099:ラッカー
梅雨の雨も途切れ、綺麗な青空が広がった六月のある日。
幸せの鐘が鳴り響く。
「おめでとう、周助。これであなたも旦那さんになるのね」
黒のドレスに身を包んだ由美子に言われ、不二周助はゆっくりと頷く。
「うん。ありがとう、姉さん」
「幸せになりなさいよ?」
「うん、必ず」
穏やかな笑みで頷く不二はいつも以上に嬉しそうで、幸せそうで、そんな顔を見て由美子も安心したように微笑む。
不二の身を包む真っ白のタキシード。
色素の薄い茶色の髪とあいまって、それはとても綺麗に映えていて。
その上とても幸せそうな花婿の笑顔。
きっとこの結婚は上手くいくわ、と由美子は得意の占いを試すまでもなく確信した。
「でもまさか兄貴がアイツと結婚するとはな・・・・・・」
まだ信じられない顔の裕太に由美子はあら、と口元だけで笑って。
「私はきっとこうなるだろうと思ってたわよ? だって本当にお似合いだもの、二人とも」
姉の言葉に不二はやっぱり嬉しそうに笑って、白い手袋を丁寧に重ねなおす。
「でも大変だったんだよ? 彼女はどんどん綺麗になっていくから邪魔者の排除だけでも精一杯で」
「排除って・・・・・・」
「裕太と彼女はよい友達だもんね。それならいいんだけど」
ニッコリと微笑む兄に裕太はビクッと身をすくめて姉の背後へと隠れる。
いくつになってもこの兄弟の力関係は変わらないらしい。
「まぁまぁ周助。裕太と彼女が仲良しなら今後も心配しなくていいじゃない。きっと私たち家族とも良くやっていけるわ」
「うん。僕も彼女の親族に気に入られるように努力しなくちゃ」
「・・・・・・でもアイツの母親はかなり兄貴のこと気に入ってるじゃん」
おずおずと口を挟んでくる裕太に不二は幸せ120%で微笑んで。
「そうだね、お義母さんはジャニーズ顔がお好きみたいだから。僕、美形に生まれてこれほど感謝したことはなかったよ」
アッサリサッパリと言い切る兄に裕太はやはり引いて、由美子は思わず苦笑した。
今の台詞は紛れもない本心だと思いながら。
そんな会話がひと段落した頃、コンコンッとドアをノックする音がして。
「花嫁さんの準備が整いました」
待っていましたとばかりに不二が立ち上がる。
その行動のあまりの速さに姉と弟は「そんなに彼女に会いたいか・・・」と変に感心して、けれど不二に続いて花嫁の準備室へと向かう。
閉められたドアの前で、少し緊張した面持ちで不二が深呼吸をして。
二回ノックをすると、中から綺麗な女性の声で「どうぞ」という返事が返ってきて、不二はもう一度深呼吸して扉に手をかける。
ゆっくりと開いていくドアの向こうに純白の衣装を身にまとった花嫁がいて。
そのあまりに美しさに、自分のあまりの幸福さに、これからの甘い未来を思い、不二は熱くなった胸を感じながら微笑んだ。
「・・・・・・・・・綺麗だよ、」
「・・・――――――っていう夢を見たんだけど、どう? 何か心当たりはある?」
朝起きてくるなり姉に夢物語を聞かされて、不二はうっすらとその目を見開く。
朝食のフレンチトーストを食べるのも話の途中からストップしてしまっていて、すでにかなり冷めてしまっていた。
「・・・・・・・・・・・・それは、ないと思うよ」
「あら。私の夢がよく当たることは周助だって知ってるでしょ?」
「いやでもホント、それだけはないと思うから」
「ってことは周助は知ってるわけね、そのちゃんっていう子」
ニッコリと笑った由美子に周助は思わずしまった、と顔に出してしまって。
そんなところにドアを開けて現れた帰省中の次男。朝に弱い彼はまだ眠そうである。
「・・・・・・はよ・・・」
「おはよ、裕太。ねぇちょっと聞くけど、裕太は『』っていう女の子知ってる?」
「『』・・・・・・・・・?」
ぼんやりとした様子で瞼をこする裕太に由美子は頷く。
そこでやっと我に返った不二が止めようとするが一瞬遅くて。
「・・・・・・・って、だろ? 知ってるけど・・・」
「本当? どんな子? 可愛い? 綺麗?」
「いや、美少年な感じの女だけど・・・」
「あら素敵! じゃあ今度うちに連れてきてくれない? ラズベリーパイ焼いておもてなししちゃうわ!」
「・・・も、美人な女の人好きだから、たぶん平気だと思う」
まだ寝ぼけているのかのんびりと答えを返す裕太に、不二は思わず舌打ちして。
けれど満面の笑みを浮かべている姉には逆らえずに黙り込んだ。
「楽しみね、未来の私の義妹さん!」
三者三様の不二家の朝は明るい。
同時刻、宅にて。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・何か、世界の終わりのような夢を見た気がする・・・・・・・・・」
真っ青な顔で黙々と朝食を摂る娘の横で、母はエンタメフラッシュに出てきた超人気ジャニーズアイドルに黄色い声を飛ばしていた。
2003年1月12日