021:はさみ
好きになれるわけないでしょう?
彼女は僕から君を奪ったんですから。
「・・・・・・・・・あんたのその思考回路、どうにかした方がいいと思うわ」
「余計なお世話ですね。こんな性格の僕でも君は親友と言ってくれている。だからいいんですよ、これで」
「はあんたのそういう面も知ってるわけ?」
「当然でしょう? もう何年親友をやってると思うんですか?」
「・・・知らないわよ、そんなこと」
「君が君を好きになる前から、君は僕の親友なんですよ」
小島有希が、悔しげに唇をかんだ。
大切な大切な大切な親友。
いつか誰かの恋人になってしまうことくらい分かっていた。
それが、まさかこんなに早くやってくるだなんて。
こんなに早く、唯一の人を見つけてしまうだなんて。
「・・・・・・・・・僕が女の子だったら良かったんですけどね〜」
「・・・・・・気持ち悪いこと言わないでくれない?」
「本気で言ってるんですよ。そうすれば堂々と君から君を奪えるのに」
「誰が渡すもんですか」
「まぁ性別なんて関係なく奪いますけどね。僕が、その気になれば」
「渡さないわよ、は」
「どうでしょうね〜」
ボールを蹴る後ろ姿。
相手FWを見据える鋭い眼差し。
呼吸を乱して走り回る体。
こうして見ていることも気づかないくらい必死に。
真剣にサッカーを。
「まぁいいですけどね。フィールド上の君は僕の親友なだけですから」
「フィールドを降りればは私の恋人よ」
「でも僕の親友でもあります」
「キスしてるときのは私の恋人なだけよ」
「・・・・・・・・・それってちょっと悔しいですよね〜」
「お互い様でしょ」
須釜寿樹は苦笑した。
ピーッとホイッスルが鳴って、フォーメーションを変更が言い渡される。
3バックから4バックになって、周囲との連携を確認して。
中央よりで守る姿。
その真摯な横顔がすごく好き。
すごく、好き。
「・・・・・・・・・先に言っておきます」
須釜寿樹はフィールドを見つめたまま口を開いた。
「君はサッカーを辞めません。辞めざるを得なくなるまで続けるでしょう」
「・・・・・・・・・」
「彼は必ず世界へと出て行く。そう遠くない内に」
「・・・・・・・・・」
「そのとき、君は一緒に行けない。君は君で目指している夢があるから」
「・・・・・・・・・」
「君と君は、離れなくちゃならなくなる」
「・・・・・・・・・」
「でも、僕はいつまでも君の隣にいる」
「君と君が別れたとしても、僕と君は永遠に親友ですから」
「だから君を泣かせたら許しません。そのときは、僕の全力をもってして君を君から遠ざけます」
「たとえ君がそれで悲しもうとも、もう二度と」
「小島有希を君には近づけさせません」
須釜寿樹は小島有希を見上げて笑った。
それは、親友には決して見せることのない種類の笑みで。
小島有希は眉をひそめて、ベンチに座っている相手を見下ろす。
本気なのだと、わかっていた。
「――――――――――スガ!」
駆けてくる姿に二人は視線をそらして顔を上げた。
「交代、次はMFだって」
「わかりました。じゃあ君はしっかり休んでて下さいね〜」
「あぁ、行って来い」
タオルとドリンクを渡されて、肩を軽く叩いて。
羨ましいと思ってしまった。
こちらを見て小さく笑った須釜寿樹を、憎らしいと思ってしまった。
「何の話してたんだ?」
不思議そうな顔をして尋ねてくる彼に。
親友は、楽しそうに笑って。
恋人も、嬉しそうに笑って。
「「決まってるでしょう?」」
二人で話す話題なんて唯一つ。
それさえなければ一生話なんかしなかったかもしれない。
だって、永遠の敵なんだから。
「君、この前言ってたロッサユースのビデオ持って来ましたから後で貸しますね〜」
「マジで? ありがと、スガ」
「いえいえ」
軽やかにフィールドへと走っていく須釜寿樹を何とはなしに眺めながら、小島有希はため息をついた。
「有希?」
さっきまで須釜寿樹の座っていたベンチに腰を下ろした恋人に、最上級の笑みで笑って。
「悔しいわ」
「?」
「だって、どう足掻いても負けてるんだもの」
「・・・・・・・・・?」
一生親友でいる彼と、一生恋人でいる自分と。
今後が同じ長さなら、やっぱり先に出会った方が長く一緒にいられるから。
「ズルイわよね、あいつ」
呟かれた恋人の言葉に、は首をかしげた。
2003年3月2日