081:ハイヒール
それはまだ、あなたをよく知らなかった頃。
「先輩、さんって一体どういう人なんですか?」
俺の言葉に部室の中にいた先輩は全員振り返った。
宍戸先輩と、向日先輩に忍足先輩、それに眠そうな芥川先輩。
跡部部長と俺と同学年の樺地は今は榊監督のもとへ行っていていない。
だから俺は一度聞いてみたかったことを聞いてみたんだけど・・・・・・。
「? 鳳ってに会ったことなかったっけー?」
はい、ありません。いつも話には聞いていたんですけれど。
「は跡部の従弟やで。親同士が兄弟で一緒に住んでるちゅう話や」
「将来は跡部とが跡部グループを継ぐんだろ? 跡部が社長でが副社長とか」
「本人はめちゃくちゃ嫌がってるけどなぁ」
「跡部が逃がさへんやろ、それは」
立ちながらに夢の中にいる芥川先輩を除いて、先輩方が一気に話し出す。
跡部グループっていうのは確か跡部部長のお父さんが経営している大企業。
それをいずれ跡部部長が継ぐだろうという話は俺も聞いていたけれど。
「は青学に通ってんだよ。俺たちと同じ学年」
「跡部は氷帝に来いって言うたんやけどな」
「跡部と一緒じゃ目立つからイヤだって言って青学に行ったんだよなー」
目立つのがイヤだって・・・・・・そんな理由で・・・。
「は跡部とは違って派手なのが好きじゃねぇんだよ」
宍戸先輩の言葉にちょっと納得して。
跡部部長の従弟で、跡部部長と一緒に住んでいて、将来は跡部部長と会社を経営して、青学に通っている、俺より一つ年上の人。
さんは、そういう人?
「いーや。それは違うで、鳳」
考え込んでいた俺の目の前で忍足先輩がチッチッチッと指を振ってみせた。
「・・・違うって、何がですか?」
「につける形容詞がまだまだ全然足りんちゅうことや」
「形容詞?」
首をかしげる俺に先輩方は一様に頷いて。
「まず第一に、は跡部よりも強い!」
向日先輩が自信満々でそう言い切った。
「強いって・・・・・・テニスがですか?」
「はテニスはつき合いでやる程度! そういう意味じゃなくて跡部はにあらゆる意味で勝つことが出来ない!」
向日先輩の言葉に忍足先輩も宍戸先輩も、夢を見ているはずの芥川先輩もウンウンと頷いて。
「この前も公衆の面前でキスしそうになって関節技を食らってたしな」
「その前は弁当忘れて届けさせた挙句、そのときのの仕事を全部押し付けられてたしなぁ」
「・・・・・・抱きしめて、蹴られてた。でもっては車でさっさと帰っちゃったしー・・・」
あ、芥川先輩まで会話に参加し始めた。
・・・・・・・・・っていうか。
「それだけ聞いてると、すごく物騒な人に聞こえるんですけど・・・・・・」
そう言ったら、まさか! というように向日先輩が目を見開いて。
「全ッ然! 跡部以外には滅多に攻撃しないし、普通にしてればスッゲー優しいし! もう何で跡部の従弟!? って感じだぜ!」
「俺も初めて紹介されたときは冗談かと思った。あんなに常識を持ったヤツが跡部の従弟だなんてな」
「眼鏡外せばえらい別嬪さんやし、頭もええし器量も十分やし、同じ男としても魅力的なヤツやで?」
「・・・・・・一緒に寝るとあったかいから好きー。優しく頭撫でてくれるし」
「げっ! ジローそれ本当かよ! と一緒に寝たのか!? ズルイッ俺もと一緒に寝たい!」
「抜け駆けしやがって・・・・・・」
「でも俺は来週一緒に買い物行く約束しとるで。何でもが欲しいCDがあるらしゅうてな」
「うわー! 侑士まで抜け駆けかよ! もういいっ跡部にチクッてやるー!!」
「おわっ! ちょお待て、岳人! 跡部には言うなや!」
「行って来い、向日」
「宍戸までヒドイ〜」
「オマエも同罪だ、ジロー!」
ギャアギャアと続く先輩方の言い合いに、俺は呆れて見ているしかなくて。
何か判ればいいと思って聞いたのに、謎はもっと深まるばかり。
でも、俺の興味は膨らんで。
「忍足先輩、今度さんと会うとき俺も一緒に行ってもいいですか?」
満面の笑みを浮かべて聞いてみた。
そうしたら忍足先輩は顔を引きつらせて、でも向日先輩と宍戸先輩と芥川先輩の援護射撃もあって、俺は来週の日曜日にさんに会わせてもらえることになった。
もちろん、跡部部長には内緒で。
実際に会ってみたさんは俺が思っていた以上の人で、俺はたちまち彼の虜になってしまうのだけれど。
それはもうちょっと、先の話。
2002年12月8日