062:オレンジ色の猫





放課後の図書室。そのさらに奥の小さな部屋。
本来ならば図書館司書しか出入りできないその部屋で、は床に座り本を読んでいた。
窓からは夕日が入ってきて一面を紅く染める。
は近づいてくる雰囲気に顔を上げた。
「・・・・・・菊丸」
曇りガラスのドアの向こうにいるであろう人物の名を呼んで。
「おいで」
優しい声にドアがゆっくりと開かれて、はクルクルの髪を見ると自分の予想が外れていなかったと少し笑った。



、やっぱりここにいたんだ〜」
パタパタと駆け寄って、その隣に腰を下ろして。
「放課後は大抵図書室にいるって聞いてたけど姿見えないし、司書さんに聞いたらここだって言うから来ちゃった」
へにゃっと笑って言う菊丸にはかけていた茶色のフレームの眼鏡を押し上げる。
「何か用?」
「んーん。ただに会いたかっただけ」
「じゃあ静かにしてろよ。俺は本を読んでるんだから」
それだけ言うとまた視線を本へと戻して。
相手をしてもらえないのは寂しいけれど、の横顔をじーっと見つめて菊丸は嬉しそうに笑う。
「俺、ここにいてもいいのかにゃ?」
視線だけを向けてくるにやっぱり笑って。
「不二とかオチビとかが図書室に来るといつも追い出されてるじゃん? ・・・俺は特別?」
キラキラと目を輝かせて聞いてくる菊丸には少しだけ笑ってため息をついて。
「猫はオッケー、でも狼はダメ」
トン、と細く長い指で菊丸の額をつつく。
「オマエも狼になったら即効で閉め出すからな」
口元だけで笑うに菊丸は目をパチクリと瞬かせ、そして嬉しそうに笑う。
「じゃあさ、じゃあ俺ここで寝ててもいい?」
「俺の読書の邪魔をしなければ」
「・・・・・・の膝貸してっていうのは、やっぱ・・・ダメ?」
伺うように上目遣いで聞いてくる菊丸に、は思わず一緒に暮している従兄を思い出した。
アイツはこんな下手には頼んで来ないけれど、言ってることは一緒だな、なんて思って。
「・・・・・・20分」
壁にかけてある丸い時計を視界の隅に入れながら。
「20分経ったら図書室も閉室だから、それまでならいいよ」
夕焼けに染まる猫に笑ってみせて。
いそいそと横になる猫の髪を梳いてやって。
そういえば俺って猫好きだったっけ、なんて思い出す。



幸せな時間はあと20分。
ページをめくる音を聞きながら菊丸は幸せそうに眠るのだった。





2002年12月12日