094:釦
U−19選抜合宿
かかってきた一本の電話。
俺を導こうとする誘い。
かつて拒絶した場所。
今は、どうすればいいのか。
俺の隣にいる奴は、きっと「行けばいい」と言うだろう。
何故なら奴も呼ばれているから。
「同じフィールドに立とう」と言うだろう。
それはおそらく、確信。
ここ数年一緒にいて、得られた揺るぎない信頼。
『三年前にあなたが断ったことなら気にしなくていいわ』
電話越し、綺麗な声。
覚えがないわけじゃない。
けれど憶えているわけでもない。
『あの頃のあの子達は子供だった。今ならちゃんとサッカー選手になってる』
あなたの望むとおりに、と言って笑う。
「・・・・・・その確証はない」
『あなたが来て確かめればいい。その上で受けるかどうか決めてもらっても構わないし』
条件の良すぎる話に眉を顰める。
「・・・・・・何を考えてる?」
俺がいなくてもやっていけるはずだ、U−19は。
少なくとも今まではそうしてやって来ている。
この二年、俺を呼ばなかったのがいい証拠。
なのに、何故今さら。
『・・・・・・・・・あなたが、日本を出たときに思ったわ。きっともうあなたが戻ることはない、と』
「・・・・・・・・・」
『日本のサッカーはハングリー精神が足りない。だからそれを求めるあなたは海外に出た方が良いと思った』
「・・・・・・・・・」
『だけど、今のアンダー代表は十分なメンタルを手に入れた。だからこそ、あなたが必要なの』
十分な、メンタル?
俺が、必要?
『あと一歩で彼らは世界と対等な立場に立てる。そのための鍵が、あなたよ。君』
「俺に、奴等のための礎になれと?」
『そうよ。彼らが世界に認められると同時に、あなたはずっと欲しかったものを手に入れる』
ずっと、欲しかったもの。
それは―――――――――――・・・・・・。
『日本で、共に上だけを目指してやっていける仲間。・・・・・・・・・・・・ずっと、欲しかったでしょう?』
セリエA、スペインリーグ、ブンデスリーガ、プレミアリーグ。
どれも最高のリーグだけれど、そこでチャンピオンになっただけじゃ世界の頂点に立ったことにはならない。
サッカーをする全ての選手の目指す場所。
W杯
サッカー界の中で一番大きくて、一番魅力的な場所。
そこに立つためだけに、俺は今再び舞い戻る。
三年前に捨てた日本へ。
再び、俺は奴らに会う。
今度はチームメイトになれることを願って。
2003年1月14日