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私は思った。
私のことが嫌いなら、私に近づかないことが一番なんじゃないだろうか、と。
「―――――――って思うのに郭君ってばいつも近づいてくるんだもん。そのたびに色々と言われてさ」
いい加減にしないと私も短気なんですけれど?
それとも彼は私を怒らせたいのか? それともイジメられたいのか? マゾなのか、郭君は。
「英士はさ、不器用だから」
「そうそう。普通に話しかければいいのに憎まれ口しか利けなくて見てるこっちが可哀想になってくるっつーの」
真田君は困ったように、結人は笑って言う。
ちょっと待て、結人。そのケーキは一体何個目だ?
そのチーズケーキの前にチョコレートケーキも食べてたでしょ? その前はショートケーキだったでしょ? その前も何か食べてたでしょ?
そして何故に真田君はアップルパイしか食べないのさ。しかもリンゴジュースとセットで。
そのうちリンゴみたいに真っ赤になっちゃうよ? それはそれで可愛いからいいけど。
「つまり郭君のあの態度は本意ではないと?」
「そうそう。英士もと仲良くしたいんだよ、本当は」
「でも英士だし・・・・・・」
真田君が暗く呟く。つーかフォークくわえたまま喋らないの、結人は。
それにしてもこのミルフィーユ美味しいわぁ。さっすがホグワーツのお菓子だけある。
「それならそうと言えばいいのに。いっつもケンカ腰だから郭君は私の中で完璧に敵なんだよね」
「・・・・・・・・・マジで?」
「うん、マジ」
郭英士は私の中で『攻撃してもいい人リスト』の上位入賞者。
ちなみに一位は言わずもがなの監督生お二人。ハッフルパフの渋沢さんとスリザリンの須釜さん。
この二人は『攻撃するときは遺言を書いてからリスト』のトップでもあったりする。
まぁ負ける気はしないけどさ、一応ってこともあるから用意しておくに越したことはないし。
それにしても結人と真田君。何でそんなに困ったような顔をしてるのさ。
「いや・・・・・・・・・ちょっと・・・」
「英士が可哀想でさー」
とか言いつつ結人は笑ってるんですけど。真田君は戸惑ったような顔してるのに。
君らの友情は何か? 正三角形ではないんだね?
「自業自得ってやつでしょ」
「それは確かにそうなんだけど・・・・・・」
「・・・・・・・・・真田君は優しいねぇ」
心配そうに眉をひそめている真田君が可愛くてそう言ったら、真田君は案の定真っ赤になって持っていたフォークを落とした。
口をパクパクさせて、耳まで真っ赤になって。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・マジで可愛い。
「、。俺は?」
「結人は却下。可愛いのは真田君だけ」
「じゃあ俺はカッコイイで」
「カッコイイのはうちの寮にいっぱいいるからもう定員オーバー」
結人も顔だけならカッコイイんだけどねぇ。いやさ、性格に問題あるわけじゃないけれど。
普通のお茶会でケーキを二桁数食べる男はもはや『カッコイイ』とは違うだろ。
「か、可愛いって・・・・・・」
ちょっと怒ったように言う真田君。でもそんな顔も可愛いだけだし。
「褒めてるんだって。私、可愛い子大好きだし」
「!!」
「あーっズッリーの! 一馬だけに大好きなんて言われてさ!!」
結人がギャンギャン文句を言ってる。
だから私は可愛いものが好きなんだって。真田君だってマッチョだったりしたら大好きなんて言わなかったと思うよ。
でも翼さんに可愛いって言うと100倍になって返ってくるから、今のところは言ってない。
でも心で言ってるのがどうやら伝わるらしく、翼さんはよく私をいじめてくるし。
『のほうが可愛いんだよ』とか言われても、軽く受け流すことしか出来ないんだよねぇ。
・・・・・・・・・あ、そういえば。
「郭君もさ、結構可愛いよね」
普通に感想を述べたら真田君と結人は見事に固まってしまった。
・・・・・・今のうちにワッフルを確保しておこう。だって結人、マジで食べすぎ。
これで3時間後の夕飯も全部食べちゃうんだからブラックホール並みの胃袋だって。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「ほ、本気か?」
結人は目を見開いて、真田君は恐る恐るといった感じで。
「本気だけど。可愛いじゃん、郭君」
「ど、どこらへんがそうなるのかお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「結人、無理しないで『英士のどこが可愛いんだよ!?』って言えばいいのに」
今の結人のモノマネ、自分でもよく似てたと思うんだけど。
真田君が目を丸くして、でもってちょっと笑ったし。可愛い子にはやっぱり笑顔が似合うよねぇ。
「理由はたくさんあるけど、たとえば素直に話しかけられずに憎まれ口を叩くところが可愛い」
結人は首を傾げて、真田君は眉間にシワを寄せて考え込んだ。
「授業中に質問されて正解したときに『どうだ』って感じで私を振り返るのが可愛い」
結人が頷いて、真田君は「英士・・・・・・」とため息をついた。
「ゆんゆんにからかわれて嫌そうな態度をとるけど、実は嫌がってないところが可愛い」
あ、今度は真田君も頷いた。
紅茶もなくなったし、ミルフィーユも食べ終わっちゃったし、もうそろそろお茶会も終了かな。
「英士って可愛かったんだ・・・」
真田君は妙に納得して。
「後は? まだあるんだろ?」
結人が瞳を楽しそうにキラキラさせて。
「そうだねぇ、数えればキリがないけど――――――・・・」
可愛い郭君は探せばたくさんいるけれど、・・・・・・やっぱりさ。
「そこの角で出るに出られずに話を聞いてるとこがさ、一番可愛いよね」
見えていたローブの端がビクって揺れて。
結人と真田君が驚いたように振り返って。
「英士!?」
「何やってんだよ、そんなとこで!?」
戸惑ったように動けないっぽくて。
後姿だけで判るよ。やっぱり郭君は可愛いんだってね。
だって耳まで真っ赤になってるんだからさ?
2002年12月23日