002:階段
トン、トン、トンと軽い音を立てて階段を上る。
その後にはコツ、コツ、コツというヒールの足音がついてきて。
少年は嬉しそうに笑った。
「どうしたの、君? 急に笑ったりなんかして」
尋ねてくる年上の女性に振り向かずに口を開く。
「いえ、嬉しいんですよ。玲さんとこうして歩けることが」
トン、と軽い足音が階段に響く。
「まるで夢を見てるようです」
呟いた言葉に女性は思わず苦笑した。
伸ばして触れた手は、少年から青年へと変化しつつある、細く骨ばったもの。
秘める力強さに、眩暈さえ感じて。
振り向いた少年に笑顔を浮かべる。
年の分だけ自覚している、自分に出来る最高の笑顔を。
「・・・・・・夢じゃ、ないでしょう?」
涼やかな声音に少年は驚いたように目を見開いた。
そして柔らかく笑う。
二人の間にある二つ分の階段が、夢を見ているかのように錯覚させる。
けれど、触れる熱は現実。
そっと、手を伸ばして。
静かに二人の影が重なった。
「―――――――――――いつか」
見つめ合ったままの距離で。
まだ夢は覚めないで。
見上げてくる女性に、出来る限りの笑顔を浮かべて。
「いつかこのくらいの距離になったときには」
そっと、左手を取って口づけた。
神聖なる薬指に。
確かな、熱をともして。
「必ず、攫いに行きますから」
待っていて下さいね?
今はまだ同じくらいの身長で。
未来の約束なんて夢見る以外には出来ないけれど。
それでも、いつか必ず。
その指に、永遠の約束を。
今はそのために一歩一歩駆け上がる。
確かな足音を聞きながら。
2002年12月6日