035:髪の長い女
どうしろと言うんですか、お嬢さん。
「えっと・・・・・・じゃあ、とりあえずお茶でも飲む?」
「あ、いえお構いなく」
私はそう言ったけど、小島先生は部屋に備え付けられている簡易キッチンにヤカンをかけた。
部屋は意外と整頓されてるんだなぁ。机と、棚と、ソファーとテーブル。あの扉の向こうが私室なのかな。
っていうか妖精の魔法に関する本が棚にいっぱい並んでる。あ、これって図書館にもなかったやつだ。
いいなぁ、ちょっと読んでみたい。っていうかかなり読んでみたい。
「はい、どうぞ」
ローテーブルに紅茶とお菓子が置かれて、笑顔でソファーを示される。
「ありがとうございます」
「いえいえ、どういたしまして」
穏やかに笑う小島先生はやっぱり有希と少し似てる。でも有希の方が気の強そうな印象を受けるかな。
「ごめんね、うちの妹が」
「いえ、有希も私のことを思ってしてくれたことですし」
「そう言ってもらえると助かるよ」
苦笑する小島先生。
そうなのです。何故私が小島先生の研究室でこうして優雅にお茶を頂いているかというと、それもすべて有希の手による物なのです。
この前『大人の恋愛を教えてもらいなさい!』と豪語していたけれど、それをマジで実行に移したらしい。
授業が全部終わったかと思うといきなり捕獲され、この部屋のドアを叩き、開くと同時に私を投げ入れて外から鍵までかけて下さった。
極めつけには「何かあるまで出てきちゃダメよ!」との台詞。
・・・・・・・・・・・何かあったらそれはそれでヤバイでしょう。
鍵も簡単に開けることはできるけれど、そうしたら間違いなく有希に怒られるだろうし。
怒った顔も可愛いけどさ、やっぱり美少女には笑っていて欲しいものなのだよ。
というわけで、本日の午後は小島先生とお茶のみに決定。
「小島先生はマグル式で紅茶をお入れなさるんですね」
一口飲んだ紅茶はとても美味しい。上にクリームとナッツが乗ってて、どこかお店の飲みもののよう。
ちょっと甘くてそれがかなり良い。たぶん有希には入れられないと思うなぁ。小島先生、さずが。
「うん、その方が心がこもってる気がするから。・・・なんておかしいかな?」
「そんなことないですよ。すごく素敵です」
いや、これは本当にマジで美味しい。こんなお茶が毎日飲めるなら小島先生と結婚してもいいかも。
小島先生って年いくつだったっけ? 23か24? じゃあ年の差は10か11。それなら全然オッケー。
あ、でもそうすると女性の方が平均寿命が7年長いから、私は小島先生が亡くなってから17年は一人で生きるわけ?
うーん、まぁそれもありかな。
有希と麻衣子も長生きしそうだし、三人して世界旅行とか。あぁそれってかなり楽しいかも。
絶対に二人とも上品できれいな老婦人になってるだろうから、豪華客船でクルーズしたり会員制レストランで食事したり。
そのためにはまず金を貯めねば。そして年をとらねば。
「さんは、今は好きな人がいないんだって?」
有希が大騒ぎしてたよ、と言って小島先生が楽しそうに笑う。・・・有希も余計なことを言ったりしないの。
「はい。まだそう思える人とは出会えなくて」
「焦らなくてもそのうち出会えるよ。有希も人のことを心配してないで自分のことを考えればいいのになぁ」
「有希は小島先生一筋ですから」
「嬉しいけど、それはそれで困るね」
苦笑する小島先生につい笑って、お茶菓子として出されたクッキーを一枚頂く。あ、これも美味しい。小島先生って色々美味しいかも。
穏やかな話し方は同世代にはないものだし。
多紀や柾輝、佐藤さんなんかも穏やかだけど、小島先生はそれ以上に安心させる空気を持っている。なんというか、無理のない感じ。
穏やかは穏やかでも渋沢さんと須釜さんと比べた日には小島先生に土下座して謝らなくちゃ。
あの人たちを人間と比べること自体が間違っている。あ、人間じゃなくて魔法使いだけどさ。
とにかく小島先生は中々に良いお人だ。
しかし麻衣子が言ってました。『いい人止まりなら恋愛はできない』と。
・・・・・・・・・・・・・・・・ということは、小島先生も無理ということで。
有希、計画は失敗です。
そのあとは妖精の魔法の話や、ほかの科目の話を聞いたりして。
参考になりました。ありがとうございます、小島先生。
時計はすでに5時を指していて、ここまで時間も経てば有希も怒らないでしょう。よって今日は解散。
「今日はどうもありがとうございました。紅茶もクッキーもとても美味しかったです」
「いや、こっちこそたくさん話が出来て楽しかったよ。他の先生方が言うように、さんの知識が豊富だっていうのも判ったしね」
知識が豊富だか貧困だかはさて置いて。話が出来て楽しかったのは私も一緒だし。
今日は有意義な時間が過ごせました。
ドアを開けて廊下に出ると、ちょうど有希と麻衣子がこちらへと向かって歩いてきているところで。
もう夕飯だから迎えに来てくれたのかな。両手に花だ。とてもよし。
手を振ると振り返してくれて、さぁ行こうと足を一歩踏み出したら、後ろから腕を引かれて動けなかった。
見上げればいたずらっぽくウィンクをしている小島先生がいて。
「期待には応えなくちゃね」
そうして、やわらかい感触を頬に一つ。
・・・・・・・・・・・・推奨しておいて絶叫しないで下さい、お嬢さん方。
「ちょちょちょちょちょちょちょちょっと! に何してるのよお兄ちゃん!」
「何って、有希が言ったんじゃないか。『大人の恋愛を教えてあげて』って」
「〜〜〜〜〜〜言ったけど!」
麻衣子が私をその背に隠して、有希が小島先生につかみかかって。
私はというといたって平然とその場に立っている。
・・・・・・・・・・・・キスされちゃったよ。(頬にだけどさ)
これは何? 高校教師な展開に持ち込まれるのか? あのテーマソングはわりと好きだけどさ。いや、さすがにそれはないだろうけど。
「とにかくっ! もう二度とには手を出さないでよね!?」
有希、あなた言ってることが矛盾してます。
「判った判った」
小島先生は楽しそうに笑ってるし。・・・・・・私は役得だったのか? うん、たぶんそう思っておこう。
「、もう二度とお兄ちゃんに近づいちゃダメよ!」
真剣な顔で諭す有希にとりあえずうなずいて。夕飯のために大広間へと足を向ける。
右側には有希、左側には麻衣子をつれて。
うわーマジで両手に花だ。これぞ役得!
上機嫌で行こうとして視線を感じたから振り返ったら、小島先生が苦笑しながら手を振っていた。
それにニッコリと笑顔で返して。
ごめん、有希。近づかないのは無理だと思う。
今現在私の手の中にある妖精の魔法の本を返しにいかなくちゃいけないし。
それに、小島先生の淹れてくれるお茶は中々に魅力的だったから。
次回訪れる約束もしちゃったことで。
高校教師的な展開に期待でもしてみますか。
2003年1月19日