085:コンビニおにぎり





「最近は俺に対する愛が足りない!」
そう言って千石清純は『山吹の覇者』を拉致した。



つれてこられた場所は屋上。
穏やかな風と眩しい青空に目を細めて、はかけていたシルバーフレームの眼鏡を外した。
をここまで引っ張ってきた当の本人はガサゴソとビニール袋を漁っていて。
大量に並べられたコンビニおにぎりにパン・ジュース。
「さ、お昼にしよー」
ヘラッと笑った千石に、も小さく笑ってアスファルトへと座り込んだ。



オレンジジュースをに譲り、千石はコーヒー牛乳をチュルルルと啜る。
その手にはおにぎりが握られて、その顔はとてもご機嫌で。
「焼豚マヨネーズのおにぎりがそんなに嬉しいのか?」
「違うって! 俺はと一緒にまったり出来るのが幸せなの」
「それくらい、いつだって出来るだろ」
「全然出来ないよ! 最近のはずーっと出ずっぱりでさぁ」
悲しそうにおにぎりを食べる千石を横目に、は鳥五目のおにぎりを選び取って。
愚痴るように千石がブツブツと呟く。
「月曜日はリリアン女学園に呼び出されて行っちゃうし、火曜日は跡部君のワガママにつき合わされちゃうし、水曜日は不二君と観月君のケンカの仲裁に行かなきゃいけないし、木曜日は武蔵野森中の会合に出かけちゃうし。もう俺寂しかったんだからッ!」
「ハイハイ、悪かったよ」
「誠意ナシ!」
悲壮な顔をして泣き叫ぶ千石に、は思わず笑ってしまって。
声を上げて笑う姿に、千石も泣きそうな顔を押しやって嬉しそうに笑みを浮かべる。
そうして、今度は仙台味噌の焼きおにぎりの封を開けて。
がさ、忙しいことは知ってるよ。俺たちがこうして毎日安心して暮らせるのも全部のおかげだし」
『山吹の覇者・』のことはすごいと思っている。
でもだからこそ、思うのだ。
「でもさ、俺とは統治者とかそーいうの以前に親友じゃん? だから俺としてはやっぱり、せめて俺の前でだけは気を緩めて過ごしてほしいわけですよ」
大切な、親友だし? と言ってはにかむように笑う千石に、は目を見開いて。
そして笑う。その綺麗な顔を穏やかに染めて。
「ありがと、キヨ」
「いえいえいえ。のためならお安い御用です」
「じゃあ今日はちゃんと部活出るよな?」
「・・・・・・・・・何か話が別の方向へ」
「キヨが部活に出ないと南が俺に報告に来る。そうすると、また俺の仕事が一つ増える」
「・・・・・・・・・」
「それさえなければ、今日は時間が取れるんだけど」
パッと顔を上げた千石に、楽しそうに微笑んで。
「この前行けなかったケーキ屋、行くか?」
文句なしに交わされた約束。



『山吹の覇者』であるも、今だけはちょっと休憩中で。
このおにぎりが食べ終わるまではに呼び出しがかからないといいなぁ、と千石は願ってしまった。



そしてラッキー千石という彼のあだ名に違わず、今日は呼び出しのなかったと一緒に部活後はケーキ屋へと出かけていくのであった。





2002年12月8日