093:Stand by me





「南南南南南南南南南〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「何だウルサイっ! 人の名前を連呼すんな!!」
「――――――見てっ!」



「拉致ってきちゃった!!」



黒くてサラサラの長い髪。
白くて小さな顔。
お人形のように整っている愛らしい顔
それはまず間違いなく―――――――――――。



「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜返してこ―――――――――――――いぃっ!!!」



氷帝に殺される――――――っ!! という南の叫び声が響いた。



指定のワイシャツにズボン、そしてブレザーにネクタイ。
規定通りの格好なのに、この子がするとものすごく可愛くて。
あの跡部と同じ制服を着てるはずなんだよなぁ・・・と東方はぼんやりと考えた。
隣の南はまだ顔を真っ青にして涙目になったまま。
君、ジュース飲む?」
「・・・・・・うん、ありがとう。・・・・・・えっと」
「室町だよ、室町十次」
「ありがとう、室町さん」
ニコッとが笑う。その瞬間、山吹中テニスコートに華が舞った。
それはもう花ではなく、華が。
テニス部員たちは可愛いを目の前にして、感動さえも起こしている。
そして「こんな一年生がいるなんて氷帝はなんてズルイんだ・・・・・・っ!!」と羨ましさに拳を握り締めて。
ちゃん! お菓子持ってきたよ〜!」
「・・・・・・・・・いいの?」
「もっちろん! はいどうぞ! チョコレートケーキとチーズケーキとシュークリーム、どれがいい?」
「・・・・・・じゃあ、チョコ」
「オッケ☆ これねぇ、山吹の近くにあるケーキ屋のなんだけど、美味しいって有名なんだよ」
「・・・・・・ん、おいしい」
「やっぱ!?」
「ありがとう、千石さん」
キラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラ
千石清純、報われた瞬間である。
テニスコートの片隅で南はすでに泣いていた。



「あっれぇ!? くんがいるデス!」
登場した山吹中テニス部一年に、他の部員たちはハッとした。
太一と、この二人が並ぶ姿はものすごく可愛らしくて目の保養になるものなのだが。
――――――しかし。
「太一は・・・・・・中身は真っ黒だからな・・・・・・」という呟きがかすかに聞こえた。
そんな輩をチラリと一瞥して、太一はへとパタパタ近づいていく。
「どうしたんデスか!? 何かあったデスか!?」
「・・・ん。太一に、渡すものがあって」
「渡すものデスか?」
「ん。これ」
デザイナーのブランド鞄(学校指定)からが何かを取り出す。
「・・・この間、温泉に行ってきたから、おみやげ」
「温泉饅頭とアジの干物デスね! ありがとうございますデス!!」
「うん」
「どこに行ったんデスか? 熱海デスか?」
「うん。景吾先輩の別荘が、熱海にあって」
「そうなんデスか〜」
跡部と・一緒に・熱海の・別荘に
「・・・・ん、先輩たちも一緒に」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ほっ。
「楽しかったデスか?」
「ん」
「じゃあ今度は僕とくんとリョーマくんの三人で行きましょう! 遊園地とかもいいデスね!」
「・・・ん。行こ」
「さっそくリョーマくんにも連絡するデス!」
ピッポッパ
太一がどこからともなく携帯電話を取り出して電話をかける。
このとき山吹中一同は心の底から思った。
『あぁ・・・・・・この可愛い子供が黒に侵食されていく・・・・・・』と。



テニスコートでキャピキャピと話をするブラック子犬とホワイトバンビ。
千石や室町は一緒になってお菓子を食べたり、ジュースを注いだりしていて。
東方はというとそれを少し離れたところから見守り、南はいまだコートの片隅。
しかしそんな幸せも終わりを告げるというもの。



「千石〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ! テメェうちのを返しやがれ!!」



ダダダダダダダダダダダダダダダッ
ドガッ
ズシャッ
バキッ



無事か!? 何もされてないな!? されてたらコイツタダじゃおかねぇ・・・!!」
「・・・平気だよ、景吾先輩。お菓子やジュース、もらっちゃったし」
、いつも言うてるやろ。よう知らん奴から物をもろうたらあかんって」
跡部が大切そうにを抱きしめて、忍足が上からポンポンと頭を撫でる。
呆然としている山吹テニス部をサラリと無視をして忍足は携帯電話を取り出した。
「あ、岳人か? いたで。山吹や」
ピッポッパッ
「宍戸か? 見つけたわ、山吹にいたで」
ピッポッパッ
「あぁ樺地、見つけたからこれから帰るわ。監督にも伝えといてや」
ピッ
通話をきった忍足の後ろでは千石が再び跡部によって詰め寄られていて。
「アーン? 千石てめぇよくもを攫いやがったな」
「で、ででででででででででも跡部君! あんな可愛い子が一人で街歩いてたら攫いたくなっても仕方ないじゃん!!」
「そりゃあな。だけどはうちのだ。攫っていいなんて誰が許した?」
「だってスルイじゃん! 氷帝ばっかりちゃんみたいな一年がいてさ!! う〜ら〜や〜ま〜し〜い〜〜〜!! 頂戴! 頂戴よ跡部君!」
「ザケンな、誰がやるか!!」
千石、再び沈没。
「ほな帰るか、
「・・・・・・うん。またね、太一」
「また電話するデス、くん!」
「室町さん、ごちそうさまでした」
「うん、またおいで」
そう言った室町は忍足に睨まれて小さく苦笑する。
そしてテトテトと沈没している千石に近づくと、はふんわりと微笑んだ。
「・・・・・・千石さん、またね」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ちゃんっ!!」
「「千石―――――っ!!」」
跡部と忍足のコンビネーションキックにより、今度こそ千石は力尽きた。
手の振って去っていくに、太一や室町、密かに東方なんかも手を振り返して。
可愛い天使は去っていった。
残ったのは華を散らせて骨抜きになった気味の悪いテニス部員たちのみ。



「だから嫌だったんだ・・・・・・・・・」
南の泣き声がポツリと響いた。





2003年2月24日