023:パステルエナメル





「――――――悪いけど!」
常にはない荒い声ときつく掴まれた腕に跡部は振り返った。
そこには自分と同じ血を引く、愛しい従弟の姿があって。
いつもは冷静な瞳が炎を燃やして跡部の前にいる女を睨みつけていた。
そして日頃は決して見せない色気のある表情で艶やかに笑って。
思わず、見惚れる。
「アンタくらいの女で景吾が満足するわけないだろ? 俺みたいな美人がそばにいるんだからさ!」
その台詞に目を剥いたのは言われた女だけではなく、跡部もだった。



黙々と道を歩いている少年二人。
一人はまっすぐにズンズンと足取りも荒く突き進んで。
もう一人は彼の後ろ3メートルの位置を軽い足取りでついていく。
彼らの間に会話はない。
しかし、前を行く少年が突然キレた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ウザイっ! いつまでヘラヘラしてんだよっ!!」
バッと振り向いたに跡部は最高にご機嫌な笑みを浮かべていて。
「嬉しいんだから仕方ねぇだろ。何たってオマエが嫉妬したのなんて初めてだしな」
「嫉妬なんかしてないっ!」
「アレのどこが嫉妬じゃないんだよ」
「うるさいバカ景吾!!」
いつもならバカと言われて言い返すところだが、今の跡部はご機嫌すぎてそうする気もないらしい。
それが判ったのかはカーッと顔を赤くしてまたズンズンと歩き始める。
そして跡部はその後をついていって。
の顔は真っ赤だったけれど、跡部の頬もうっすらと赤く染まっていた。



「なぁ」
「・・・・・・・・・」
「オイ」
「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・何」
後ろからかけられる声にはようやく返事を返した。
まだ赤い顔は見られたくないので、振り向きはしなかったけれど。
やけに弾んだ声と、そう調子付かせてしまった自分を恨めしく思いながら。
「オマエ、俺のことを少しは好きだって思っていいんだな?」
「・・・・・・・・・勝手に思ってろ、バーカ」
「じゃあ思わせてもらうぜ。は跡部景吾を愛してるってな」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ざけんなっ! 捏造も大概にしろ!!」
ワナワナと拳を震わせて、それでも振り返らない従弟に跡部は楽しそうに笑う。
「オマエが言ったんだろ? 『勝手に思え』って」
「俺は景吾より・・・・・・・・・ジローの方が好き」
「・・・・・・・・・・んだと?」
「可愛いしフワフワだし、何より俺を襲ってこないし」
「・・・・・・・・・」
「キヨも好き。明るいし楽しいし俺を襲ってこないし」
「・・・・・・・・・」
「手塚も好き。色々本読んでるから話が合うし、不二や越前から守ってくれるし」
「・・・・・・・・・」
「樺地も好き。静かだし、人の気持ちをよく考えるし、景吾のお守りをしてくれるし」
「誰がいつお守りされてるって?」
「いっつも毎日。樺地も不憫だよな。景吾と同じ時期にテニス部に在籍してしまったばかりにこんな目に遭って」
「・・・・・・うるせぇよ」
先ほどの上機嫌はどこに行ってしまったのか、最愛の従弟に他の男が好きだと言われ、跡部の顔が不機嫌に歪む。
逆にはだんだんと機嫌が上昇してきていて。
「つまり、俺は景吾のほかにもたくさん好きな奴がいるってこと」
まだ赤い顔で振り向くと、ははにかんで笑った。



「景吾のことも、当然好きだけどな?」



往来にも関わらずを抱きしめて濃厚なキスをしかけ、当然のごとく跡部が撃沈されるのはこの30秒後。





2003年1月12日