートで後ろにスリット入れてや」
「俺は看護婦さんかな。薄いピンクもいいけどやはり基本は白だろう。白衣の天使と言うくらいだし」
「えー私は婦警希望なんですけど。ミニスカポリスとか白バイ隊とか。基本でしょう?」
「えぇ、基本ですね〜。まぁ僕としてはメイドさんなんかもいいと思いますけど」
「あーいいですねぇ」
「でしょう? きっとさんによく似合いますよ〜」
「そうですか? まぁコスプレイヤーさんにはなれるでしょうけどねぇ」
「大丈夫。僕が保障しますよ〜」
というわけで保証書がつきそうなので、私は無事に真夏のお台場へと行けそうな様子。
一眼レフを抱えたお兄様方のアイドルとなるか、それとも凝りに凝った衣装で会場中の目を向けさせるか。
どちらにせよ全ては須釜さんの趣味によって決まるんだろうね。私はリカちゃん人形のごとく良い子にしてよう。
・・・ってことは何か。須釜さんはジェニーちゃんやらバービーやらで遊ぶ幼女と変わらないということか?
うーん、まぁ趣味はひとそれぞれだしね。それはそれでよし。
でも私個人の意見と致しましては、やはりお人形さんごっこは私よりも翼さんでやった方が似合うのではないかと。
、おまえ何か失礼なこと考えてるだろ」
「滅相もございません、お館様」
「よきにはからえ」
「ははーっ」
ってダメだよ、翼さん。これじゃあ時代劇になっちゃうよ。目指すはロリータなメイドさんだったはずなのに。
私が主人で、翼さんがメイドで。
「・・・・・・・・・やっぱり碌なこと考えてないだろ、おまえ」
「滅相もございません、旦那様」
あーこれじゃあ執事になっちゃったよ。失敗失敗。
中々に難しいなぁ、メイドさんごっこって。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・人の目の前でバカなやり取りしないでもらえる?」



あ、郭君。そんなトコにいたんだ。
テーブルの向かい側で羊皮紙に何やら書き込んでいるお姿。
あ、ちゃんと138ページを開いて書き直してる。やーもう可愛いねぇ、郭君は。
でも可愛さでいったら容姿では翼さんが一番なのだよ。性格でいったら・・・・・・・・・真田君か、香取先生で。あ、でも天城君も捨てがたし。
「お菓子とお茶を差し出されて、片側では団扇で扇がれて。さぞかし気分がいいでしょ、さん。一体何様のつもり?」
「女王様のつもりだけど」
あ、郭君が固まった。というか、大広間全体が固まった?
瞬間冷凍されなかったのは昨日一緒に映画を観たレイブンクローの寮生と、流石というか監督生のみ。
というかノリックさんにお菓子を貢がせて、渋沢さんにお茶を注がせて、須釜さんに団扇で扇いでもらっている私は女王様以外の何者でもないでしょう。
見てわかんないかな? じゃあ今度は見目麗しいドレスとかも用意しないと。
あーでもそれにはお金がかかるし。やっぱ雰囲気だけで勝負するか。うん。
というか光宏たち、笑いすぎ。そして郭君、インクが零れて羊皮紙に染みを作ってるよ?
出来のいいレポートがダメになるのは勿体無いから、杖を一振りして染みを取っておく。
間違いはあったけどさ、郭君の書くレポートは要点がよくまとまっていて読みやすいし。
理路整然さでは不破の勝ちだけどね。つーか完勝でしょ。
「・・・・・・・・・」
「どういたしまして」
郭君、ポーカーフェイスが出来ないね。うちの寮に来たらゲームの餌食になること間違いなしだよ。
まぁ腹芸が出来ないに越したことはないけどね。出来たら出来たで活用のし甲斐があってよいけれど。
行き過ぎると監督生四人のようになっちゃうから。それだけは止めておいたほうがいいと思うよ?まぁどうしてもって言うなら止めないけど。
だってこの四人は人間外だよ? あ、でも魔法使いなんだからすでに人間じゃないのか。
規格外にもほどがあるよね。是非とも親御さんの顔を拝見してみたいよ。でも見合いは勘弁。
「せっかくの綺麗な顔なんだから歪めたりしないでよ。勿体無いなぁ」
「・・・・・・・・・大きなお世話。誰が直してなんて言った?」
「誰も? でも私は大きな世話を焼くのが好きみたいだし」
「迷惑だね」
「でもこれもすべて郭君が好きだからだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
大広間が再度固まった。だけどレイブンクローのみんなは笑いすぎ。柾輝、インク瓶を倒すよ?
それで羊皮紙が真っ黒になったら笑いものだけど泣きものだよね。だってせっかくの努力が水の泡。インクの無駄。時間も浪費。
つまりは金の無駄。時は金なり。先人はよく言ったものだよ。
ちゃんは郭が好きなんかぁ」
「好きですよ。だって郭君は可愛いですから」
「そうか、郭が好きなのか」
「そうですよ。だって綺麗じゃないですか」
「郭君が好きなんですね〜」
「実はそうなんですよ。だって楽しいでしょう?」
ニコニコニコニコニコニコニコニコニコ
三人の監督生とニッコリと微笑んで。その向こうで翼さんは机を叩いて笑っている。
大広間はレイブンクローの笑い声だけが響いて変な空間になってるし。
郭君は机の向かい側で目を大きく見開いて、固まったように全身で硬直して。
あ、またインクが落ちた。仕方ないなぁ。
杖を一振り、ボランティア精神を発揮してあげましょう。
甘く微笑んで、相手を見つめて口を開く。
「だからさ、郭君。私の愛のお返しとしてね?」
ビクッと身を震わせた彼に愛情を込めてハッキリと告げる。



「ひざまずいて靴をお舐め」



あぁ女王様って素敵すぎ!!
やっぱ今夜は徹夜で上映会に決定!



「常々思うけどさ、の思考回路についてけっていう方が無理なんだよね」
あらまぁヒドイお言葉、翼さん。私はいたって普通の乙女ですのよ?
「郭の奴、これでしばらく監督生のオモチャ決定だね。あーまったくカワイソウに」
「心がこもってないですよ、翼さん」
顔がめちゃくちゃ笑ってるし。あーでも判るけどね。新しいオモチャを手にした喜びは。うんうん、わくわくするものなのよ。
どうやって遊ぼうかな、とか。どうやって楽しもうかな、とか。どうやって虐めようかな、とか。
無限に広がる未来を描いて胸を躍らせるものなのです。
まるで明日から学校に入学する新入生のように。・・・・・・・・・決して新社会人ではないんだけど。
「でも郭君、少しくらいサービスしてくれてもいいのになぁ」
靴を舐めろとまではいかないにしても、「ご無礼を、女王様」とか言って殴ってくれても良かったのに。
無反応で硬直かよ。ちっ。つまらん。
「騎士のごとく手の甲にキスしたら目が覚めるかなー」
「ふふ。それはなおさら凍らせるだけだから止めといた方がいいよ、ちゃん」
「あ、多紀。レポート終わった?」
「うん、終わったよ。みんなももう終わるんじゃないかな」
「じゃあ上映会決行ってことで」
翼さん、ビデオはどこですかー?
「玲に言えばすぐに貸してくれるよ」
・・・・・・・・・なるほど。あれは西園寺先生の私物だったのか。
素敵、西園寺先生! 一生ついていきます! だから今度、コレクションを是非とも見せて下さいませ!!
そして一緒に観賞を! そして語り明かしましょうとも、徹夜だろうと何だろうとオッケーです!
ホグワーツの女性全員集めて、女の園のトーク大会開演さ! 盛り上がること間違いなし!
「そうと決まったら出陣せよ、皆の衆!」
「「「「「Yes, sir」」」」」
レイブンクロー寮生、娯楽を求めていざ行かん! さらば郭君、また会う日までどうかご無事で!
「大丈夫やって、心配せんでえぇよ。僕らがちゃんと郭の相手しとくさかい」
さんは遠慮せずに映画を楽しんでおいで」
「また明日、お話しましょうね〜」



「郭君、お休み」



監督生には手を振るだけで答えて、郭君には笑顔つきで挨拶。
明日の朝日が拝めるといいね? まぁ頑張って下さいな。



女王様の直属の部下に弱い兵士は必要ないんだからさ。





2003年4月16日