022:MD





手の中には一枚のMD。
先日同じミュージシャンが好きだと発覚した、同じクラスのへの贈り物。
自分の、そして彼女の好きなQUEENの曲を詰め込んだ。
彼女のために選んだ曲を、気に入ってくれるといいけれど。
司馬葵はそう思ってサングラスの奥の目を細めた。
今日で丁度一週間、MDは鞄の中で出番を待っている。



「はぁ!? 緊張して彼女に声がかけられないぃ!?」
大きな声で言われて、司馬は慌てて猿野の口をふさいだ。
部活後のグラウンド整備中、幸運にも近くに他の部員はいなかったようで。
司馬はホッと肩を撫で下ろす。
その様子に猿野は楽しそうに司馬の肩を叩いて。
「何だ、おまえもやっぱり男だったんだな! で、どうだ? 可愛い子なのか?」
俺には凪さんが一番だけど〜と続いた言葉など耳に入らずに、司馬の顔はだんだんと赤くなっていき。
仕舞いには耳まで赤くして俯いてしまった。
猿野はそんな司馬に呆れたように、でも微笑ましそうに笑う。
「そうかそうか、そんなに可愛いのか。上手くいったら紹介してくれよな」
それにも返事が出来ずにただただ真っ赤になる司馬に、うーん、と首をかしげて。
「でもさ、おまえ彼女と同じクラスなんだろ? 話す機会とかもあるんじゃないのか?」
最初の悩みにちゃんと答えてくれる猿野に、司馬はフルフルと弱く首を振って。
「・・・・・・ないのか。彼女がいつも友達と一緒にいるとか?」
コクン、と一つ頷いて。
「それにオマエ、喋んないもんな」
やはり、コクンと頷いて。
どうすっかなぁ、と猿野は頭をかいて夕焼けに染まった空を見上げた。



しかし猿野は気づいていた。
彼女にMDを渡す方法、そんなものは星の数ほどあるということに。
机の中に入れておいてもいいし、家の前で待ち伏せしたっていいし、司馬専用の通訳・兎丸に橋渡しを頼んだっていい。
それでも司馬がそうしない理由は、ただ一つ。
彼女と、直接話がしたいから。



「よし、判った」
猿野の言葉に司馬は少し赤みの引いた顔をゆっくりと上げた。
そこには自身満々の顔で笑っている相談相手がいて。
「凪さんに彼女を呼んでもらうように頼もう」
イタズラを思いついた少年のように得意げに笑って。
「同性の凪さんから言われれば彼女だって構えることはないだろうし、何より俺がそれをキッカケに凪さんと話が出来る! まさに一石二鳥!」
示された案を考えるように司馬は顎に手を当てて。
そうして3分後にゆっくりと頷いた。
「そうと決まれば膳は急げ! 行くぞっ司馬!」
持っていたトンボと共に猿野のバカ力で引きずられて、目指すはボールを片付けているマネージャーの元。
楽しそうに説明する猿野と隣で顔を真っ赤にしている司馬に、マネージャーもニッコリと了解して。



これでお膳立ては整った。
後は、司馬の覚悟だけ。
準備されたMDは明日こそその出番が来るのだろうか。
結果は、彼女と司馬だけが知っている。





2002年12月7日