082:プラスティック爆弾
は見た。
親友・西城敦の顔にでかでかと『とても暇です。遊んでもいいですか?』と書いてあるのを。
だから返事を返した。
『ほどほどにね』と同じように顔に書いて。
許可を貰った西城はまるで水を得た魚のようだったと、後にその場にいた部員たちは語るのであった。
「ふははははは! まだまだ甘いな、武蔵森サッカー部諸君!」
そう言ってリフティングをする西城の周囲には力なくフィールドにへたり込んでいる部員たち。
黒と白の縦縞のユニフォームは紛れもなく一軍の証。
けれど全国有数の強豪サッカー部レギュラーでさえ、西城の前では赤子も同然。
しかも相手をしている当の本人はジャージではなくスラックスにセーターと至って普通のお出かけルック。
足元のスニーカーだけが申し訳程度に運動選手であることを主張していて。
見ていた二軍・三軍の面々は驚きに唖然としたまま突っ立っている。
それをフェンス際で見ていたは隣にいる人物に小さく頭を下げた。
「すみません、桐原監督。練習の邪魔をしてしまって」
穏やかに微笑みながら謝罪するに、桐原はいや、と被りを振って。
「ヨーロッパで活躍しているプロに相手をしてもらえる機会など滅多にない。こちらこそ礼を言わねば」
「いえ。俺たちも楽しんでいますからどうぞ気になさらないで下さい」
のほほんとどこかのんびりとした空気が流れて。
二人は思わず笑い合った。
「―――――――あーもぉ! 何でそう相変わらず上手いんすか! 西城さんはっ!!」
「それは違うな、藤代少年。西城は日々進化しているのだから、『相変わらず』ではなく『前にも増して』という言葉が正解だ」
さぁ言い直してみたまえ、と言う西城の言葉にレギュラーたちは脱力して。
這うようにして各々タオルを取ったりドリンクを飲んだりしながら力尽きている。
流石というかキャプテンである渋沢はどうにか上半身を起こせるまでに回復して、西城を見上げて頭をかいた。
「以前よりは俺も上達したと思っていたんですが・・・・・・まだまだみたいですね」
少し自嘲気味な言葉に西城はニカッと歯を見せて笑う。
「いやいや渋沢少年のボールに対する反応速度は以前よりも良くなっているぞ。案ずることはない」
「ありがとうございます」
嬉しそうにはにかんで答えた渋沢に一つ頷いて。
西城はフェンス側に向かって声を張り上げた。
「おーいクン! レギュラーたちが相手をして欲しいと言ってるぞ!」
明るい声に倒れこんでいた部員たちはガバッと身を起こして。
藤代に至ってはシッポをパタパタと振って歓迎模様。
「さーん! 一緒にサッカーしましょ!!」
「お願いします!」
渋沢がきちんと頭を下げ、それに習って他のレギュラーたちも頭を下げる。
超有名なプロのサッカー選手に相手をしてもらえるのならばどんなに疲れていても大丈夫!
年齢的にはほとんど変わらないのに、あまりの若さを感じては苦笑する。
そして着ていたジャケットを脱いだ。
20分も経った頃にはフィールドに立っている者はいなかった。
唯一、受け取ったドリンクを飲み干すと西城の他には。
「藤代君は以前よりもシュートの威力が増したね。これからはもっと強引に狙っていってもいいと思うよ」
の言葉にフィールドに倒れながらも犬はパタパタとシッポを振って。
「渋沢君はさっき西城が言ったとおり反応が良くなった。これからも頑張って」
はい、と頷く渋沢に穏やかに微笑んで。
「10番の君はパスが上手いね。あとはもっとフェイントを混ぜると敵を交わしやすくなる」
三上はタオルをかけたままの頭を上げてを見た。
「6番の子はもう少し経験が必要かな。DFは経験に基づいて状況を判断するから、もっと色々なタイプのFWと練習してみるといいよ」
仰向けに転がっていた笠井は目だけでを見て。
「間宮君は運動量が増えたね。あとはペース配分を考えること」
コクリと声もなく間宮が頷いて。
他にも一人一人にアドバイスを与えて、はニッコリと笑った。
汗を拭っていたタオルを置いて、目が合った西城とイタズラめいた瞳で笑い合って。
高らかに宣言する。
「では次は!」
「二軍の選手、出ておいで」
「彼らの次は三軍の相手もするからな! 今から身体を温めておくのだぞ!」
明るく言い放つ姿に萎縮していた部員たちも我に返って。
そして走ってフィールドへと入ってくる。
白と黒のボールを蹴り上げて二人は笑った。
外国でサッカーを学んでいる自分たちにとって、祖国のサッカーとは珍しいものであって。
たまにはこうして乱入もするのだけれど。
どうか大目に見てやって下さい。
たとえそれが西城の暇潰しだったとしても。
「ではクン。明日は桜上水に行こうとするか」
「そうだね。あそこには松下コーチもいるし」
「女子サッカー部もあると言うしな」
「その次は飛葉中で」
「その次は川崎ロッサ」
「日本全国も回りたいけど時間もないし、またの機会ということで」
「絶対に文句のメールが来るな。特に九州選抜と関東選抜あたりから」
どうか大目に見てやって下さい。
暇なのは西城だけじゃなくて、も一緒なのだから。
2002年12月21日