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061:飛行機雲
ジェット音が聞こえて俺は顔を上げた。
隣を歩いていた有希もつられて顔を上げて。
青い空に走る、白い一筋の線。
「綺麗な飛行機雲ね」
少しはしゃいだ声で有希が言う。
そんな表情も可愛くて、俺は視線を彼女へと向けた。
俺は彼女を見て、彼女は空を眺めて。
「クドウもきっとアレに乗って、世界へと出て行くのね」
嬉しそうに、だけどどこか寂しそうに言うから、俺は苦笑するしかなくて。
だってそれは本当のことだから。
サッカーと生きていくと決めたときに、世界はもう視野に入れていた。
それは、有希に会う前からずっと。
有希を好きになる前から、ずっと。
「有希も、世界に行くんだろ?」
「モチロンそのつもりよ。・・・・・・でも、クドウの方が早そうだから」
強い日差しがアスファルトを焦がす中、俺と有希は並んで歩く。
夏が終わったら、秋が来て。
秋が終わったら、冬が来る。
冬が来る前に、俺はオランダのクラブチームの入団試験を受けに行く。
それはずっと前から決めていたこと。
クラブの意向で2回、向こうのチームに混ぜてもらって、そうして決めた未来への道。
冬が来て、そうして・・・・・・・・・春が、来る。
この制服を着る期間が終わり、クラスメイトとも離れ離れになって。
それぞれが自分の道を歩き出す。
俺も。
有希も。
「俺はきっと、ヨーロッパでプレーして、代表に選ばれるくらい強い選手になる」
誰にも言ったことのなかった、それでも俺の中では確固としていた決意。
「だから有希も、強い選手になれ」
自分勝手な、俺の願い。
「いつでも俺は、有希を見てるから」
いつまでも、ずっと
叶えられないかもしれない。
けれど願うのは個人の自由。
俺は努力も惜しまずに、必ず手に入れてみせるから。
未来も希望も、諦めたりはしないから。
繋いだ手を離さずに、空を飛べたらいいのに。
有希の呟いた声がジェット機の音に紛れて消えた。
2002年12月6日