027:電光掲示板
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・不二ぃ・・・・・・」
「ん?」
振り返れば真っ赤な顔をした英二がいて。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺、好きな子、出来た・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
うん、知ってたよ。だからハッキリ僕に聞こえるようにもう少し大きな声で言いなよね。
・・・・・・・・・・・・・なんて首まで真っ赤な猫を見ながら僕は思ったりした。
耳だけじゃなくて首筋まで真っ赤になって俯いている英二。あ、手まで震えてる。
そんなに言い辛いことなのかなぁ?
だって今までの英二は好きな子が出来たら即行で「俺、○組の××ちゃんのこと好きになっちゃった〜!」とか言ってたのに。
それなのに今回は真っ赤になって、小さな声で、震えながら言うなんて。
これは楽しい・・・・・・・・・じゃなくって真剣なんだね、英二。
「・・・好きな子って誰?」
猫英二をここまでさせる子なんて興味深い。というか興味本位で聞いてみる。
そうしたら英二はますます俯いて、しまいには机の上へと伏せてしまった。クルクル髪から真っ赤な耳だけがのぞいてる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
返事は、ナシ。それほど言いづらい子なわけ?先生とかだったら僕でも笑うだろうけれど。
とりあえず候補を挙げてみることにしよう。
「1組のサオリちゃん?」
フルフルフルフル
「4組のケーコちゃん?」
フルフルフルフル
「5組のマヤちゃん?」
フルフルフルフル
「9組のアイちゃん?」
フルフルフルフル
「11組のユリコちゃん?」
フルフルフルフル
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・違うの?
英二が可愛いって騒いでいた子の名前を全部挙げたのに違うって言われちゃった。
ってことは僕の知らない子なのかな。同学年の可愛い子は英二と一緒にチェック入れてたはずなんだけど。
英二ってばどこでそんな子と巡り会ったんだか。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・笑わにゃい・・・?」
チラッと見上げてきた猫に一つ頷いてみせる。
「約束するよ、笑わない」
多分、ね。
そう返すと英二は「うー」とか「あー」とか猫語を喋って、頭をかいたり顔をおおったりしながらどんどんと真っ赤になっていって。
そして、3分後にようやく人間の言葉をつむいだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1年、2組の・・・・・・・・・・・・・・・ちゃん・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・おやまぁ、そう来ましたか。
1年生かぁ。それはさすがに考えてなかったなぁ。というか知っている1年なんて同じテニス部の部員たちくらいだし。
まぁ可愛い子やカッコイイ子はそれなにり話題にも挙がってるけどね。
でもちゃん? その子の名前は聞いたことがないや。
「どんな子?」
とりあえず聞いてみると英二はやっぱり人間から猫へと変化して。
―――――――――3分後。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・明るくて、楽しくて、ノリの良い子・・・」
それはつまり似たもの同士の恋愛になりそうだということ?
だってその特徴だけ聞いてたら英二とその子、すごく似てるように思えるんだけど。
「あっ! んでもってめちゃくちゃ可愛いっ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やっぱりそうか。
「でもでもでも可愛いだけじゃなくって! いや確かにちゃんは可愛いんだけど! 可愛いから好きになったわけじゃなくって!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、そんな熱弁を振るわなくても。
「本当に! もう本気で! どこが良いとかそんなんじゃなくって! もう全部丸ごとちゃんって感じで! だから好きで!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ここが部室でよかったね。教室だったら即噂になってたよ。
勢いで立ち上がった英二はやっぱり真っ赤な顔をしていて。
ギュッと握り締めた拳にはうっすらと血管が浮かんでいた。
その手を、左胸に押し当ててポツリと呟く。
「だって・・・・・・・・・・だって、俺、撃ち抜かれちゃったんだ」
「俺の心臓、ちゃんが持って行っちゃったんだ。・・・・・・心臓だけじゃなくて、全部」
「俺の全部、もうちゃんのものなんだ。だからダメ。もう絶対、俺にはちゃんしかいない」
心臓に手を当ててそう言い切った英二は、もう猫じゃなかった。
完全に『男』の顔をしていて。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ずるいなぁ、なんて思ってしまった。
「・・・・・・・・・そんなに好きなんだったら別にいいんじゃないの?」
年下だろうが、たった一つなんだし。全然問題なんてないじゃない。
そう言うと英二は握っていた拳を解いて、大人しくまた椅子へと座り込んだ。
「でも、さ? 俺とちゃんって全然接点とかないし。ちゃん、俺のことなんて知らないだろうし」
「接点ないって・・・じゃあ英二はどうして彼女のことを知ったの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・入学式の手伝いのとき、ちょっと、見かけて」
それはつまり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「一目惚れ?」
「・・・・・・・・・・・・・かもしんにゃい・・・」
あーらーらー。うん、これでこそ英二。
「でも本当に俺、ちゃんが好きで。っていうかもう他の女の子なんかどうでもよくって」
「去年、綺麗だって言って騒いでた音楽のスダ先生も?」
「うん、どうでもいい」
・・・・・・・・・・・・・ハッキリと言い切ったね。しかも即答。これはこれでヒドイ言い分なのかもしれないけれど。
でも、たった一人を見つけたのなら、それでいいんだと思う。
ちょっと・・・・・・いや、実はものすごく羨ましいけど。
「頑張ってね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん」
真っ赤な顔で笑った英二は、とても幸せそうで、それでいて恋する少年の顔をしていた。
―――――――――しかし。
「英二! ちゃんと声かけなきゃダメじゃない!」
「だってだってだって〜〜〜〜〜〜!」
「緊張して話せない!? そんなこと言ってこれで一体何回目だと思ってるのさ!? 余裕で二桁は超えたよ!?」
「う〜〜〜〜〜〜!」
「この間に彼女を他の奴に奪られてもいいわけ!?」
「それは嫌!」
「じゃあ明日こそ声をかける! いいね!?」
「うんっ! よっしゃ明日こそ!!」
廊下ですれ違うたびにこんなやり取りが続いて。
英二がちゃんと彼女に声をかけられるようになるまで、約一年近くかかるとは流石に思いもしなかった。
こんなのが恋なら、僕はまだいいかな、なんて思ったりもしてしまって。
英二は今日も話しかけられずに彼女の後姿を眺めている。
2003年2月9日