087:コヨーテ
カルピンはリョーマの猫だ
ふわふわの全体的に丸い猫はリョーマによく懐いてる
それは、色々と理由もあるのだけれど
あまりにカルピンがリョーマに懐くものだから
いつだったか父さんは俺に向かって「犬でも飼うか?」と言ったほど
俺は、断った
動物を飼うというのは情操教育にいいらしい
でも、それって嘘だと思う
それならリョーマは「良い子」になってるはずだし
リョーマが「良い子」だなんて誰も言えないだろう
そして、俺が「良い子」だとも
誰も言えない
コタツでみかんを食べていると毛玉が擦り寄ってきた
「・・・・・・俺は、リョーマじゃない」
ペシッて頭を軽く叩いても毛玉は動かない
金色の目を俺を見上げて
そのまま動かない
・・・・・・ペットが飼い主に似るっていうのは本当だな
リョーマそっくり
「・・・・・・おまえの主人は今日はいないのか?」
見上げる毛玉は答えない
「部活?」
ほぁら、と猫にあるまじき声で毛玉が鳴く
「そう」
俺よりこの猫の方がリョーマのことを良く知っている
やっぱり俺にも情操教育が必要なのかもしれない
機械的な音を鳴らす携帯電話を手に取った
「はい。・・・・・・・・・跡部さん?」
聞こえてくる声
この人はリョーマよりも俺のことを良く知っているだろうか
「今からですか? はい、大丈夫です。喜んで」
約束を取り付けて
穏やかな声音に切なくなって
「・・・・・・・・・・ねぇ、跡部さん。跡部さんのお宅って・・・・・・犬、飼ってましたよね?」
俺は、聞いた
擦り寄ってくる毛玉を無視してコタツから出る
コートを羽織って
誰もいない家に書置きをして
靴を履いて、家を出る
毛玉が後ろでほぁらと鳴いた
情操教育には遅すぎるかもしれないけれど
動物と触れ合ってみようかと思った
猫ではなく、犬と
そうしたら俺も「良い子」になれるのかな、なんて思ったりした
2002年12月15日