004:マルボロ





赤と白のパッケージ。
その箱は見慣れている。服用したことはないけれど。
一体どうしたものか、と西城はその箱をつついてみせた。
「・・・マルボロ?」
シャワーを浴びた髪を拭きながら現れたにうむ、と頷いて。
「エディの忘れ物らしいのだが、当の本人は生憎と外出してしまっていてな」
「久しぶりに見たね、そのパッケージ」
「アヤックスのとき以来だな」
懐かしそうに煙草の箱をつついて。
13才、幼い頃の自分を思い出す。
とても恥ずかしくて、それでも少しだけ誇れる下積み時代。
「隠れて、一度だけ吸ったな」
取り出した白と茶色の円筒をもてあそびながら西城が笑う。
「中々上達できないときに、一度だけね」
苦笑しながら返すも、一本だけ取り出して。
「しかし西城はものすごく苦くてむせ返った記憶だけが鮮明に残っているのだが」
「肺に吸い込んじゃって大変だったよ。苦いし、辛いし」
「それでもう二度と吸わないと決めたのだったな」
幼い自分達には相応しくなかった代物。
けれど今なら。
今なら味わうことが出来るだろうか。
手の中にある、小さな筒を眺めて、口元を緩めた。



「必要ないな、こんなもの」
「うん、俺たちには無用の長物だね」



二人してポイッと軽く投げ捨てた。
それは綺麗な弧を描いてゴミ箱へと吸い込まれ。
と西城は楽しそうに笑う。
「第一スポーツ選手に煙草はご法度! 少しでも長く選手生命を続けたいのなら手を出してはいかんのだ」
「肺が真っ黒になるのも遠慮したいし、ましてやせっかく黄金の足で稼いだお金をそれに費やすっていうのもどうかと思うよ」
「よって我々には必要がないのだ!」
マルボロごと握りつぶしてゴミ箱へ。
それ本来の所有者であるチームメイトは素知らぬ振りしてかわすことにして。
もう一度二人は顔を見合わせて笑った。



煙草なんて必要ない。
今の自分達は逃げ道など求めてはいないのだから。





2002年12月6日