055:砂礫王国
「ねーねー兄ちゃん!お腹減らない?何か食べてこーよーっ」
「あ、悪ィ。先約あるから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・先約って誰」
「華武高の御柳芭唐」
間違いなく原爆は十二支高校野球部部室に落とされました。
(同校野球部員の手によって!)
絶叫することも、奴を殺りにいくことも、問い直すことも出来ずに部員たちは固まった。
それはもうモアイ像も真っ青なくらいの彫刻と化して。
そんな中で天国はさくさくとユニフォームから制服に着替え、帰る用意を済ましてロッカーを閉める。
そこでようやく一部の冷凍が融けた。
「バ、バババババババッババババッババババカ猿っ! おっま、今、何っ・・・! みやにゃぎって・・・・・・!!」
「・・・・・・ちゃんと人語を喋れよ、コゲ犬」
「つまり犬飼君は『猿野君、あなたは今何と言いましたか? 御柳芭唐って言いませんでしたか?』と言いたかったんですよ」
「お、犬飼の通訳は辰羅川かよ。大変だな、おまえも」
「えぇ、ですがもう慣れましたから。・・・・・・ところで猿野君、御柳芭唐とは私たちと同じ中学校出身で現・華武高校野球部4番バッターの御柳芭唐のことでしょうか?」
眼鏡を直しながら尋ねた辰羅川に、天国はいたって平然とうなずいた。
「あぁ、そうだぜ」
第二次原爆、落下。
しかし一度食らった攻撃には免疫力がつくのか、部員たちは先ほどよりも早い回復に成功する。
「なっなっなっ何でぇぇぇぇぇぇぇえ!!!!??? 何で兄ちゃんあんな歌舞伎男とデートなんてすんのぉっ!!!」
「デートじゃねぇよ。ただメシ食うだけで」
「そ、それは猿野君の方から誘ったんすか!?」
「いや、向こうの方からだけど」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「『いつの間にそんなに親しくなったの?』って? この前の練習試合のときにケータイ番号聞かれたからよ、教えただけ」
「そのミヤナギって奴だけKa?」
「いや、華武の一軍レギュラー全員っスけど」
「あのアイメイクでマフラーのや、ミニミニのメカにも聞かれたん?」
「・・・・・・久芒と朱牡丹ですか? 聞かれましたけど」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それは、あの、屑桐無涯にもかい?」
「そうっスけど?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・蛇神」
「鹿目先輩?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うむ」
「・・・・・・蛇神先輩?」
三年生二名はアイコンタクトを交わすと部室から出て行った。
一人はなにやら輝く刀身がのぞき、揺れるとカチャカチャと音を立てるバッグを担ぎながら。
もう一人は常より多い卒塔婆と数珠、それになにやら厚い紙の束と五寸釘を持って。
それを追うように他の部員たちもロッカー奥の隠し戸棚から色々なブツを取り出して、チーターもビックリなスピードで部室から走り出て行く。
「猿野君(バカ猿・兄ちゃん・モンキーベイベー・猿野)の貞操は俺(僕)が必ず守るからっ!!」
という叫びだけを残して。
「あーあぁ。こりゃあ明日の華武のグラウンドは使えなくなってるんじゃねーの?」
開いたままの扉から現れた親友に、天国は楽しそうに笑って言う。
「いいんじゃね? 二軍のメンバーを囮に置いておくって言ってたし」
「それと御柳芭唐から伝言。撒くのに失敗したから他の三人も一緒だってさ」
「バカだな。自分で『必ず俺一人で行く』っつってたのに」
「努力だけは買ってもいいだろ。無謀だけどチャレンジ精神だけは十分みたいだしな」
「どのみち沢松も一緒だから俺と二人きりにはなれねーし?」
「当然。新入りなんかに俺のチェックを抜けられてたまるかよ」
二人して楽しそうに笑って部室を出る。
鍵を持っているはずのキャプテンがいないので鍵は開いたままだけれど、取られて困るものなどないだろう。
少なくとも今は、隠し戸棚にある犯罪グッズも持ち出されているようだし。
「さっさと帰ろうぜ。家の前にあんな派手な奴らがいちゃご近所メーワクだ」
「同感」
こうしてのんびりとグラウンドを横切ってまっすぐに家路を目指す。
家の前で忠犬よろしく待っているだろう、本日の遊び相手たちを思い浮かべながら。
二人は笑った。
翌日の華武高校のグラウンドは予想通り使い物にならず、二軍のメンバーで誰一人立てるものはいなかった。
部員たちは口々に「あ、悪魔が・・・・・・」と遺言を残し、意識を失う。
けれど標的を仕留めていない悪魔たちが満足をするはずもなく、当然のごとく待ち伏せを決行し。
華武高校野球部一軍レギュラーVS十二支高校野球部有志による暗黒対戦、開始。
部活のない天国は、沢松とのんびりとした放課後を送るのであった。
陽月朔羅様に捧げます。
2003年1月25日