064:洗濯物日和





パンッという気持ちの良い音を立てて少女は濡れたシャツをハンガーへとかけた。
物干し竿に洗濯バサミで固定して。
空は真っ青、風は穏やか。絶好の洗濯日和。



「お母さん、洗濯終わったよ」
カラカラと窓を閉めて娘が声をかけると、掃除機をかけていた母親はスイッチを止めて片しながら。
「ヨシ、じゃあそろそろ出かけるとしますか」
テキパキと支度をして、窓の鍵、ガスの元栓、暖房器具の電源もチェックして。
母娘は仲良く家を後にする。
今日は近くの大手スーパーへとお買い物。



「あら、さん。こんにちはぁ」
のんびりと歩いていた途中に声をかけられ、振り返る。
そこにいたのはご近所さんの一人。ちょっと年を召されたご婦人で。
「こんにちは。最近は温かくてよいお天気ですね」
「えぇ本当に」
挨拶を返した母親と一緒に娘もしっかりと頭を下げて。
ご婦人はそんな少女の様子に目尻を下げてニッコリと笑う。
ちゃんもずいぶんと可愛くなったわねぇ。ちょっと前まではランドセルを背負って学校に行っていたのに」
「ええ、おかげさまで。来年はもう受験生なんですよ」
「あらまぁ」
笑いあう母とご婦人に、少女も控えめに微笑んで。
ちゃん、最近は家事も手伝ってるんですって? 羨ましいわぁ、うちは息子二人だから」
「本当に私も助かっちゃって」
「さっきもお洗濯干してたでしょう? いいお嫁さんになるでしょうねってうちの主人と話してたのよ」
ご婦人の言葉に母と娘は表情に出さずに笑いあった。
母は先日あった娘との会話を思い出して、娘は今は遠くはなれた東北にいる恋人と言えるのがどうか疑問な相手を思い出して。
「もしちゃんさえ良かったら是非うちの息子のお嫁さんに貰いたいわぁ」
本気がどうか判らないご婦人の言葉に曖昧な返事をして、お別れして当初の目的地へと足を向ける。
母は思った。
おそらく自分の娘がご近所さんのところへ嫁ぐことはないであろう、と。



何故なら今も各地の名産品が忘れられずに少女の元へと届いているのだから。





2002年12月7日