065:冬の雀





新年を向かえ、三箇日もまだ終わらない頃。
初詣でに向かう人で込み合った電車から降り、改札を抜けたところでは軽く目を見張った。
そしていつもと変わらず穏やかに微笑んで。
「久しぶりだね、シゲ君」
かけられた言葉に苦笑して、藤村成樹は手袋をした指で頬をかいた。



二人しての家へと向かいながら、シゲは同じくらいの身長のを見て話しかける。
内心で、この横顔を見るのも久しぶりだな、なんて考えながら。
「ホンマに帰って来てたんやな。リーグ中やのに日本で新年を迎えとるとは思うてへんかったで」
「たまには日本が恋しくもなるんだよ。次の試合は一週間後だから3日後にはイタリアに戻るけど」
「ま、えぇわ。そのおかげでに会えたんやしな」
楽しそうに笑うシゲにも微笑んで。
他愛無い話をしながら、ゆっくりと道を歩く。



「――――――それで?」
「ん?」
シゲが部活での話をしている途中で、がやんわりと聞き返した。
いつものように穏やかに、それでいて有無を言わさない強さで。
思わず、瞠目する。
「朝から駅で待っていたのにはそれなりの理由があるんじゃないかな? 俺でよければ、話くらいは聞けるけれど」
シゲは、息を呑んだ。
は今も穏やかに笑う。
「・・・・・・・・・何で、判ったん?」
「勘。それとあとは経験かな」
「何や、それ」
返される言葉に笑って、けれど続く言葉を見つけられずに俯く。
沈黙してしまった空間を破るように、は口を開いた。
変わらぬ、柔らかな声で。



「親族問題なら、俺よりも西城の方が適任だよ。西城も、アレはアレで色々と経験してるから」



今度こそ、シゲは立ち止まって目を見開いた。
数歩先で振り向いた相手を、信じられないように見つめて。
変わらない、笑み。
「・・・・・・・・・・・・・・・何で、判ったん」
かすれた声で聞いてくるのに、は微笑んで自分の隣の指差す。
警戒した面持ちで近づいてくるシゲに、優しく苦笑して。
「たいした理由じゃないよ。これも慣れと経験の賜物かな」
「・・・・・・・・・サイアツか」
「さぁ?」
先ほど勧められた相談相手を思い出し、シゲは思う。
明るくて頭の回転の速い彼は、悩みさえも笑い飛ばしてしまいそうな人だ。
そんな彼が、自分と似たような問題を抱えている。
似合わないというより、考えもつかなかった。
意外だ、と思いよりも先に別のことが頭を過ぎり、口をつく。
「・・・・・・・・・アンタも、問題抱えとるんか?」
言うつもりはなく言葉になってしまった考えに、シゲはハッとして口を押さえる。
けれどはそんな彼に変わらず穏やかに微笑んで。
「さぁ?」
柔らかく、笑った。



「帰り、スーパーに寄ろうと思ってたんだけど」
「ほな付き合うわ。何買うん?」
「明日には西城が来るからね、和菓子でも作ろうと思って」
「あーたしか和菓子はサイアツの好物やったっけ」
「そう。きっと疲れ果てて帰ってくるだろうから、せめてものご褒美に」
口では軽くそう言いながらも親友を想いやる態度にシゲは羨ましそうに目を細めて。
それさえも見通して、は笑う。
「だからシゲ君もどうぞ? 俺と西城がそろっていた方が話もしやすいだろうしね」
自分にも向けられた配慮に目を丸くして、シゲは笑った。
とても嬉しそうに、恥ずかしそうに微笑んで。
幸せそうに笑った。





2003年1月14日