095:ビートルズ





好きになったのは、同じクラスになってから。
最初は『地味なやつ』とか思ったんだけど、その考えはすぐに覆されて。
第二印象は、『カッコイイ人』に変わった。



好きになったのは私の方が絶対先。
恋愛は先に好きになった方が負けだって言うけれど。
あぁもうそれはホント。
私ったら、に連敗しっぱなしだわ。



「有希先輩! 先輩ってすごいんですね! 今日の体育の授業で、すごくバスケット上手くて驚きましたっ!」
部活も終わって、一緒にボールを片付けていたみゆきちゃんが少し興奮したように話しかけてくる。
あぁそっか。男子って今日はバスケットだったんだ。女子はグラウンドでテニスだったのよね。
やるならやっぱりサッカーがいいのに。
「私、美術の授業で写生していて偶然見かけたんですけれど、すごくカッコよかったです!」
「そうなの? 私も見たかったわ」
「本当に、先輩って運動神経抜群なんですね。すごいなぁ・・・・・・」
みゆきちゃんがうっとりとしたように呟いた。
のバスケしてる姿ねぇ・・・・・・そういえば見たことないわ。
今までの球技大会とかそういうの、全部手を抜いてきていたみたいだし。
「でも君、この前のテストでもずいぶん成績が上がったみたいですわ。職員室で先生方が話してましたもの」
一緒に片づけをしていた麻衣子が言う。
うん、それもそうなのよね。今回のテスト勉強は一緒にやったりもしたんだけど・・・・・・。
基本的には結構勉強も出来るみたいだし、やっぱり体育と同じように今までは手を抜いていたんだと思う。
がサッカーをしてる、しかもすごく上手いだなんて知られたら確かに騒ぎにもなるかもしれないし。
勉強する時間もサッカーに当ててるって言ってたから碌にしてなかったみたいだし。
どうして、今更やる気になったのかしら?
目立ちたくないって言ってたのに。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
今、ものすごく嫌な奴のこと思い出しちゃったわ。
ダメダメ、今のナシ。



「・・・・・・・・・有希」
顔を上げれば部室前にが立っていた。その横には、佐藤と水野も一緒に。
・・・・・・・・・あんたたち、ちょっと、いやものすごく邪魔。
、ちょっと待ってて。すぐに着替えてくるから」
小走りで近寄ると、はニコッと笑ってくれた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちょ、待って。だから・・・・・・・・・なんでこう、ねぇ・・・?
ー。小島が照れとるで? 無意識にフェロモン出したらあかんやん」
「・・・・・・・・・っ佐藤! 余計なこと言わないでよっ!!」
しかもの前で! 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜何かめちゃくちゃムカついたから佐藤の足を蹴っておいた。
そうしたら痛がってうずくまってるし。サッカー選手の足をなめてるんじゃないわよ?
「いや、えっと今な、がバスケ上手かったから運動神経いいんだって話をしてたんだよ」
水野がちょっと慌てたように場を繕っている。
そうなの? と見上げればが苦笑していた。ってことはやっぱり本当なのね。
だけどがサッカーをしてることは私以外に桜上水中で知ってる人はいないみたいだし。
この会話の流れは、ちょっとヤバイんじゃ?
「なぁ、おまえサッカーは出来るのか?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やっぱり。
「いや、そんなに出来ないって」
「今度一緒にやってみないか? となら楽しいと思うんだ」
・・・・・・・・・水野、あんたいい感してるわ。私といい、水野といい、アイツといい、はMFに好かれるタイプなのかしら。
「ちょっと水野、無理にを誘わないでよ」
強めに言ったら水野は残念そうだけどどうにか引いて。
が目でお礼を言ってくるのに私も目だけで答えて。
ニヤニヤ笑っている佐藤にもう一回蹴りを放った。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
人の恋路を笑う者はサッカー選手に蹴られるのよ!



でも結局は佐藤や水野にニヤニヤと笑いながら見送られて、と二人で学校を後にする。
部活帰りの時間、夕焼けはもう沈みそうで、夜がもうすぐそこまで来てる。
はクラブがない日はいつも私を待っていてくれて。
手を繋いで、一緒に帰る。
――――――すごく、幸せ。
本日の二敗目。(ちなみに一敗目はさっき不意打ちで見せられた笑顔)



「ねぇ、。ちょっと聞いてみたいことがあるんだけど」
そう口を開いたら、が首をかしげて振り向いた。
水野より少しだけ高い背は、私が見上げるのに丁度よい高さで。
うん、このアングルも好きだわ。・・・・・・・・・柔らかい笑顔に、本日三敗目。
「最近、運動も勉強もちょっと本気でやってるでしょ? 今までは目立ちたくないって言ってたのに、どうして?」
・・・・・・・・・あぁまた嫌なやつのこと思い出しちゃったわ。
でも繋いでるの手をぎゅっと握れば、それで帳消し。(本日四敗目)
はちょっと迷った挙句、照れたように教えてくれた。



「有希の彼氏だって周囲に認めてもらうにはさ、何でもちゃんとやらなきゃなって思っただけ」



まだまだだろうけど、とは笑った。



カーッと顔が熱くなっていくのが判る。・・・・・・・・・・・・・・・・・・私、絶対、いま真っ赤だ。
見せられない、こんな顔。



・・・・・・本日五敗目。
ううん、実はもっともっと負けてるのかもしれない。
連敗記録、更新中。



それが悔しくて、前を向いたの頬に背伸びして口付けた。
そうしたら驚いたように振り返って。
夕日のせいじゃなくての顔も赤かったような気がするから。
ひょっとしたら私たち、お互いに連敗なのかもなんて思ったりして。
それもいいかな、って思って笑った。



ねぇ、私を一生負かし続けてね?



私、この勝負には絶対に勝ちたくないんだから。





2003年3月6日