028:菜の花





好きな人が、います。



部活で必要なテーピングやドリンクの粉を買いに出かけたとき、スポーツ洋品店であの人を見て、ものすごく驚いた。
だって、こんな不意打ちみたいに会えるだなんて思ってもいなかったから。
「こんにちは、太一君。買い出し?」
「は、はははははははい! そうデス!」
ニコリと微笑むあの人が綺麗で、僕は動揺を隠せなくて。
「太一君、マネージャーから選手になったのよね? どう、練習大変?」
尋ねてくる言葉に首を縦に振って頷いて。
喉がカラカラに乾いて、声が出ない。
でもあの人は変わらずに綺麗に笑う。
僕はそのたびに胸が締め付けられる。



大切な、恋なんです。



「・・・・・・、さんは、お買い物デスか?」
部活は入っていないのに、どうしてこんなスポーツショップに?
「亮に。あ、私の双子の兄がね、この前あった大会で優勝したから、何かプレゼントでも贈ろうかと思って」
「お、おめでとうございマス」
「ふふ。ありがとう」
穏やかで柔らかく笑う。
そのたびに僕の胸は熱くなって。・・・・・・どうしようも、なくなってしまって。
恋なんです。
貴女が好きなんです。
言葉にできないくらい、想ってるんです。



レジでサッカーウェアとタオルを包んでもらう、あの人。
「すいません、こっちは値段だけ剥がして頂けますか?」
指さした先には白のリストバンド。
白に、青と赤。──────────青学の、色。
他にもう一つ買って、三つの包みを受け取って、三つ分の代金を払って。
さんは、笑う。



その顔があまりに綺麗すぎて、僕は泣きたかった。



プレゼントみたいには包まれないけれど。
それを渡す相手を僕はたしかに知っている。
同じ学校の、人。
あの人に一番、近い人。



切ない、恋なんです。



「ハイ、太一君」
店を出たところで一つ、渡されて。
さっき買った三つのうちの一つ、小さな紙袋。
開けて出てきたのは、オレンジと緑のリストバンド。
「太一君がテニスを始めた記念に。部活、頑張って」
綺麗に、笑って。
声が、出ない。
「じゃあ太一君、またね」
穏やかに手を振って。去っていこうとするあの人。
伸ばしてしまった手は、届く前に下へ降ろした。



苦しい、恋なんです。



どうかどうか、この恋が実るようになんて祈らないから。
あの人が幸せでありますように。
どうかどうか。



あの人が、いつも笑っていられますように。



心から祈った。
初めての、恋なんです。





2002年12月13日