079:INSOMNIA





夢を、見た



「リョーマの所為でまた遅刻だよ」
だって宿題忘れてたじゃん」
「それはリョーマだって一緒だろ。今日はリョーマがチャリ運転しろよ」
「やだ。疲れる」
「昨日も俺が運転しただろ。今日はリョーマの番」
「やだ」
「・・・・・・じゃあいい。俺だけ足腰鍛えてテニス上手くなるから」
「・・・・・・・・・」
無言でサドルに座った俺に、荷台でが声を上げて笑った



「越前リョーマ、教科書27ページから読んでみろ」
いつものように眠っていた英語の授業で教師に指され、俺は立ち上がって教科書に目を走らす
英語なんて俺にとっては朝飯前
完璧な発音に生徒は沸きあがって、教師は沈黙して
俺はチラッと視線をずらして
目が合ったと小さく笑いあった



お昼は二人して一緒に食べて
和食好きの俺たちなのに洋食の弁当をつくる母さんに文句を言ったりしながら
俺と、
二人で一緒に



「よ! 越前双子、今日もおまえら遅刻してただろ」
「うるさいっスよ、桃先輩。ギリギリで間に合ったから遅刻じゃないっス」
「こんにちは、海堂先輩」
「・・・・・・・・・おう」
二人してジャージに着替えて
青と白と赤の青学レギュラージャージ



「今日はダブルスの練習を行う。ペアは大石・菊丸、乾・海堂、不二・河村、越前二人、俺と桃城だ」
部長の言葉に二人してコートに入って
同じ、コート
同じ、陣地
「うげっ! オチビちゃんたちが相手じゃ俺たちも勝てるか判んないじゃん!」
「負かせてあげますよ、菊丸先輩」
「にゃーっ! オチビ生意気!」
「でも俺とが組んだら無敵だし。ね?
振り返れば笑顔を浮かべているがいて
「当然だろ、リョーマ」
一緒に笑いあってラケットを持つ拳を軽く合わせて
「こりゃ大変だな」
大石先輩が優しく笑う



「やっぱり強いね、越前たちは」
「俺とリョーマは本当はシングルスの選手なんですよ? 試合ではダブルスはやりませんからね」
「それは困るな。越前双子がダブルスに出ないとすると青学の勝率は11.4%ダウンしてしまう」
不二先輩と乾先輩に囲まれて、が笑う
「コンビネーション抜群だね、越前たち」
「当たり前っスよ、河村先輩。俺とは双子なんだから」
「だがあの試合運びはどうにかしろ。最初から飛ばしすぎだ」
「・・・・・・・・・うーっす」
「・・・・・・・・・はい」
手塚部長のお説教に二人して小さい声で返事を返して
そして、笑う俺と



黒の学ランを着て、同じ自転車に乗って
一緒の教室で授業を受けて、弁当を忘れたら学食で二人分の席を取って
Sサイズのレギュラージャージも二つ、コートにいる気配も二つ
一緒に



一緒に



ジリリリリリリリリリリリリ
火災報知器のような目覚ましに思わず瞼を開けた
見える、天井
カーテンの間から差し込む光
いつもと同じ、俺の部屋



――――――――――――――――ゆ、め



「・・・・・・・・・そ、だよね」
呟いた声はカラカラの喉に張り付いて痛かった
何て都合のよい夢
まさに願望



叶えられなかった、未来



「・・・・・・・・・・っ・・・・・・」
溢れた水滴がベッドを濡らした
次から次へと止まらない
「・・・ふっ・・・・・・・・・く・・・・・・」
嗚咽が漏れて、悲しみが零れて
止まらない
甘い夢







「リョーマ、まだ寝てんの?」
階段を上がる音
「いい加減起きないと遅刻するよ。今日は青学も朝練なんだろ?」
大きくなっていく声
「リョーマ?」
答え、られない



お願いだから来ないで
まだ、夢の中にいさせて



「・・・・・・リョーマ、開けるよ」
ガチャッという金属音と共にドアが開けられて
現れた、俺の片割れ



夢が終わる





2002年12月8日