026:The World
「・・・・・・・・・世界というのは意外と狭いものなのだな」
「全くだね」
「いつ何時どこで誰に会うか判らないのが人生とはいえ、イキナリのこの仕打ち。神様は我々を試しているのではないか?」
「全くだよ」
そんな会話を交わす西城敦と。
場所は日本国東京都新宿区新宿三丁目。某大手本屋の別館二階。
西城の手には最近ハリウッドで映画化されたアクションものの原作があって。
の手には経営学に関するハードカバーと時代物の小説が一冊。
趣味が読書(これはいわゆる無趣味とも言う)のはともかく、その行動から本とは無縁と思われている西城の二人は、意外や意外に本屋めぐりをよくしたりする。
今日もその一環。たまの日本での休日をのんびりして過ごそうとしていた矢先の出来事。
目当ての本を得て、じゃあサッカー雑誌でもチラリと見て帰ろうかと思い足を向けた先にいた人物は――――――・・・・・・。
ふわふわの髪に可愛らしいお顔のどう見ても美少女な少年と。
刈り上げた黒髪に白い肌に細い目のアジアンビューティーな少年と。
年齢にそぐわない体格と雰囲気とを備えたまとめ役な少年と。
短髪黒髪で泣きホクロの少年と。
その少年と争うように何かを言い合っている茶髪でロンゲの少年と。
他にも色素の薄い髪に細い目の少年や黒髪つり目の少年、ふんわり茶髪の少年に色黒な少年、ドレッドの少年、カチューシャの少年、エトセトラエトセトラ。
合計で20人。いないのは怪我を治すために異国へと渡った少年だけで。
「・・・・・・・・・クン。君は我々が帰国していることをこの内の誰かに告げたかね?」
「告げてたら帰国してこの5日、こんなに穏やかな日々は過ごしていないよ」
思わずため息をついてしまったを誰が責められるのか、とにかく西城も疲れたように肩を落とした。
「やはり。クンと同じように静寂を尊ぶ西城も誰にも告げてはいないつもりだ」
「じゃあやっぱり神様が俺たちを試しているのかもしれない」
「または我々のダッシュ力を鍛えようとしているのか」
「どちらにせよ唐突な話だね」
「まずはこの手にある購入するはずだった本をどうするかだな」
「本屋は世界各国にあるよ」
「同意見だ」
滑らせるように一歩後ろへ下がって。
本来はあった場所に戻すべき本を近くの棚に置いて。
すまない店員諸君、と西城が小さく呟いた。
しかし動くものに反応するのが動物というもの。
微かな動作を目に留めたのか本能的に鋭いらしい少年たちが振り返った。
主に美少女少年、アジア系ビューティー、年齢偽証疑惑のキャプテン、そして最も動物らしい泣きホクロの少年。
そして一同は目を輝かせ――――――。
「逃げるぞっクン!」
「改札を定期で通り抜けられる彼らに対して電車は不利だよ」
「ならばひたすら体力の限界に挑めというのだな! 何て殺生なのだ神様は!」
「ここであったが100年目という言葉もあるくらいだしね」
「武士は食わねど高楊枝という言葉はどうした!」
「このケースにはちょっと違うよ」
「そんなことは判っておる!」
階段を三段飛ばしで駆け抜けて。
『逃げた!』という叫びと共に聞こえてくる大勢の足音に一層走る足を速めて。
掴まれば終わり、そんな言葉が二人の頭を過ぎった。
「世界が狭いと言ったのは西城だったよね?」
「――――――そうだ! 訂正するぞ! 逃げ回るには世界どころか新宿は広すぎる!」
「果てがないんじゃどこまで逃げても逃げられないよ」
「ならやはり体力勝負か!」
「プロが負けるわけにはいかないな」
「上等っ!」
新宿の街を追いかけっこ。
どこまで行けば逃げられるのか。
人数で攻める少年たちが捕まえられるのか。
それは誰にも判らない。
「・・・・・・このまま家まで走って帰れそうだね」
「新宿から青山までか!? 何キロあると思ってるのだ!」
「じゃあ大人しく掴まる?」
「それもゴメンだ! 何をされるか判ったもんじゃない!」
こうしてどこまでも続く追いかけっこ。
世界は人と再会するには狭すぎて、逃げすぎるには広すぎるのだった。
2002年12月10日