057:熱海
「・・・・・・熱海?」
「そうだ」
首をかしげて聞き返すに、跡部は穏やかに微笑んで頷いた。
「、この前言ってただろ? 『温泉に行ってみたい』って」
跡部の言葉にはコクンとうなずいて。
その長く滑らかな黒髪を梳きながら、跡部は実に満足そうに笑う。
「家の別荘が熱海にある。今度の休みに行こうぜ」
「・・・・・・でも、部活」
「休みだ、休み」
小柄なの体をその腕の中に収めながら、なおも跡部はの髪を梳いて。
「今週末、また母さんが出張で留守にするんだろ? なら出かけてもいいじゃねぇか」
「・・・でも」
「おまえの母さんには俺がちゃんと許可を取る。別荘のほうは俺の親父も了解してるし、これでしかも部活もない。他に何か心配なことがあんのか?」
目線を合わせてそう問いかければ、はフルフルと首を振って。
「・・・・・・ありがと、景吾先輩」
花のように綻ぶ微笑に満足そうにうなずいて、跡部も笑った。
そして騒ぐ外野。
「よっしゃー! 今度の休みは熱海で温泉だ――――――っ!!」
「熱海といえば魚やろ。釣りでもしよか、」
「ね、跡部の家って露天風呂!? 楽しみ〜!!」
「お土産にはやっぱりアジの干物ですよね」
「酒っていうのも捨てがたいけどな。どっちにしろ和食だろ」
「・・・・・・・・・ウス」
「―――――――――――誰がいつテメェらを連れてくって言った?アーン?」
そして喚く外野。
「うわっヒドッ! 跡部がそこまで鬼だったなんて! 知ってたけど!!」
「あ、判ったで。アレやろ?と二人で不倫小旅行な気分を味わいたいんやろ?」
「え!? なになになになに!? 跡部って結婚してたの〜!」
「世間体と正妻に責められるなんてが可哀想ですよ、跡部部長」
「好きなやつを一人に決められねぇのかよ。激ダセェな、跡部」
「・・・・・・・・・ウス」
「・・・・・・・・・景吾先輩」
6人の恨みがましい視線と、1人の可愛い後輩の視線。
果たしてどちらが強かったのか。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・判った」
跡部景吾は肩を落としてうなずくのであった。
2003年1月16日