001:クレヨン
「くん、見て見て〜!」
練習前の部室で鞄から何かを自慢げに取り出した兎丸には振り返った。
そうして目の前に突き出されたものは。
「・・・・・・クレヨン?」
「そう! 僕、絵描くの好きだし買ってもらったんだ」
「何かすごい多いなー」
「75色だよ! 一番多いの買ってもらったんだ〜」
嬉しそうに笑う兎丸はスケッチブックを取り出して。
「だから一緒に描こ! ハイッくんの分!」
ビリッと破いて渡された画用紙に、さすがには首を傾げた。
「でももうすぐ部活始まるし」
「大丈夫だよ〜。ね、キャプテン。ヘーキですよね?」
兎丸が振り返ってキラキラとした目で視線を送る。
部室の机で部誌をつけていた牛尾はそれに苦笑しながらも頷いた。
「まだみんな来ていないしね。描いたら僕にも見せてくれるかな?」
「もちろんいいですよ〜。じゃあ僕はイルカを描こうっと」
「じゃあ俺はバラにする」
「何でバラ?」
「キャプテンに似合いそうだからー」
水色と赤のクレヨンを駆使して白い画用紙はカラフルに染まっていく。
二人とも楽しそうに笑いながら、絵を描いて。
「二人とも上手に描けたね」
揃えて並べられた絵にキャプテンはうんうん、と頷く。
「兎丸君のはイルカの動きがよく伝わってくるし、君のバラは本物みたいに綺麗だよ」
褒められた二人は嬉しそうに笑いあった。
「これは部室に貼っておこうね」
画鋲で空いていた壁に貼り付けると、殺風景な部屋もどこか明るく感じられて。
「もっと描こうよ!」
「オッケ。次は何描こうかなー」
盛り上がる兎丸とに牛尾は柔らかく笑って見守るのだった。
「・・・・・・・・・いつからここは幼稚園になったのだ」
視線の先には明るく騒ぎながらクレヨンで絵を描く園児が二人。
「俺が来たときにはすでにこうだったっちゃ」
それを見守って指導する保育士が一人。
「まったく、アイツラは十二支高校野球部のレギュラーという自覚がないのだ」
呆れたようにため息をついた。
しかし二人は知らない。
自分たちがその中に入って騒いでも何ら違和感がないだろう、と他の部員たちが思っているということを。
2002年12月6日