053:壊れた時計
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・あの、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか」
「・・・・・・・・・・・・ゴドリック・グリフィンドール」
うーわー! やっちゃったよ! 初対面の人には自分の名を名乗ってから相手に尋ねるっていうのが基本なのに!
しかもこの人答えちゃったし! 郭君みたいに「相手の名前を聞く前に自分から名乗るのが常識でしょ」とか言ってくれればよかったのに!
そうすれば適当な名前を名乗って誤魔化せたのに!
こんなに素直に名乗られちゃ私も本名を明かすしかないじゃんか!
(ちなみに何故本名だと判ったかというと、彼の名乗った名が彼の紅いローブに刺繍されているからだ)
「私は・です。以後お見知りおきを」
・・・・・・・・・って普通に挨拶するのはいいんだけどさぁ。
それよりもっと気になってることがあるんだよねー。
「あの」
「・・・・・・・・・」
「何で私、貴方にお姫様抱っこされてるんでしょうか?」
そう聞いたら目の前の美青年さんはため息をついて答えて下さった。
「・・・・・・・・・知らん」
明確な答えをドウモアリガトウゴザイマス。
背が高くて、金髪で、青い瞳のゴドリック・グリフィンドール。
これってやっぱりアレだよねぇ。もしかしてもしかしなくてもやっぱり例のあの人なんですか?(リドるんではナシ)
「すいません、つかぬ事をお聞きしますが、今は西暦何年でしょうか」
「西暦?」
「マグルで使用している年月を表す単位です」
「・・・・・・・・・確か1000年くらいだ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・オーノー。やっぱり時が戻ってるYo! 1000年なんて言ったらイイクニ作ろう鎌倉幕府よりも前の時代じゃん!
十二単だよ! 麦ご飯だよ! 女性は男性の前で顔を見せない時代だよ!
私がいたのは携帯電話とインターネットとSuicaが普及している時代だったのに!
時代が戻るんだったら私も若返っててもいいはずなのに戻ってないし! タイムスリップなんて初体験☆
やっぱり近道しようと思って新しい道を開拓したのが悪かったのかなぁ。
あの不思議な金色に輝くブロックを崩したのが悪かったのかなぁ。
だからってさー・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
創設者の時代に飛ばすことないじゃんか!!!
これから1000年生きろってか!? そんなのさすがの私でも無理に決まってるじゃん!
もうやだー! 帰るー! 帰らせてー! タイムマシーン!
「おまえは一体何者だ」
背の高いグリフィンドールさんが仰られた。
・・・・そのローブの懐にあるのは杖ですか? そしてその腰に下げているのは剣ですか?
ぎゃあ! さすらいの乙女に危害を加える気!? 私と決闘でもしたいんですか!?
「おそらく今から1000年後の未来からやってきた者です」
「・・・・・・・・・」
「先ほども言いましたが、名前は・。ホグワーツ魔法魔術学校本校の5年生です」
ちなみに好きな科目は魔法薬学と呪文学で、趣味は読書&スネイプ先生とのお喋り。
「・・・・・・・・・」
「信じて頂けないのは判っていますが、嘘をついてもどうしようもないことなのでお話ししたまでです」
だからそんな『何だコイツは』って顔をしないで下さいよ。
「貴方は、ホグワーツの創設者でグリフィンドール寮をお作りになられたゴドリック・グリフィンドールさんですよね?」
「・・・・・・そうだ」
「貴方がたが作られたホグワーツは私たちの時代でも伝統のある学校として残っております。こうして創設者の方にお会いできるなんて光栄です」
めっちゃ突発的な出会いだったけどな!
ちなみに今の私はちゃんと地面に立っている。間違ってもグリフィンドールさんの腕の中にいるわけではない。
それにしても・・・・・・グリフィンドールさんは意外と若い。そして美形。
うーん、お兄様って感じだよね。身体もしっかりしているし、何より纏っている雰囲気が落ち着いていて良い感じ。
この人がグリフィンドールを作ったのかぁ。
勇猛果敢な騎士道がモットーのグリフィンドール。・・・・・・・・・・・・・・・・・・ピッタリすぎてて笑えるんですけど。
だってこの人騎士って言葉がピッタリだよ!お姫様はどこだよ、お姫様は!椎名さん今すぐ出てきて!
―――――――――――――――――――って。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ヤバイ。
気がつかなければ幸福だったことに気づいてしまった・・・・・・・・・。
―――――――――――――ここにはヤツがいる・・・・・・・・・ッ!!
「すいません、グリフィンドールさん! 今すぐ私を元の世界に戻してください!」
急に焦り始めた私を不審に思ってか、グリフィンドールさんが整った眉を顰める。
そんな顔もカッコイイけど今はそれどころじゃないんだって!
「お願いします! 貴方ほどの魔法使いなら私一人くらい時の旅人に出来ますから! この際940年後でも970年後でもむしろ未来でも構いません! だからどうかお願いします! 私をここじゃない時代へ連れて行って下さい!!」
やばい、やばい、やばい! 何かものすごく嫌な予感がする!
一刻も早くこの世界を去らなくては!
「・・・・・・さすがに俺一人ではおまえの元の時代に返すことは出来ない。時空を超える魔法に関しての資料はロウェナが持っていたはずだから、あいつに協力を頼まなければならないな」
ロウェナってロウェナ・レイブンクロー? いや確かに自寮の創設者に会えるのは嬉しいんですけど! 話とかもしてみたいんですけど!
でもそんなこと言ってる場合じゃないんですって!
「だったら早くレイブンクローさんの所へ行きましょう! そして私を無事に元の世界に帰して下さい!」
「・・・・・・・・・」
「彼女の部屋はどこ!? 1000年後の本校と作りが変わってないなら図書室の近くにある隠し階段の最上階ですか!?」
「・・・・・・・・・そうだ」
「じゃあさっさと行きますよ! グズグズしない!」
どこか腑に落ちていないグリフィンドールさんを引き摺るように私は廊下を走り始めた。
あの角を曲がって、機嫌の悪い階段をクリアーして。
ぎゃあ! 何でこの学校には隠し通路がないのさ! 後々作った人は全くもって素晴らしいね!
でも今なければ無意味なんだよっ!
早く、早く、早く! ヤツに見つかる前に帰らなくては!
ヤツだけには会う前に・・・・・・・・・!!
この廊下を抜けて突き当たりを曲がれば図書室。その手前にある絵画がレイブンクローへの入り口のはず。
ここまではどうにかクリアー。あと一歩。
早く、早く、早く!どうか神様!
私はグリフィンドールさんを引き摺る手を休めずに小さなカーブを描いてロスなく角を曲がりきって―――――――――。
「・・・・・・・・・・ジーザス・・・・・・・・・・」
呟いた言葉は真っ白になっていたはず。
だって、だって、だって・・・・・・・・・。目の前の廊下に居座る物体は!
長くてニョロニョロで財布に入れると金の溜まるナマモノは!
「蛇?・・・・・・・・・サラザールか」
ノオオオオォォォォォォォォォォ!!!
「言わないで、言わないで下さいグリフィンドールさん! 名前を口にすると現れる! そういうヤツなんです、スリザリンは!!」
ヤツの血を引くリドるんがいい証拠だよ! リドるんは名前を呼ぶだけですぐに現れるんだよ! 着替え中だろうと風呂だろうと日本校だろうとどこでもな!
リドるんの先祖であるサラザール・スリザリンがそうでないはずがない!
むしろ血が濃いだけあってさらに倍!
「・・・・・・おまえ、サラザールを知っているのか?」
「知りません知りません! あんな蛇が好きで闇の魔法に真っ黒で趣味の悪い秘密の部屋を作って喜んでいるヤツなんで全くもって知りません!」
「・・・・・・・・・知ってるんだな」
「知ってますよ! 会ったことはないけどな! 嫌になるくらい話には聞いてますよ!!」
だから余計に会いたくないんだってば――――――――――っ!!
「―――――――ゴドリック」
涼やかな声がポチッと世界の停止ボタンを押した。
「見慣れない女の子だね。可愛いけど君の恋人?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・終わった。私の人生はここで終焉を迎えてしまった。
ごめん、日本校のみんな。そして本校のみんな。
ごめん、多紀。この前借りた世界制服の本は返せそうにない。翼さんもごめんなさい。今年のテストは得点を取るどころか参加さえも出来なさそうです。
ハリーと今度の休みにアイスを食べに行く約束も守れそうにないよ。
リドるん、こういうときこそ呼んだら出てきなさいよねぇ・・・。でもやっぱりご先祖様には敵わないか。
「・・・・・・サラザール」
グリフィンドールさんがヤツの名前を呼んだ。私は体が硬直して振り向けないんですけれど。
怖いわけじゃないけどさ、何か本能的に。敵じゃないけど味方でもない、恐ろしい物体に会った気がする。
・・・・・・・・・これだから会いたくなかったんだよ・・・。
ま、出会ってしまったものは仕方ない。
「はじめまして、サラザール・スリザリンさん。私は・です。どうぞよろしくお願い致します」
ニッコリ笑って挨拶してやった。
そうしたらサラザール・スリザリンはちょっと目を瞬いて、口元だけで綺麗に笑うし。・・・器用な人だな。
「はじめまして、。こちらこそどうぞよろしく」
やばい。この人やっぱりリドるんの先祖だよ。
「ずいぶん急いでたみたいだけど、どこに行くつもりだったの?」
「ちょっとレイブンクローさんにお話がありまして。グリフィンドールさんに案内して頂いていたんです」
「そう。僕も一緒に行ってもいいかな」
「絶対嫌です。どうぞバジリスクに餌でもおやりになっていて下さい」
これまた笑顔で言ってやるとサラザール・スリザリンは一瞬口をつぐんで、そしてその紅い目をきらめかせた。
「可愛い外見に似合わず気が強いね、君は」
「お世辞と判っていても貴方にそう言って頂けるなんて光栄ですね、スリザリンさん」
「お世辞じゃないんだけどねぇ。君は、魔法使いでしょう?」
「はい、一応そうですが」
この世界に足を踏み入れて早幾年。よもや創始者と対戦することになろうとは・・・・・・。ダンブルドア校長でも思うまい。
「僕の寮に来ない?」
「折角ですがお断りさせて頂きます。私は純血ではありませんので」
「でも生粋のマグルではないよね」
鋭いご指摘。だけどここで頷くわけにはいかないし。
「どうせ入るのでしたらスリザリンよりもグリフィンドールを希望させて頂きたいのですが」
ねぇ、グリフィンドールさん。
見上げてニコッと笑ってみたら、傍観体勢(=火の粉が降りかからない距離)だったグリフィンドールさんは目を丸くした。
一人だけ安全なところにいさせて堪るか! 旅は道連れ世は情けってな!
一緒にサラザール・スリザリンの無表情笑顔に対抗してもらうよ!
「・・・・・・サラザール。彼女は本校の生徒ではなく客人だ。寮には入らない」
「そんなの奪えばいいだけだよ? ゴドリックがいらないならは僕がもらうよ」
何だその台詞は。三流の昼メロドラマか。奥様に大人気の番組か。
「勝手なことを言うな。彼女には彼女の事情がある」
そうそう。元いた世界に帰るっていう事情がね。
「僕には関係ないよ。には素質がある。僕の片腕にだってきっとなれるだろうね」
「いえ、なりたくありません」
「遠慮なんてしなくていいよ」
「遠慮なんてしたくてもしてません」
・・・・・・・・・グリフィンドールさんの哀れみめいた視線が痛い。
何で私はこうもスリザリンに一方的に感情を向けられるんだ。
須釜さんしかり、郭君しかり、リドるんしかり、ドラコしかり。その種類は違えど感情を向けられることは一緒だし。
何でだ・・・・・・。スリザリンに対する特異フェロモンでも出してるのか・・・・・・。
「強情だねぇ、は。そんなこと言ってると攫って閉じ込めちゃうよ?」
「あら素敵。スリザリンさんが面倒見て下さるんですか」
「一生不自由なく暮らさせてあげるよ。僕だけの世界でね」
「一度自由を知った籠の中の鳥は常に逃げ出せる機会をうかがっているそうですよ」
「僕は逃がさないよ。逃がすくらいならこの手で殺しちゃうもの」
「そんなこと言う人間に私が自ら捕まりに行くと思います?」
「思わないねぇ」
ふふふふふふ、あはははははは、なんて笑い声が廊下に響いて。
グリフィンドールさんは再度傍観体勢に戻ってしまった。しかもさっきより遠い位置に行ってしまわれた。
サラザール・スリザリンだけじゃなくて私とも関わりたくないってこと?まぁヒドイ。
・・・・・・つーかマジで帰りたい。
でも目の前にいる人物が帰してくれなさそう。
これからは抜け道なんて作成しないで既存のものだけを使うことにするよ・・・・・・。
「ゴドリック」
「・・・・・・ロウェナ」
「騒がしいから何してるのかと思ったら・・・・・・あの子は誰?」
「・。本人曰く1000年後の未来から来たらしい」
「未来から? ・・・・・・・・・ふぅん、まぁそれは置いておくとして。彼女、スゴイじゃない。あのサラザールに真っ向から勝負仕掛けるなんて」
「あの性格だとスリザリンだろうな。本人は否定していたが」
「あらそう? 私はあの子はレイブンクローだと思うわよ。私に似て頭の回転が速そうだもの」
「・・・・・・・・・」
「ヘルガのハッフルパフではなさそうね。あんまり忍耐強くはなさそうだし。後はグリフィンドール?」
「俺の寮か?」
「勇猛果敢かどうかは知らないけど、怖いもの知らずではあるみたいね。あのサラザールと対抗するくらいだし」
「・・・・・・彼女は未来に帰る術を探しているらしい」
「時空を超える魔法?たしかどこかに資料があったと思うけど。でもそれは無理なんじゃない? あのサラザールの執着様だもの」
「たとえ無理でも彼女のためだ」
「・・・・・・・・・そうね、彼女のためね」
「頼む」
「判ったわ。彼女が本当にサラザールに閉じ込められないように見張っててよ」
「・・・・・・あぁ」
こうしてグリフィンドールさんとレイブンクローさんの必死の行動により、私は無事に元いた時代に帰ることが出来た。
つーかその間の三日間は最悪だったけどね。
サラザール・スリザリンには付き纏われるし、閉じ込められかけるし、その他諸々やられたし。
グリフィンドールさんはサラザール・スリザリンの秘密について聞いてくるし、剣の相手をしろって言ってくるし。
レイブンクローさんとはたくさん話をしたなぁ。賢人だけあって色々と話題も豊富で参考になったし。
ヘルガ・ハッフルパフさんはとても優しい人だった。穏やかで、ほのぼので。癒されたわー。
しかしその三日間は元いた世界では三週間になっていて。
・・・・・・・・・・・・・・・浦島太郎かよ!
先生にはどこに行ってたのか問い詰められたし、生徒のみんなは何やってたのか聞いてくるし、授業は遅れてるし、レポートは溜まってるし!
それに本当のことを言っても誰も信じてくれないし! でも信じさせたけどな!
もう二度と新しい抜け道は開拓しない。
固く心に決めた経験だった。
しかし後日、何故か突如現れた時空の裂け目に引っ張られてまたヤツと会うことになるだなんて、そのときの私は考えてもいなかった。
ちくしょう、サラザール・スリザリンめ!
今度こそは完膚なきまでに倒して見せるから覚悟してなさいよ!
2002年12月15日