047:ジャックナイフ
駆け抜ける足音
間合いを開けずに二つ
同じテンポで乱れずに
荒い呼吸が壁に響く
「リョーマ、平気?」
「俺は平気。の方こそ大丈夫じゃないんだから余計な心配しなくていいよ」
「俺も平気だって。見た目ほど深くは斬れてないし」
白いジャージを染める紅色
それはすでに赤黒く変色し始めていて
リョーマは歯を食いしばって顔を歪めた
テニスコートの帰り
ここらでは有名なガラの悪い奴等に目をつけられて
気付けば囲まれていた
逃げ出せたのは、相手が油断してたから
泣き叫ぶことしか出来ない双子だと、相手が思っていたから
「・・・アイツラ、今度会ったときは絶対に血を見せてやる」
リョーマの呟きに、今度はが眉をひそめて
「やめろ、リョーマ。つまらないことでポリスに呼ばれたくないだろ」
「でも」
「俺の怪我なら平気だよ。右腕だしね、利き腕じゃなかったから大丈夫」
そう言うからテニスバッグを引ったくって
そうして二人、走り続ける
この路地を抜ければ大通り
そうすれば
「・・・・・・リョーマ、鞄」
が手を伸ばして取り返す
リョーマは何か言いたそうに口を開きかけて、また閉じる
そして紡いだ言葉は別のこと
「さっき4人やったから人数的に3人はいないでしょ。動けなくさせればそれでいいよね」
「ああ。俺たちが無事に家まで帰れればそれでいい」
「相手が銃を持っていないのが不幸中の幸い?」
「でもナイフは持ってるから気をつけろよ。いくら双子だからってリョーマまで怪我することないんだから」
「と一緒なら、それでもいいよ」
そんな言葉を交してさらにスピードを上げて駆け抜ける
現れた相手に鞄を振り翳して殴り倒し
崩れた体を思い切り踏ん付ける
怪我している片割れの代わりに、力一杯
本当はもっとやりたいのを堪えて
自分を呼ぶ声に頷いて走り去る
あとは家まで無事に帰るだけ
互いを守ることを第一に考えて双子は動く
その背を預けるのは互いのみ
それは、言わなくても判っていた事実だった
2002年12月6日