098:墓碑銘





「で、その墓を私の家に持って帰れと?」
「うん、お願い。アレは僕の家でもあるんだからいいよね?」
「それを言われると許さざるをえないじゃない。ま、どのみち持って帰るつもりだったけどね」
「・・・・・・ありがとう、
僕がそう言うと目の前の少女はとても綺麗に笑った。
会ったときよりも長く伸びた髪は僕と同じ黒髪で。
その瞳は、僕とは違って闇色で。
お互いの肌の色も違うのに。



は僕に一番近いところにいる。



「第一さ、人に見られたくないのならもっと上手いところに作りなさいよ」
彼女が杖を一振りすると目の前にあった墓石は跡形もなく消えた。
今頃は家のほうに着いているはず。
「見られたくなかったわけじゃないよ。むしろ僕自身の戒めのためにきちんとした形で残しておきたかったんだ」
「自分と同じ名前が刻んである墓石っていうのもちょっと嫌ね」
「僕はこんな名前じゃないよ」
「判ってる。リドるんでしょ?」
少しだけ口元を緩めて笑う少女に、僕は口元を歪めて笑う。
「ヴォルデモートだよ」
「そんな名前も聞いたっけ」
「ヴォルデモートだよ」
「判ってるっつーの」
二回繰り返せば呆れたように彼女は笑って。
「トム・マルヴォーロ・リドルでも、リドるんでも、ヴォルデモートでもどれでもいいわよ。名前なんて所詮は識別番号なんだから」
「・・・・・・・・・そうだね」
「改名だって役所に紙を一枚提出すれば出来る時代よ?大切なことはそんなものじゃないわ」
はいつだってまっすぐに僕を見る。
その闇色の瞳に、僕を映し出す。
僕と同じ目をした
――――――――――愛しい。



帰り道、墓石だけ先に送った僕たちは夕飯の買い物をしてから家へと帰る。
「ねぇ。僕と結婚しようよ」
「絶対お断り。アンタみたいな実体のない男と結婚なんかして堪るか」
「実体ならあるじゃない」
「基本は思念体でしょ。リドるん最近その自覚なさすぎ」
「僕との子供はきっと可愛いと思うんだよね。あ、でもお嫁に出すのは寂しいから男の子がいいなぁ」
「一人で妄想するなよ。私は独身主義者だっつーの」
「僕たちの子供なら間違いなくスリザリンだね。きっと狡猾で力のある子になると思うよ」
「嬉しいんだか嬉しくないんだか判んないし」
「喜ぶべきことだよ。きっと組み分け帽子に触れることなく寮が決まるんじゃないかな」
「スネイプ先生がお喜びになることで」
「ダンブルドアは恐れると思うけれどね」
「ハリーもきっと嫌がるだろうなぁ」
「それ以前に邪魔されるよ。ハリー・ポッターもが好きだから」
「生まれた娘をハリーに嫁がせよっかなー。息子ならハーマイオニーに。そうしたら最強の一族になるじゃん」
「・・・・・・・・・それは、嫌」
「じゃあ結婚もナシということで」
「・・・・・・・・・それも、嫌」
「ワガママもナシでーす」
明るく笑うに、僕も声を上げて笑って。
一緒に帰れる家があるだけで、僕は十分嬉しいんだよ。



は僕に一番近いところにいる。
心も、身体も、構成する全てのものが。
僕とは同じだから。



いつか世界中が恐れる僕の名が彼女と同じ墓石に刻まれますように。
そのときは、きっと幸せ。





2002年12月8日