005:釣りをするひと





武蔵野森中等部を卒業してもう7年。
俺は高校を出てすぐプロになって、今じゃ若手選手の中じゃ一番のホープなんて言われてる。
だけどさ、そんな俺でも昔を懐かしんだりもするわけで。
とりわけよく思い出すのは決まってあの子。
二年のとき、一度だけ同じクラスになった女の子。
―――――――――――さん。



『あ、もしもし誠二?』
「おー竹巳、久しぶり!」
『久しぶり。この前の試合見たよ。ナイスゴールだったね』
「まぁな!」
得意げに返事なんか返したりして。
高校まで一緒にサッカー部でレギュラーを務めてきた竹巳は、プロにはならずに大学へ行った。
しかも音大。ピアノ専攻。
竹巳がピアノを弾くのは知ってたけど、まさかこんなに上手いとは思わなかった。
今じゃコンクールでもたくさん賞とかもらってるし。
親友の俺としては鼻が高いって感じ。



会うことは少なくなってしまったけれど、その分よく電話で話すようになった。
お互いの近況や、キャプテンや三上先輩のこととかを話したりして。
そんなとき、竹巳が言った。
『そういや誠二、さんって覚えてる?』
出てきた名前に一瞬心臓が跳ね上がって。
「お、覚えてるよ。二年のとき一緒だったじゃん」
さんさ、高等部は武蔵森じゃなくて別の学校行ったよね。その後はまったく音信普通になっちゃってたけどこの前、偶然街で再会したんだ』
竹巳の言葉にゴクリと唾を飲み込んで。
「げ、元気だった?」
『元気そうだったよ。さん、高校卒業してからアメリカに留学したみたいで久しぶりに日本に帰ってきたんだって』
「アメリカ・・・・・・」
『そう。しばらくは日本にいるみたいだけど、春からは仕事を始めるからスペインに渡るって言ってた』
「スペイン!?」
『ホント忙しそうだよね。中学の頃と全く変わってないし、仕事も何かは教えてくれなかったけど情報関係だって言ってたよ』
中学の頃の彼女を思い出してか、電話の向こうで竹巳が小さく笑う。
・・・・・・・竹巳、仲良かったもんなぁ。俺なんか一時期二人は付き合ってるんじゃないかって思ったくらいだし。
「・・・・・・さん、綺麗になってた?」
『すごく綺麗になってたよ。髪も伸びてたし、何より大人っぽくなってた』
「・・・いいなー俺も会いたいなぁ」
『そう言うと思って連絡先聞いておいたよ』
竹巳の言葉に思わず俺は呼吸が止まって。
無言な俺に電話の向こうで竹巳がさっきよりも楽しそうに声を上げて笑ってるし!
「な、な、な・・・・・・!」
『何で判ったのかって?』
コクコクコクと無言で頷く。竹巳には見えないはずなのに、ちゃんと伝わったみたいで。
『だって誠二、中学のときの話をすると必ずさんのこと話してたし。もしかして自覚なかった?』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
『なかったんだ』
竹巳が楽しそうに笑ってる・・・・・・。ちくしょう! 何か悔しいぞ!
『じゃあ誠二は三上先輩のライバルになるんだね』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?
『三上先輩とさん、今でも連絡取り合ってるらしいよ?何だかんだいって仲が良かったし、あの二人』
「・・・・・・・・・・・・マジで?」
『嘘だと思うなら三上先輩に聞いてみれば?この時間ならマンションに帰ってるだろうし』
「じゃあな竹巳! また今度!」
勢いよく電話を切って、リダイヤルから三上先輩のマンションへと電話をかける。
トゥルルルルと繰り返すコール音がやけに長く感じられて。
あーもうっ! 早く出てくれよ!!
『・・・・・・・・・ハイ、三上ですけど』
あっ出た!
「三上先輩ズルイっすよ! 何で今まで黙ってたんすか! ズルイズルイズルイ〜!!!」
俺は年甲斐もなく騒ぎ立てて。
そんな、ある日の深夜遅く。



三上先輩に確かめることで頭がいっぱいになっていた俺は、竹巳からさんの連絡先を聞くのをすっかり忘れていて。
後日、竹巳が彼女とデートしたことを聞いてめちゃくちゃショックを受けるのであった。





2002年12月8日