097:アスファルト





「ねぇ、何か食べてこーよ」
「あ、ゴメンなぁリョーマ。俺この後デートやねん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰と?」
「氷帝の忍足侑士や」



沈黙がその場を支配した。
誘いをかけたリョーマも、
一緒に行こうとしていた桃城も、
あわよくば便乗しようとしていた菊丸と不二も、
ノートに書き込んでいた乾も、
微笑みながら会話を聞いていた大石と河村も、
聞き耳を立てていた海堂も、
部誌を書いていた手塚も。
青学男子テニス部の部室にいたメンバーは全員動作を止めて沈黙した。
一人サクサクと着替えを進めている、張本人を抜かして。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・date?」
「そう、そのdateや」
「Do you do being to date with Yushi Oshitari from no on?」
「It is like the. ちゅうか日本語で喋ってや」
「Cutting of we invitation, it dates with the person?」
「Therefore ahead approximately, it is proper.」
不機嫌なリョーマの口から流れるのは流暢なアメリカ英語で、返すは丁寧な発音の英語。
受験生だが内部進学のため勉強していない菊丸などは目を丸くしながらあわあわと驚いている。
「ずるい。何で。俺も行く」
「野暮なマネせぇへんの、リョーマ。明日やったら空いてるから、それでえぇやろ?」
「やだ。今日がいい」
「ワガママ言うんやない。自分もう12歳やろ? 分別もつけへんと」
「まだ12歳だし。それに一人でアイツに会うなんてすごい危険じゃん。子羊を狼の群れに投げ入れるって言うんでしょ? こういうの」
「俺がlamb?」
「Yah, and Person wolf」
「可愛えぇ羊や」
「だから心配なんじゃん」
「大丈夫やって」
セーターのベストを羽織り、学ランを着込んでが笑う。
リョーマは隣のロッカーを使って着替えながら、プゥッと丸く頬を膨らませて。
「何が・どう・大丈夫なのさ」
「俺が・侑士と・体の関係を持つことはしばらくないから・大丈夫やってこと」
「しばらくってどのくらい?」
「んー俺の気持ちによるけど、今のところは一生やな」
「ならいいけど」
サクサクと着替えを進めていく一年生S。
しかし先輩方は動揺を隠しきれずロッカーへと指を挟んだり、
壁へと頭をぶつけたり、
ノートを思いっきり破ってしまったり、
飲んでいたドリンクを噴出してしまったり、
部誌をボールペンでぐちゃぐちゃにしてしまったりと大忙し。
その間もちびっ子たちは会話を続けていて。
「キスはもうした?」
「この前奪われたわ」
「上手かった?」
「まぁまぁやな」
「ラブラブ?」
「そう見える?」
「うぅん、見えない」
「じゃあそやろ」
小さく笑って、が言った。



「ま、俺はわりと侑士のこと好きなんやけどな」



ふんわりと微笑んだ顔は、とてもとても可愛かった。



「―――――――――――
部室を出た途端に聞こえた声に顔を上げる。そしてまた嬉しそうに破顔して。
「侑士、迎えに来てくれたん?」
「当然やろ? お姫さんを一人で歩かせるわけにはいかんからなぁ」
「それはおおきに、オージサマ」
小走りで近づくと、部室の前で呆気に取られている先輩方に振り向いて。
そして先ほどと同じ、最上級の笑顔で手を振る。
「ほな先輩、先に失礼しますわ。また明日」
「あ、あぁ・・・・・・・・・また、明日・・・」
上ずった声の大石に笑って、親友にもヒラヒラと手を振る。
「リョーマ、良い子に帰るんやで?」
「明日は絶対つきあってよね。サービス楽しみにしてるから」
「判った判った。ほなまた明日な」
微妙に眉間にシワを寄せた忍足にリョーマはにやりと口元をゆがめて。
二人の間にバチバチッと火花が舞い散る。
それを見ながらは楽しそうに笑って忍足の腕に自分の腕を絡めて見上げる。



「今日の俺は、侑士のもんやで?」



機嫌最高潮の忍足に笑みを漏らしながら、二人はお好み焼き店に向かって歩いていくのであった。





透様に捧げます。
2003年3月7日