「ジロー」
・・・・・・誰かが呼んでる。
「ジロー、起きろ。もう授業は終わったぞ」
少し高めの、綺麗な声。
あー・・・これ、の声だ。
起きなきゃ。が起こしてくれてるんだから。
重いまぶたを頑張ってこじ開ける。
そして見えた、可愛い顔。
「・・・おはよー」
「もう放課後だけどな」
小さく口元だけで笑って、それがまたカッコイイ。
は俺の大切なクラスメート。
(親友かなーって思ってるけど本人に確認したことないから、とりあえず)
10000hit・前途多難な彼の恋愛
「おいジロー。部活行くぞ」
何か偉そうな声が聞こえる。
あー・・・跡部だ。
「何だ。相変わらず女みてーな顔してんな」
ちょっと跡部ー・・・に絡まないでよ・・・。
毎日毎日放課後に迎えに来てさ。
理由くらい分かってるんだよー、に会うためでしょ。
去年は迎えになんか来なかったくせに・・・。
今年は俺とが同じクラスになったからってさ・・・俺をダシに使って。
「人の身体的特徴を馬鹿にするのは止めたほうがいいよ。器の小さい人間に見られる」
うわー・・・もいつもながら容赦ないし。
「負け惜しみか? 中三にもなって身長151cmじゃ女に間違えられても仕方ねぇだろ?」
「勝手に言ってれば? 俺はクダラナイ人間と話しをするほど暇じゃない」
スパッてよく切れるナイフみたいにが言い捨てる。
のかけてる銀縁眼鏡がキラッて光った。
・・・っていうか、なんか跡部嬉しそうだし。
ひょっとしてマゾなのかな・・・?
跡部はサドだと思ってたのに。
「、おまえこの前二年の男に告られたんだってな」
ピクッて肩を震わせての動きが止まった。
跡部はなんだか楽しそうに笑ってるし。
・・・・・・部活行くんじゃないの・・・?
「・・・誰から聞いた」
うわぁ。の声がものすごく低くなってる。
「さぁな。でも学校中の奴が知ってんじゃねぇの?」
・・・・・・・・・知らないと思うけど。
だってさ、跡部、そのに告ってきた男を昨日呼び出して脅してたじゃん。
『二度とに近づくな』とか言って。
噂になりかけてたのをもみ消したりもしてたし。
それなのにどうしてそんなこと言うのかなー・・・。
好きな相手に意地悪な態度しか取れないなんて、小学生レベルじゃん。
可哀想、跡部。
は、すごくモテる。
身長は小さいけど、顔はものすごく整ってて綺麗だし。
黒髪がサラサラしてて触り心地もいいんだよね・・・。
勉強も学年トップだし、運動も出来るし。
女の子がいつもお菓子持ってきたり、一緒に遊びに行こうって誘いに来る。
ときどき、男も来るけど。
確かには美少女顔だけどさー・・・性格はすごくカッコイイし。
うん、俺、のこと大好き。
跡部より好きかも。(だって跡部はオレ様だから)
「俺がモテるのなんて今更だろ」
おー、が認めた。
「それとも何? 跡部は俺が告られたのがそんなに気になるわけ?」
にやりってが笑った。
跡部はピクッて眉を動かす。
「・・・別に。同性に好かれるなんて情けねぇと思っただけだ」
「ふぅん、そう」
・・・・・・・・・なんだか、跡部が本当に可哀想になってきたかも。
これじゃあさ、一生と両想いになんてなれないよ?
はでニッコリ笑顔を浮かべてるし。
がこうやって笑うときは、かなり不機嫌なときなんだよねー・・・。
「気にしなくても跡部に好かれようとは思ってないから安心しなよ。跡部は俺の好みじゃないし」
グサッ
そんな効果音が跡部の方から聞こえた気がする。
心臓一突きされちゃったかな・・・。
でも自業自得だよ、跡部。
反対にはすっごく楽しそう。
「俺の好みは素直な子だから。跡部みたいにワガママなんかじゃなくてね。そうだな、テニス部でいうなら二年の樺地かな」
「樺地!?」
跡部ショーック。
顔に縦線が入ってるよ。
でもはそんな跡部を放って、「もちろんジローも好きだよ」って笑ってくれた。
だから「俺もスキー」って返した。
跡部はまだ魂が抜けたまんま。
えーっと、こういうとき何て言うんだっけ・・・?
・・・・・・・・・。
あ、分かった。
『ご愁傷様』だ。
ご愁傷様、跡部。
「じゃあ俺は帰るから」
が跡部をタヌキの置物みたいにシカトして、鞄を肩にかける。
「ジローは部活だろ?」
んー・・・・・・だけど眠い・・・。
眠いよ。一緒に寝ようよー・・・。
「バカ、俺は帰るんだよ」
苦笑する。
は俺にすごく優しい。
っていうか跡部だけに厳しい。
いつか聞いてみたことがあるんだけど、が言うには、『跡部っていじめたくなるんだよな』だって。
嫌いじゃないみたいだけど、特別に好きってわけでもないみたい。
・・・・・・ってことはオモチャ?
ご愁傷様、跡部。
「ほら、これでも食べて頑張れよ」
パラパラパラッて降ってきたのは飴。
ママの味がするっていうやつ。
「また明日な、ジロー」
うん、また明日ね。。
バイバーイって手を振ったらも振り返してくれて。
・・・・・・っていうか、跡部このままでいいのかな。
榊監督に怒られたりしない?
そう思ってたらが呆れたように肩をすくめて。
「景吾」
跡部の電源が入った。
でも挙動不審。
・・・・・・・・・見てて面白いくらい動揺してる。
はニッコリ笑って、ポンッと飴を放った。
「また明日な」
そう言って教室を出て行く。
・・・・・・・・・罪作りな。
跡部、今ので絶対にに惚れ直しちゃったよ?
今も顔真っ赤にしてるし。
・・・・・・・・・よかったねぇ、跡部。
これからも頑張って。
は俺のクラスメート。(明日、親友なのか聞いてみよう)
跡部は俺の部活の部長。
どっちも好きだからさ、うまくいってほしいんだよね。
・・・・・・まだまだ前途多難っぽいけど。
跡部が頑張るしかないんだから。
だってはもうとっくに跡部の気持ちを知っちゃってるし。
飴を一つ口に入れたらちょっと幸せな気分になった。
せっかくがくれたんだし。
部活、寝ないで頑張ろうっと。
余談だけど。
その日から跡部のパスケースには飴の包み紙が大切そうに入れられている。
それを忍足や向日がからかったりして。
あーあ、ホントに前途多難。
ご愁傷様、跡部。
2002年8月31日