014:ビデオショップ
「やっぱり定番はホラーなんとちゃう?」
「サイコ殺人者のヤツ? それともビデオを見たら死ぬって方?」
「俺はどっちでもええで。リョーマはどうするん?」
「そうだね、俺もどっちでもいいけど―――・・・・・・」
「ダ―――メ―――ッ!! そんな怖いビデオじゃなくてもっと普通のにするのにゃ!!」
とリョーマが陳列されたビデオを眺めながら話していると、後ろから大声でダメだしされた。
現れた菊丸に後輩二人は振り向いて、そしてリョーマはニヤァと笑う。
「怖いんスか、菊丸先輩」
「ぎゃっ!」
「じゃあこの第六感が鋭い子供のにしません?」
「あ、それって死体の登場シーンが異様にグロイやつやろ?」
「そうそう。結構楽しいと思うんだよね、菊丸先輩の反応が」
「〜〜〜〜〜〜ッ!!」
声もなく顔を青くしていく菊丸に二人は笑う。
けれどそんな可哀想な猫を神様はお見捨てにはなられなかった。
「越前、も。今回はもっと明るいのにしないか? 英二だけじゃなくタカさんもホラーは苦手みたいだし」
大石の言葉には目をパチクリと見開いて。
「河村先輩も苦手なん? こういうの」
「うん・・・どっちかっていうと苦手かな」
「じゃあしょうがないっスね」
そう言ってリョーマが残念そうにビデオを棚に戻す。そうして黒系のパッケージが並んでいる列を通り抜けて。
「アクションは乾先輩と桃先輩と海堂先輩が選んでたし、恋愛系は部長さんと不二先輩が決めてたやろ? これでホラーがダメなら後は何があるん?」
左右に並ぶ膨大な量のビデオテープを見ながらが物色する。
「っていうか部長が選んだ恋愛物ってどうかと思うんだけど。アノ人もそういうの観るんだね」
「恋人とのデートに恋愛映画は必須やろ。いくら部長さんとて彼女の頼みは無下に出来へんやろうし」
「部長、恋人いないんじゃなかった?」
「それは言葉のアヤっちゅうもんや」
有名な童話のアニメを手に取ったり、ミリオンセラーの魔法使い物を指差したり、太平洋戦争の涙物を棚に戻したり。
一年生二人は納得のいくビデオを求めて狭い店内を歩き回っていた。
そして――――――・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・リョーマ、俺これ以上にええビデオなんてあらへんと思うんやけど」
「俺もそう思う。これなら誰だって興味あるしね」
「青少年の基本やろ。それでどないなヤツにするん?」
「部長は年上の人妻物とか好きそうだよね。乾先輩はちょっと道具とか入ったヤツ」
「不二先輩は言葉攻めとか好きそうやしなぁ。大石先輩と河村先輩はオーソドックスな隣のお姉さんやないの?」
「桃先輩は同じ年の女子高生ものだよね。海堂先輩は仕事場の先輩とオフィスで、とか?」
「菊丸先輩はアレやろ、美人女教師と危ない課外授業ってヤツ」
「はどうする? ロリータから同性愛まで色々と揃ってるけど」
「俺、そんなにアブノーマルな趣味はあらへんし。リョーマはやっぱり洋物にするん?」
「そうだね。親父が持ってるのはほとんどそうだけど、たまには邦画もいいんじゃない?」
「ほなコレにする? 金持ちの有閑マダムに飼われて仕込まれていく美少年もの」
「こっちの旅館で着物も捨てがたいけどね。両方借りようか」
「せやな、代金は俺らが出すんやないし」
「そうそう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・越前、」
呼ばれた声に二人して振り向いて。
見れば18歳未満お断りのゲートの向こうには眉間にシワを刻み込んだ自分らの先輩が立っていて。
顔を真っ赤にしている者、数名。ニコニコといつも通りに笑っている者、一名。何かをノートに書き込んで新しいルーズリーフを取り出している者、一名。
そしていつも以上に表情を硬くして眉間にシワを刻んでいるもの、一名。
とリョーマは顔を見合わせて、持っていたビデオテープを先輩へと手渡した。
「ハイ、部長さん。後は頼んますわ」
「手塚部長なら18歳だって言って十分通じるから、平気っスよ」
「俺らのセレクトやからなー期待してくれて構わへんですし」
「バッチリだよね」
自信あり気に言葉を交わす一年生Sに不二が吹き出して、それと同時に手塚の怒りも限界に達して。
「〜〜〜〜〜〜誰がこんなものを借りろと言った! 今すぐ返して来い!!」
店内中に響き渡る声で言い放った言葉にとリョーマは小さく肩を竦めあった。
そして部長の手からピンク色のビデオテープを数本取り返して、棚へと戻しに行く。
「あーぁ。せっかく選んだのに」
「部長さんも恥ずかしかったんやろ。それとも一人で観たかったんかな」
「借りるのがダメなら家から親父の持ってきてもいいけど」
「ほな、そうする?」
しかし部長に睨まれて、その計画も一先ず断念。
シリーズのアクション物を一本と、ニューヨークを舞台にした恋愛物を一本と、今子供に人気のアニメを一本借りて。
青学テニス部一同はビデオショップを後にした。
動揺の隠せない、未だ頬の赤い先輩たちを見てリョーマが肩をすくめる。
「まだまだだね」
後日、部活の先輩にビデオを貸してもらえないかと頼まれ、リョーマが持参したテープが部長に見つかり、またもや雷が落ちたとか。
とリョーマは顔を見合わせて小さく笑いあった。
2002年12月7日