084:鼻緒





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いま不幸自慢をしたら絶対! 世界のトップに立てる。
つーか最低でもトップ3には入れる。
裕太になんか負けやしないね!



視線が痛い。
イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイむしろ遺体。
あー・・・もうやだ・・・帰りたい、帰らせてくれ。
足元が、何か、やけにスースーする。もうすぐ夏だってのにやけに寒いし。
そこのヤロー共! さっきからジロジロ見てんじゃねーっての! 似合わないことくらい私だって判ってんだよ!
誰が好き好んでこんな格好をすると思う!?
これも全部・・・・・・っ・・・・・・全部ヤツのせいだ!!



朝起きるとママ上が何やらバタバタと楽しそうに活動していた。
何でそんなに上機嫌なんだろうとか思ってたら、グルンッて勢いよく振り向かれてかなりビビッたし。(妖怪かよ! とか思った。ごめん、ママ上)
ちゃん!早くこっち来て! 準備しないと間に合わないよ!」
・・・・・・・・・・・・・・・準備って、何の?
「今日は長太郎君とデートなんでしょ? ホラ、早く準備しなきゃ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、そっか夢か。
そうだよね、私が自らそんな自殺行為を犯すわけないし。うん、夢。これは夢。
それにしても夢のくせになんて嫌な夢なんだ。もうちょっとさぁ・・・・・・多くは望まないから、もうちょっと良い夢が見たかったよ。
つーかこれ以上夢の続きも見たくないし、さっさと起きるか。
「長太郎君もすごいわよねぇ。このお洋服全部ちゃんにプレゼントですって! やだもう可愛い〜!」
まだ夢は続くのか?いいよもう、さっさと目覚まし鳴れよ。
「白のレースつきキャミソールにお揃いのカーディガン。スカートはデニム地のミニスカートで・・・あぁこれ裾にレースがついてる〜! 可愛いっ! 今日の長太郎君のテーマはレースなのかしら? サンダルはローヒールの紐つきで、髪には可愛いピンがたくさん! 下着は透けないようにベージュで、もちろんこれもレースつき! すごいわね、長太郎君。乙女の苦労を判ってるわぁ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お願いです、早く覚めて下さい。
「ホラホラ、ちゃん早く着替えて! 長太郎君が11時に駅前で待ってるわよ」
「いや、そもそもこれ夢だし」
「夢なら大いに楽しまなくっちゃ!はい、パジャマ脱いで」
バンザーイってママ上・・・・・・私はパジャマでお邪魔(年代を感じさせる某子供番組)の子供かよ。しかし逆らえない・・・・・・・・・。
そしてちょたの送ってきたという服を身に着けさせられて、髪をいじくられて、あらもう別人☆って感じ?
つーかちょた・・・・・・・・・何でおまえが私の下着のサイズまで知ってんだよ・・・・・・・・・?
こ、怖くて聞けない・・・・・・・・・・・・。



痛い痛い視線を感じまくってれば、嫌でもこれが夢じゃないことに気づく。
夢じゃないということは現実なのであって、現実ということはこれからちょたが来るということであって、ヤツ風に言えばこれから私とちょたはデートなのであって。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ど、どうしよ・・・・・・!
逃げられないことは判ってる。小学校のときからの付き合いで嫌ってほど判ってる。判ってるからこそ逃げたいっ!!
今すぐ逃げればちょたは私のことを探して街をくまなく徘徊するだろう。
この際だから恥を捨てて聖ルドルフの寮か何かに隠してもらって・・・もういい!跡部でもキヨでもいい!背に腹は変えられない!!
・・・・・・誰か私をここから連れ去ってくれ・・・・・・・・・・。
「ねぇねぇカノジョ」
常には決してかけられない声に反射的に振り返った。
そこには茶髪でロンゲの体格の良い男。身長は・・・・・・高いな、手塚先輩よりも少し高いかも。
「顔色悪いけどさ、ヘーキ? 俺、休めるとこしってるけど行かない?」
休めるところってラブホかよ、とか一瞬思った私を責められる人はいないと思う。
だってこの男あからさまに私の体をジロジロ見てくるし。・・・・・・私だってさ、好きでこんな露出度の高い服を着てるわけじゃないんだよ。
だからさ、その視線スッゲーむかつくわけ。お判り?
「悪いけど、人を待ってるから」
「えぇ?そんな気分悪くしてまで待つことねーって。君みたいな美人を待たすなんて最低じゃん」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ビジン?
ビジンって美人? そ、それは私じゃなくて魔王につけるべき形容詞だよ。間違ってるよ、アンタ。
「な、行こうぜ? うっわー君、手首すごい細いねぇ! 片手でつかめちゃうよ」
ぞわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ
〜〜〜ちくしょうっ!何でちょたはこんな半袖カーディガンにしたんだよ!おかげでこんな男に触られなきゃいけなくなったじゃねーか!
「・・・・・・放してくれる?」
「えーいいじゃん、俺マジでいいトコ知ってるからさ?」
「いらない、そんなの。私は人を待ってるんだから放して」
「だから放っときゃいいじゃん、遅れてくるカレシなんて」
彼氏じゃないんだよ!という叫びは声にならなかった。思いっきり手首を引っ張られて、私の体は簡単に男の方に近寄せられる。
どんなに力があるといっても、私はやっぱり、女だから。
―――――――――――力では、男に敵わない。
それが悔しくて、本気で殴りつけようかと思った。
逆に殴られてもいい。本気で、この男を倒してやりたかった。
地面に這い蹲らせて謝らせてやりたかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・私にそれを出来るかは、別として。



に汚い手で触らないでもらえる?」



手首の重圧が解かれて、嫌な感触だけが残った。
知らずそれを握り締めようとして悔しいから止める。
「・・・・・・・・・・・・遅い」
「うん、ごめん」
ちょたが、謝った。
「遅すぎるんだよ、バカちょた」
「うん、ごめん」
バカって言っても怒らなかった。
「こんな服用意して、自分は時間になっても来ないし。そのせいで変なヤツに声かけられるし。周りの視線は痛いし」
「うん」
「ちょたが、悪い」
「うん。・・・・・・・・・ごめんね、
謝られるのもスゴイむかつくから、ちょたから顔を背けてやった。
そうしたらちょっとちょたが落ち込んだっぽくて、でもって体の向きを変える気配がする。
あの方向は、さっきの男がいる方。
「この子は、俺の大切な子だから手出ししないでくれる?」
「・・・・・・・・・はっ! デートの時間も守れねー男がよく言うぜ」
「本当にそう思うよ。だからといっては、君みたいな男が手を出していい女の子じゃない」
「はぁ? 何様だよ、テメェ」
「二度とに近づくな。俺が言いたいのはそれだけだよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちょたのオーラがブラックに変わる。
怖いけど、今のオーラは私に向けられてるわけじゃないから、大丈夫。
男はどうやらオーラの質が判るタイプだったらしく(つまりは私と同類でいじめられるタイプか?)、二・三歩後退すると舌打ちをして去っていった。
何で私はオーラが操れないんだろう。ちくしょう。
すっげー悔しい。



「・・・・・・殴りたかったのに」
「うん」
「触られてすっごい気持ち悪かったし、ヤメロって言ってもあの男聞かないし」
「うん」
「ちょたは11時になっても全然来ないし」
「うん」
「道行く人は振り返ってジロジロ見てくるし。こんな格好、したくなかったのに」
「うん」
「スカートだってはきたくないし、キャミソールとかだって着たくないのに、こうやって無理矢理」
「うん」
「朝いきなり言われたからご飯も食べれなくてお腹減ってるし。減りすぎて気持ち悪いを通り越したし」
「うん」
「古文の宿題終わってないし。明日のリーダーも絶対に当たるのに」
「うん」
「この前新作のケーキを買おうと思ったらキヨに邪魔されたし。跡部はそれを全部買い占めて一つもくれなかったし」
「うん」
「もうヤダ。帰る」
「うん」
「帰る。今日はもう家から出ない」
「うん」
「ちょたのバカ」
「うん」



「ごめんね」



優しく寄せられた手は、やっぱり私の手首を軽くつかめて。
それがすっごいムカついた。
たぶん、私にちょたを殴って倒すことは出来ないんだろう。私の力は、ちょたよりも劣っているから。
だからきっと、あの男も倒せなかった。
それが判って、判ってるからムカツク。



「・・・・・・・・・でも、アリガト」



そう言ったら、ちょたが泣きそうな顔で笑った。



「ケーキ買って帰ろう。それとお昼ご飯も。何でもいいよ? の好きなもの全部買うから」
「・・・・・・いつもオゴッてもらってるから別にいいし」
「今日はいつも以上にオゴらせてよ。お詫びじゃないけど、せめて」
「オゴるだけでチャラとか言ったら本気で怒る」
「言わないよ。もうキャミソールは贈らない」
「・・・・・・・・・スカートは?」
「スカートは贈る。でも今度からはミニじゃなくて膝くらいの長さのをね」
「膝より長くていい」
「それじゃあの綺麗な足がもったいないよ」
「もったいなくていい。しばらく、スカートははかない」
「うん、ごめんね」
「バカちょた」
「うん、ごめん」



私の手を握るちょたの手は大きくて、でもとても優しかった。
(いつものちょたが嘘みたいだった)





2003年1月27日