045:年中無休





ある日のこと、練習着に着替えた須釜寿樹はのんびりと芝生に座っていた。
練習開始まではまだ時間があって、チームメイトたちもまだチラホラとしか来ていない。
そんな彼の後ろに近づく影。
「よっスガ。どうした? 暗いじゃん」
「あー・・・君」
上から覗き込んできた同じ練習着の親友にスガはへにゃっと笑って。
けれどその顔を見たは不思議そうな顔にさらに眉をひそめ、スガの正面に座り込む。
「何があった?」
「あ〜・・・えっと、そのですねぇ」
『何か』ではなく『何が』と聞いてきたに知らず笑みを漏らして、スガは答えた。
「僕、付き合ってた彼女にフラれちゃったんですよ〜」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・この前の髪の長い年上の?」
「いえ、その次の隣の中学の女の子」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・スガ、ローテーション速すぎ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・僕もそう思います」
たははは、と笑うスガに肩を落として、は困ったように視線を泳がせた。



「・・・・・・・・・いつ?」
ここで会話を終わらせるのも不自然だと思ったのか、が柔らかい瞳でスガを見ながら聞く。
「フラれたのですか?」
「そ」
「この前の月よ―――・・・・・・」
言った瞬間、の目が大きく見開かれて、スガは思わず自分の口を塞いだ。
その顔には『しまった』と書かれていて。
微妙な沈黙が支配した後、が勢いよく立ち上がる。
「俺、彼女に謝ってくる!」
「ああぁぁぁぁぁぁちょ、ちょっと待って君!」
走り出そうとした足首を思いっきり掴んで。
ベシャッという音とともにが芝生へとダイブした。それはもう盛大コケた。
スガはその顔にさらに『しまった』と書いて、動かないへと恐る恐る話しかける。
「・・・・・・君、生きてます〜?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・生きてる、けど」
ムクリと起き上がったの髪についている芝をスガが静かに払い落とす。
けれどはいまだ俯いていて。
困ったように、スガが頭をかいた。
「・・・・・・・・・この前の、日曜日」
「・・・・・・・・・はい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれが、原因?」
「いえ、そんなことは」
「原因?」
強い口調で言われ、思わず言葉に詰まる。
そんなスガを見上げては唇を噛むと、大きく息を吐いた。
「・・・・・・・・・・・・ごめん」
「・・・・・・・・・」
「デートだったんだな、スガ。俺が買い物に行こうって誘わなければ」
「・・・・・・・・・」
「ごめん。俺、スガの恋、邪魔した」
まっすぐに瞳を合わせながら謝罪を口にするに、スガは視線を返して。
そして、微笑んだ。
「いいんですよ〜。買い物を選んだのは君のせいじゃなくて僕の選択ですから」
「でも、それで彼女は怒ったんだろ?」
「それ以前にもデート出来てなかった僕がいけないんですよ」
「それは違う。スガが忙しいのは俺も知ってるし、彼女も知ってたんだろ?」
「・・・・・・まぁ、知ってたと思いますけど」
「なら、俺が悪い。あんまりスガに会えない彼女と、練習でスガに会える俺とじゃやっぱり俺の方が遠慮すべきだった。しかも彼女が先約なら尚更」
「・・・・・・・・・」
「・・・やっぱり俺、彼女に謝ってくる。スガの隣の学校だよな?」
「だからいいですって、君」
再度立ち上がろうとしたの袖を引いて強引に座らせる。
けれどまだ納得していない相手に、スガはいつも通り微笑して。
「いいんですよ〜どのみち別れようと思ってましたから」
「・・・・・・何で?」
君が彼女さんを想うように、僕は彼女を想えませんでしたし」
「・・・・・・・・・」
「もっといい人を見つけますよ、今度は」
そう言って笑うスガにはもう一度だけ「ごめん」と謝った。
俯いてしまったの頭を撫でて、スガが楽しそうに笑う。
一つしか年齢差のない相手に撫でられるのは気持ちの良いものではないけれど、今だけは大人しく撫でられて。
「・・・・・・俺が女なら、絶対にスガと別れないのに」
「そうですか? それは嬉しいですね〜」
「信じてないし」
「そんなことないですよ。僕も女の子に生まれたら君の彼女になりたいですし」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・ねぇ、君?」
呼ばれて顔を上げた。
自分よりも少し高い位置にあるスガの顔を見上げて。
柔らかな笑みに、知らず見とれる。
君なら、どっち選びます? 彼女さんのデートと、僕との約束と」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どっちも」
「どっちも?」
返された答えに、首をかしげて。
けれどは静かにスガを見上げて続ける。
「基本的には最初に約束をしてた方。でも小島と会うのが3ヶ月ぶりでスガと会うのが3日ぶりなら、スガに謝って小島を優先させてもらう。でもそれは逆のパターンでも一緒だから」
「・・・・・・・・・僕が会いたいって言ったら?」
「泣いて俺の名前を呼ぶなら、すぐにでも行ってやるよ」
少しだけ笑いながら言われた言葉に思わず目を丸くして。
そして、笑う。
「じゃあ僕が君に電話するときはいつも涙声で電話しますね〜」
「回数が重なれば無効になるし。ちゃんとダメなときだけそうやって呼べよ?」
「そうしたら来てくれます?」
彼女さんとデートの最中でも? と聞いてきた相手に、少しだけ拗ねたように、少しだけ怒ったような表情で。



「俺は、親友を見捨てるほど薄情じゃない」



そのハッキリとした口調と、何よりも信じられそうな瞳に吸い込まれて。
「・・・・・・・・・・・・僕、やっぱり女の子に生まれたかったです」
「それはどーも」
真剣な顔でため息をついたスガに明るく笑って。
「とりあえず今日はモスでもカラオケでも付き合うからさ。また次があるって」
「じゃあミネストローネは君のオゴリですね」
「あー・・・・・・ヨシ、今日はナゲットもつける」
「ありがとうございます」
遠くから聞こえる集合の合図に立ち上がった。
傾きかけた太陽を背に、手を差し出して。
「行こう、スガ」
「―――――――――ハイ」
二人して走り出した。



「なぁ一馬、英士聞いた? スガのやつまた彼女と別れたんだってさ」
「・・・・・・・・・また?」
「相変わらずだね。結人よりもインターバル短いんじゃないの?」
「英士っ」
「ハイハイまぁいいですけどー。でも今回もアレだって。いつもと同じパターン」
「『私と君、どっちを取るの!?』ってやつ?」
「・・・・・・・・・サッカーじゃないとこが不思議だよな」
「でもってスガがいつもの通り『君ですね〜』とか答えちゃうから悪いんだよ。嘘くらいついときゃいいのにさぁ」
「・・・・・・スガって変なとこで正直だし」
「それでフラレてちゃ意味ないけどね。まぁ彼女よりといる方が楽しいならフって当然でしょ」
は相変わらずあの可愛い彼女とラブラブだけど?」
「スガの報われない片思いっていうのも見てて楽しいし」
「ある意味両思いだけどなースガとって」
「・・・・・・・・・・」(二人の会話についていけなくて置いてきぼりを食らう一馬)



要は、須釜寿樹の中で親友のレベルは彼女よりも上だという話。





2003年1月25日